第2話 聖女認定されました
青クレについてまた話そうと約束して、部屋を出た。
しかしここは洗礼の間。一生に一度しか入れないと言われているのよね。
部屋に置いてあったように、豪華な寄進をして協会の支援者と認定されたら、神殿が許してくれた時だけ入れるようになる。
女神様がくださった回復チートで、稼ごう。
「どうでした、お嬢様」
「パロマ、首尾は上々よ。しっかり回復の能力を頂けたわ」
「これでまず一つクリアですね!」
侍女のパロマも、護衛のアベルも喜んでくれている。二人を生活させなければならないわね。持っていた数少ない宝飾品を神殿にいくつも渡したから、残ったドレスを売って生活費に充てましょう。
神官にお礼を告げて、神殿を後にしようとした時だった。洗礼の間を確認していた神官が、血相を変えて追い掛けてきた。
「お待ちください、イライア・パストール様! たった今、神託が下りました。女神様が貴女を聖女として認定し、位の高い神官しか入室できない神託の間に、貴女が望む時に入れるようにと仰っております……!!!」
……そこまでして青クレの話がしたかったとは。
まあ、同じファンとして気持ちも分かるわ。
「お嬢様、すごいですよ……! この国唯一の聖女です!」
パロマが興奮して、私の手を取る。
神官は詳しい説明をしたいからと、貴賓室に案内された。
ヒロインのアンジェラは、火山の噴火を止めて聖女の称号を得るのよね。それによって、平民だった彼女が王族とでも結婚できるようになるの。彼女が王子と結婚するには、火山の噴火を止めるトゥルーエンドを目指すしかない。
裕福な家に育った彼女は、両親がたくさんの寄付をして学園に入る。もちろん成績も優秀だからだ。魔法洗礼は、攻略対象の仲介で受けられるのよ。頼んだキャラの好感度が上がる。
ちなみに実際は、お金さえ払えば魔法洗礼なら誰でも受けられる。
イベントとして構成された、ゲーム仕様だったのかな。
「父であるパストール伯爵も鼻が高いでしょう! たしかご令嬢は、パンプロナ侯爵のご子息と婚約されているとか。侯爵は信心深い方で、所有する全ての邸宅に女神像を置いているほどです。神殿にも
……これだ。私は精一杯の切ない表情をした。
「……実は、昨日バンプロナ侯爵令息、ロドリゴ様に婚約を破棄されてしまいましたの……。義妹のモニカと婚約し直すんだとか。両親も喜んでいて、私はあまりの辛さに家を出てきたのです……」
「なんだって!?? いや失礼、聖女様になんという仕打ちを……!!! 行く当てがないのでしたら、神殿に身を寄せてください。ここでなくとも、大きな町ならどこにでもありますから。伯爵家と侯爵家には、神殿から聖女様を
「まあ、そんな大げさになさることはありません。女神様のお優しいお言葉で、私はすっかり元気になりましたの。それに、聖女だと分かれば私を
泣きそうな瞳で微笑む。健気な私、聖女っぽいでしょ。
神官達は
「ではご実家の伯爵家には、知らせずにおきましょう。まずは法王
これは後が楽しみね。お父様にはいずれ国王陛下から召喚状がくるわね。
好き勝手されないよう、その頃までに確固たる地位を築いておかないと。
「イライア様はご自宅には帰られないのですね? どちらにいらっしゃるか、お教え願いますか?」
「申し訳ありませんが、まだハッキリとは決めていません。南へ行こうかと……」
「失礼しました。聖女認定の儀は来年大々的に行いますが、聖女の身分を証明する、認定者の指輪をお渡ししたいのです。これがあれば、どんな貴族でも貴女を
思い出した。主人公ももらえるヤツだ!!!
教団のシンボルマークが宝石に刻み込まれた、猊下とお揃いの指輪!
