第35話 でも、最後に彼女と会話したい…
「君たちには、一つだけ忠告しておきたいことがある。それは、これ以上、僕の妹には関わらないでほしい」
学校近くにある喫茶店に、三人はいる。
店内には、そこまで人が多くはなく、空いている感じだ。
一件普通に見えるのだが、ところどころ、怪しい存在なのだ。
そんな中、この場で、その男性から妹とは距離を置いてくれとハッキリ言われたのである。
聞き間違えなんてない。
本当にそう言われた。
男性が示している妹というのは、クラスメイトの
今いる男性こそが、莉緒が以前言っていた兄のようだ。
まさか、こんな形で出会うなんて予想もしていなかった。
そもそも、なぜ、莉緒と付き合っていることがバレてしまっているのだろうか?
それが一番、恐ろしいことだ。
莉緒も言っていたが、本当に真面目そうな感じの人ではある。
普通に会社員として働いているのなら、なぜに、こんな場所にいるのか気になるところだ。
しかしながら、響輝の立場上、そんな発言をできるわけもなく、ただ話を聞いているだけだった。
「それで、そちらの子は君の妹ってことだね」
「はい」
響輝はチラッと隣の席にいる
「では、浮気とかではないってことでいいのか?」
「はい。そうです」
「……だがな。だとしても、莉緒と付き合うのはもうやめてほしい。莉緒が誰かと付き合うとか、まだ早いんだ」
スーツ姿の男性は、莉緒との交際を許すつもりはなさそうだった。
実のところ、莉緒とは別れるつもりでいる。
だから、素直に言えば済む話だ。
だがしかし、別れたとして、誰と付き合うかという話になりそうで他人の目線が気になってしょうがない。
莉緒と別れて、実の妹を恋人にするとか、この真面目な空間の中、言えそうもなかった。
現在、緊張感のあるやり取りをしている。冗談だと思われ、変な視線を向けられそうで、内心、ヒヤヒヤしていた。
「それで、別れてくれるか?」
「……は、はい」
「ん? 意外と素直だね。まあ、いいや、私も仕事で忙しいのでね。手っ取り早く話が済んで、こちらとしてもありがたいよ」
スーツを着こなした男性は、ネクタイを整え始める。
そろそろ、喫茶店を後にしようとしているのだろうか?
「話が長引いたら、色々な手段で交渉しようとしていたんだけどね。では、私からの忠告は以上だ。それで、君らからの意見はないのかい?」
「……はい、無いです」
「そうか。では、私はこれで失礼するよ。それと、ここでの会計は、私がしておくから。あとはゆっくりとしていけばいいよ」
男性は軽く笑みを見せ、席から立ち上がる。そして、仕事用のバッグを手に、店内の会計カウンターへと移動していくのだった。
会計を終えた男性は、何事もなかったように、喫茶店から立ち去って行ったのである。
「これでよかったのかな……?」
「多分……」
唯の問いかけに、響輝はただ頷くことしかできなかった。
実質、莉緒とは別れたことになる。
けど、これでよかったのかと、響輝は思う。
唯には、多分大丈夫的な感じに返答したが、やはり、気にかかることがあった。
莉緒の気持ちである。
彼女本人から、本当の心を聞いていないこともあり、なんとも言えない状況だ。
唯と付き合っていくこともあり、莉緒とは必然的に別れることになるのだが、最後に彼女と直接会話したい。
面と向かって、莉緒がどう思っているのかを知りたいのだ。
以前、莉緒は兄とはうまく言っていないと口にしていた。だから、可能性としては、兄から何か忠告を受けているかもしれない。
「お兄ちゃん、もう少し食べてからにする?」
「いや、俺、少し行ってくる」
「え? どこに?」
「莉緒のところに」
「今から?」
「ああ、やっぱり、ハッキリとさせておきたいことがあるんだ」
響輝は唯に、食べ終わったら、そのまま帰宅してもいいからと言い残し、喫茶店を後にする。
響輝は風を体に感じながら走り出した。
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