第4話 女神様の質問コーナー
神殿が派遣してくれた護衛騎士団長、ピノ・アクイナスの案内で、私達は男爵家に近い大きめの神殿に来ていた。
護衛団長が挨拶すると、修道士達は恭しく私達を三角屋根の建物の中へ案内してくれる。そして大聖堂で祈りを捧げる一般人を横目に、奥へ案内された。途中の神官達の祭服や祈りの道具が置かれる、
一番奥の小さな祈りの部屋が、神託の間だ。
もちろん許しがなくては入れない場所。しばらく手前の部屋で待たされた。
ようやく神殿を預かる司教がゆっくり現れ、騎士団長が仰るならと気が乗らない様子で、私を神託の間に通してくれた。私への態度が悪いと、侍女のパロマと専属護衛のアベルが不機嫌よ。
ちなみに司教は、この教区を統括している偉い人。
神託の間で一人にさせてもらい、真っ白な女神像に向かって指を組んだ。
女神様、現れてください。
間もなく天井を突き抜けて金色の光が差し込み、女神像がゆらりと揺れた。次の瞬間、雲の上にいるような景色に包まれた。実際は全く動いていないんだろうな。
『やっほーイライア! 青クレの話しよ!』
明るい声とともに、輝きに包まれた女神様の姿が女神像の前に重なる。
「その前に、回復魔法について教えてください。なんで
先日会ったばかりなのに、テンションが高い。第一声が青クレだとは。
けれど、まずは確認を済ませないと。
『病気も治せるわよ。病気を治す呪文は、後半ね。ところでコレ、般若心経っていうの? クールジャパンって感じよね〜』
女神様が日本大好きな外国人観光客みたい。漢字が書かれたTシャツを渡したら、意味が解らなくても喜んで着てくれそう。
般若心経が万能の呪文だと思っているのかしら。
「アンジェラ・ロヴェーレって、どのルートを選びましたか?」
アンジェラは青薔薇のクレッシェンドのヒロイン。これからきっと、モヘンジョ・ダロウのダンジョンにやってくる。神殿が私を紹介して、回復役としてパーティーに勧誘されるに違いない。
『王道の王子様ルートよ! 私が一番好きなルート。ダンジョン攻略、手伝ってあげてね』
「やっぱり王子ルート……! 火山が噴火したらただ事では済みませんからね、もちろんです。メンバーに選ばれればですけど」
ダンジョンを攻略して火山の噴火を止めるのは、ゲームではトゥルーエンド。学園の最後の実技試験で一位を取り、メンバーとの友好値も規定以上ないと行れないのだ。
他の貴族ならまだしも、王子ルートで恋人になるには聖女にならなければ、平民であるヒロインのアンジェラでは身分的に認めてもらえない。真のエンディングだけで、王子と結ばれるのよ。
ちなみにノーマルエンドでは、火山の噴火は神殿が防ぎました、で終了する。
『選ばれなかったら、啓示を降ろすね~。隠しキャラにも先に会えちゃったね』
「隠しキャラ……ですか?」
啓示が軽いなあ。
隠しキャラがいたのは知ってるわ。でも攻略本を見ずにどこまでやれるか、というプレイをしていたから、隠しキャラが誰か知らない。攻略本を見て本格的に全エンディングを揃えようと思ったら、死んじゃったのに違いない。
この先の記憶がぷっつり途絶えているもの。
ゲームの内容をうっすら思い出しただけで、家族や境遇についてはほとんど記憶が無い。でも、コレで良かったのかも。戻れないものね。
『そーそ、ピノ君。火山噴火を止める際にキャラが弱いと、神殿側が派遣してくれるの』
「ネタバレ……! そんな救済システムが……。レベルを十分に上げてから挑戦するから、全然知らなかった……!!!」
神殿の護衛騎士団長が、隠しキャラ……!!!
