第44話 焼きイモ祭りは晴天です!
焼きイモ祭り当日。
神殿も今まで以上に活気づいている。修道士たちが食料を積んだ荷車を
私はピノ率いる神殿騎士に守られ、侍女のパロマと専属護衛のアベルと一緒に、神殿の馬車で広場へ向かっていた。
王宮の庭園でも焼きイモが振る舞われ、一般参賀が行われる。殿下とアンジェらは、そちらにいるのだ。ソティリオとフィオレンティーナは、ソティリオの家の領地で手伝いをするので、昨日の会食会の後に出立していた。
ちなみにもう一人の攻略対象のサムソンは、私が行く広場で普通に設営の手伝いをしている。今日も彼は裏方だ。私もそっちがいいなあ。
「お嬢様、絶対にお一人にならないよう、気を付けてくださいね。アベルも、お嬢様から離れないで」
パロマが真剣に私の目を覗き込む。
「気をつけるけど……、すごい人ね。もみくちゃにされないようにしなきゃ」
昨日は貴族から逃げるのに失敗して、囲まれてしまった。今日あんな風になったら、押し潰されてしまいそう。
広場にはたくさんの人が集まっていて、落ち葉を集めてイモが焼かれていた。
具だくさんのスープが火にかけられていて、テーブルでは混ぜごはんのおにぎりを握っている。台の下にある箱には、小さな茶色いパンが入っている。鉄板でギョウザも焼き始めていたり、イモだけじゃなくて色々あるね。
「神殿の馬車だ!」
「イライア様がいらっしゃったわ」
「イライア様、万歳!!!」
公園の端の木の間から、公園沿いを走る馬車が見え隠れ。それを見つけ他人たちから、ものすごい歓声と拍手を浴びせられつつ、馬車は公園にあるステージの裏に回る。
ステージには近付かないようロープが張られていて、騎士や兵士もたくさん配備されていた。
馬車が止まった先に簡易的な仕切りが作られていて、私は神殿騎士が並ぶ中、その中へ誘導された。
「我々はこのような警護は慣れていますから、警備はお任せください。ロジェ司教も同じ会場にいらっしゃいますよ、困ったら頼られるといいでしょう」
ピノはロジェ司教を信頼している。分かっているのだ、悪い人ではないだろうと。ただ、怖い人なんだよね。
「はい。しかし、すごい熱気ですね……」
「ステージで挨拶するんですよ、お嬢様」
パロマの視線の先には、楽団が入れる大きなステージがある。観客席はあるとむしろ危ないからと、撤去されていた。
「緊張するなぁ……」
「イライア様」
げんなりする私の後ろから、男性が名前を呼ぶ。これは、振り向くまでもなく分かります!
「ロジェ司教、お疲れ様です!」
思わず背筋がピッと伸びる。驚く私を、司教は笑顔で見ていた。
「義弟から伝言です。“イライア様の叔母上殿は、領地の衰退を嘆いておられて、こう言われた。自分に任せてもらえるのなら最善を尽くすし、イライア様のお住まいも新しく建てます。あの
ロジェ侯爵、もう確認したんだ。さすがに仕事が早いわ。焼きイモ祭りが終わったら、早々に手を付けるつもりかも。
パストール伯爵家の邸宅は叔母様にとって実家なのに、父が義母と再婚して家に入れてから、叔母は来られなくなっていたのよね。そういえば母が亡くなってから二回くらい、辛かったらウチにおいでと言ってくれていた。
あの頃は家を継ぐんだと思っていたし、母との思いでのある家から離れたくなかったので、丁重にお断りしたんだわ。
「頼もしいですね。領民の為にも、早く父から爵位を剥奪しないと」
「義弟に任せておけば、手筈を整えてくださるでしょう」
ロジェ兄弟は政治と宗教の両面から手が回せるから、本当に恐ろしいわねえ……。その分、味方としては頼もしい。
「イライア様、開会式が始まりますよ」
ピノに呼ばれて私とロジェ司教が振り返ると、ステージに男性が立ってあいさつを始めるところだった。ステージ前は人、人、人。とにかくたくさん集まっている。
「本日は晴天に恵まれ、焼きイモ祭りにふさわしい天気となりました。女神様の祝福を頂けたと……」
私が考えたあいさつと、最初の言葉が同じ!