「ありがとうございます、楽しみが増えました。でしたらやはり、居場所は決めておいた方がいいですね……」
私は侍女のパロマに視線を移した。先ほど申し出てくれたし、彼女の実家に身を寄せてもいいかしら。
尋ねる前に彼女は察してくれて、力強く頷いた。
「お嬢様には私の、モソ男爵家の館に滞在して頂きます。南のダンジョンを抱える、エストラーダ公爵家の土地にあります」
「モソ男爵家ですね。ではそこにお届けします。護衛が必要でしたら、兵を出しましょう」
そうだ、教団には騎士団があるんだわ。
権力者の命令だって跳ねのける、教団だけに仕える人達。伯爵家が追っ手を出しても、追い払ってくれるわ。私が聖女になったんだから、それこそ命に代えても守ってくれる。
「お願いします、道中が不安だったのです。失礼ですが、馬車もお借りできませんか? 伯爵家の馬車なので、魔法洗礼が済んで泊まる場所が決まったら、帰そうと思っていたのです」
「それは気が付きませんで、すぐに用意しますね。その間にお茶でもいかがですか?」
「ありがとうございます、頂きますわ」
神殿の来客用のお茶は、とても美味しい。
魔法洗礼で回復魔法が使えるようになったので、僧侶の職を得て、南の町に行って回復職として魔法治療院を開設し、僧侶の募集があったらダンジョンに潜る予定だと伝えた。
「……まさにお導きですね。ここだけの話なので内緒にして頂きたいのですが、実は女神様から、火山の噴火が近付いている、南のダンジョンの奥にある火山の女神ペレ様の祭壇で祈りと供物を捧げ、噴火を未然に防ぐよう神託が下っているのです」
「噴火だなんて、恐ろしい。事前に知れ渡りでもしたら、混乱が起きますね。誰にも言いませんわ。もし私にできることがありましたら、いくらでもお力添え致します」
もうそんな時期なのね。この流れだと、ヒロインのアンジェラとダンジョンに行くことになるかな。アンジェラは魔法洗礼で、何を選んだのかしら。
有意義な時間を過ごして、神殿を後にした。
伯爵家よりも立派な馬車を用意してくれたから、道中も楽ちん! 護衛の騎士は三十人もいる。全員が馬に乗り、私が乗る馬車の前後左右を死角なく守ってくれる。偉い人になった気分だわ。
神殿が付けてくれた護衛団長の名前は、ピノ・アクイナスですって。ピノも私達の馬車に乗っている。
ピノ。前世で好きだったアイスと同じ名前! ピノ食べたいなあ……。
「……俺が必要なくなっちゃいますね」
「いやねアベル、貴方が一番近くで守ってくれなくちゃ! 貴方は私の騎士なのよ」
「ありがとうございます」
アベルが自信を無くしそうよ。オラクルナイツという、神殿の精鋭を寄越してくれているから。
「同行している間だけでも、アベルも訓練を受けさせてもらったら? 伯爵家は、あまり環境が良くなかったでしょう」
高位貴族ならどの家も騎士団を抱えて護衛をさせるけど、お父様は金がもったいないと人員も設備も減らして、備品の補充も満足にしていなかったもの。
その分が義母や義妹に消えていたと思うと、腹立たしいわ。
真面目に働いてくれている人達に、なんて仕打ちなの!
「ご迷惑になるだけでは……」
休憩の時に護衛団長にお願いしたら、快諾してもらえたわ。聖女である私の直属の騎士として、アベルを敬ってくれていた。
「あ、そうだ。聖女として正式に認定されるのは、来年の認定式の後なのよね。まずは僧侶だから、僧侶のローブを買わなきゃ」
衣服は最低限で済ませようと諦めていたけど、パロマのモソ男爵家のお世話になるから宿代が無料だし、移動する費用は食費を含めて神殿が支払ってくれる。ローブを買う余裕ができたわ。
「では防具屋に寄りましょう」
近辺に詳しい護衛団長のピノに、行き先はお任せした。
草原の先には、森が広がっている。あの森沿いの道を進むと、大きな町があるのだ。そこで防具屋に寄ってもらうことになった。
滅多に来ない神殿の印が入った馬車に、精鋭オラクルナイツの護衛。町の人々が興味津々で、みんなこちらを振り返る。
「み、見られてますね……」
「さすがに緊張するわね。堂々としないと」
「お嬢様が聖女だと知れ渡ったら、こんなものでは済まないくらい注目されるんですよね。私も今から心臓を鍛えないと……」
考えていなかった。下手すると、どこへ行っても注目の的だわ。モソ男爵家に着いたら、男爵家の馬車を使わせてもらおうっと。
さすがピノは威風堂々としている。
神殿の騎士がエスコートしてくれるものだから、防具屋の店員は驚いて店長を呼んだ。奥から店長が、何事かと上着を着ながら慌てて出てくる。
「これは……オラクルナイツの騎士様! いらっしゃいませ、こちらのお嬢様のお供ですか? お嬢様は何をお求めでしょう?」
「神殿で魔法洗礼を受け、回復の力を得ました。僧侶のローブを見せてください」
「それでしたら、いいものがございますよ。どうぞ、奥のお部屋でお待ちください」
店長が店員に指示し、奥にある応接室に案内された。テーブルにソファー、壁には高そうな盾が飾られている。
コーヒーに、クッキーやフィナンシェなどのお菓子がすぐに運ばれてくる。ありがたく頂きながら、茶色い壁で囲まれた室内を眺めていた。
「お待たせしました。こちらはいかがでしょう」
店長に続いて、一つずつローブを持った店員が三人、部屋に入ってくる。
オレンジ色の
次は
最後は鮮やかな朱色のローブ。胸の上までを覆い、片腕だけ通す仕様で、袖がくるぶしに届くほど長い。金で龍や花の刺繡が入って、かなり華やか。下に着る黄色い服の袖は、膝丈くらいの長さ。
……これ、
最初のはチベットラマ僧仕様。
私、ドラクエの僧侶とかクレリックを想像してたわ。予想外……!
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