変えた方がいいかなあ。やっぱり天気の話から入るのは無難だから、みんな考えるわよねえ……。
あいさつが終わり、司教のお話があり、それから歌手が出てきて聖歌を熱唱し、ついに私の番になった。緊張してガチガチになりながらステージの中央に立つと、拍手や歓声がけたたましいほどに鳴り響いた。
ステージの左右には神殿騎士が控えているので、乱入者でもいたらすぐに止めてもらえるよ。
「えー、へー、初めまして。風のない、焼きイモ日和になりましたね。焼きイモ祭りを楽しみにして頂き、ありがとうございます。女神様は全ての人が幸せになることを望んでおられます。焼きイモ祭りで、笑顔が多く生まれますよう。皆様に女神様の恩寵がありますよう、祈っております」
うわわ、もうちょっと考えてあったのに飛ばしてしまった。やっぱりカンペを持てば良かったな、しまりのないあいさつになっちゃったわ。私はそそくさとステージの袖に引っ込んだ。
マイクがあるわけでもないし、遠くまでは聞こえていなかったかな。それでも観衆は盛り上がっている。
開会式は無事に終了し、ついに焼きイモ祭り本番だ!
焼きイモはまだ焼いている最中。先にスープやパンなど、用意されていた食事が配られる。無料です。
屋台も並び、串焼きや綿あめの販売が開始された。あ、あれはチョコバナナ。たこ焼きがないけど、ケバブはある。五平餅っぽいのまであった。こちらは有料。
カゴに入れて、白い鳥も売っている。ただ、あれは放すためだけの鳥で、ペットじゃないよ。助けることで徳を積む、という意味のある、神殿の行事に見かける商売なのだ。ちなみに鳥は売り主の元に戻るよう、躾けられている。
みんな笑顔で、まさにお祭りという感じ!
ステージでは音楽の演奏が始まり、吟遊詩人の語りや歌が披露され、道には大道芸人が
そんな楽しい雰囲気の中、私は警備上の都合で馬車へ戻った。
私の周囲に、人が殺到しそうだったのだ。パロマとアベルがこっそり出て、チョコバナナと串焼きを買ってきてくれた。
わああん、お祭りが楽しめないわ!!!
反対側の席にはロジェ司教が、いつもの笑顔で座っている。みんながお祭りを満喫しているのに、お留守番をしていて、悲しくないのかしら。なんという鋼の精神。
「焼きイモ、そろそろ焼き上がりますかね」
会話がないのも辛くなってきたので、細く立ち上る煙を眺めながら、独り言のようにこぼした。
「そうですね。たくさん寄進がありましたので、この後もまだ焼きますよ」
私はもらった串焼きを食べながら、司教と会話を続けた。
「急な告知だったのに、とても盛り上がってますね」
「ええ、女神様の
不意に扉がノックされ、ロジェ司教が細く窓を開けて、神殿騎士から報告を受ける。すぐにまた閉められると、司教は私に向き直った。
「イライア様、皆に手を振ってあげてください。人の整理ができましたので、出発します。次の場所へ向かうと見せかけて、ほとぼりが覚めた頃に戻ってきましょう」
道にも人がたくさんあふれているから、馬車が通れるよう騎士や兵士を配置して、規制してくれてたんだ!
お祭り会場に飛び込める希望が出てきた!
実家の人たちが紛れる可能性もあるから、参加させてもらえないんだと諦めていたわ。私は馬車の中から、満面の笑みで手を振った。お祭りお祭り。
気がついたら、馬に乗って馬車の横を随行しているはずのピノがいない。
「……ピノ様は他の場所ですか?」
気になって、ロジェ司教に尋ねる。司教は意味深長に目を細めた。
「お祭り会場でご本人と気づかれないよう、これからイライア様には着替えをして頂きます。ピノ殿に護衛を務めて頂くので、彼にも私服を用意してもらっています。神殿騎士が護衛していると、イライア様と露見してしまう可能性がありますからね」
なるほど。会場で私だと分かったら、大変な事態になりそうだもんね。
……とはいえこれは、親密度アップ作戦では!? まさかロジェ司教が、こういう作戦に出るとは。
別の意味で緊張してきたわ……!
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