私に付いて来てくれちゃって、良かったのかしら!?? まあいっか、洞窟近くのこの町にいれば、いつでも駆け付けられるわね。
そうだ、他にも疑問があったんだ。せっかくだし尋ねておこう。
「ところで私、なんで婚約破棄されたんですかね……? ヒロインが王子ルートだったら、私は関係ないですよね?」
『う~ん……、ゲームを参考にした世界ってだけだからね。みんなシナリオじゃなくて、それぞれの思惑があるのよ。目下の一番の問題は火山の噴火を止めなきゃならなくて、その障害になるような問題は起きてないわね』
つまり、ゲームと同じ人がいても、イベントが起きても、実はゲームとは関係ないのね。女神様は世界の存続に関わらない問題には、基本ノータッチみたいだ。
もしかして、ゲームだと処刑だし、婚約破棄されたら修道院送りくらいにはなるに違いないと逃げたけど、早計だったのかしら?
家族を思い浮かべてみた。
……やっぱりやるわね、あの人達なら。前妻の娘で、長女の私が邪魔なんだもんね。義妹とその相手に家を継がせたいんだろうな。
私を追い出したところで、義妹が養子になっても継承権がないって、忘れてるのかしら。この世界にはDNA鑑定がないし、婚姻期間以外に生まれた子供は養子にできても、実子としては扱われないのだ。
なので義妹のモニカは、お父様の本当の子供でも継承権がない。
爵位の継承権は、私の次はお母様の妹になるのよ、実は。あちらの子は私より五つ下だけど息子だし、すんなり爵位を継げるわ。
私は聖女になれば神殿で暮らせるし、国から支援金がもらえる。爵位は叔母一家に譲ろう。
もし爵位を養子に譲りたいのなら、
今更どうあがいても、モニカは家を継げないのだ。
『ねえねえ、貴女は青クレの中で誰推し? 私はもちろんジャンティーレ ・ヴィットリー王子よっ!』
「私の推しですか……」
改めて聞かれると、難しいなあ。全キャラのエンディングを見ようと気合を入れていて、一番好きなエンディングはやっぱりトゥルーエンドの王子ルート。
でもラストの歌とアニメーションが好きだっただけで、キャラで推しというと……。
「うーん。基本的に騎士系が好きで、主従が好物です。王子の側近、ソティリオ ・ザナルディーですかね。婚約者のロドリゴも騎士の家柄でキャラクター紹介の鎧がかっこよくて、嫌いじゃなかったのに……。実物は残念な性格と頭でガッカリでした」
私の言葉を聞いた女神様は、ちょっと困った表情をした。
『あ~……、ごめんね。ソティリオは、婚約者と仲良くやってるわ』
「それでいいんですよ! 浮気者なんて、まっぴらごめんです!!!」
別に実際に付き合いたいわけじゃないし、婚約破棄が趣味じゃないもの!
『それなら大丈夫ね。今の流れだと、ダンジョン制覇はソティリオがメンバーになりそうよ。貴女のことが分かれば、婚約破棄したロドリゴを誘おうとは思わないでしょうね』
「アイツ以外なら誰でも良いですよ……」
女神様が放つ光が薄くなってきている。そろそろお帰りになるのかな。疑問も解けたし、これでまたこの世界で頑張れるわ。
『ゲーム以上に面白い展開にしてね、期待してるわ~』
「遊びじゃないんですよ……っ」
無責任な一言を残し、女神様の姿が消えた。部屋がスッと暗くなる。まあコレで普通の明るさなのよね。神様は光る習性があるんだろうか。
予定より話し込んでしまったな、どのくらい時間が経っただろう。
神託の間を出ると、司教様や一緒に来たみんなが扉を取り囲むように立って、私が出てくるのを今か今かと待っていた。
「お疲れ様です、お嬢様!」
一番に声を掛けてくれたのは、侍女のパロマだった。
「お待たせ。座って待っていても良かったのに」
「パストール令嬢が心配でして。大きな声も聞こえましたが、まさか何か悪い報せでしょうか……?」
司教様が青い顔をしている。言葉までは聞き取れなくて、余計不安を煽ってしまったみたい。
「申し訳ありません、興奮しただけなんです。実は、女神様から啓示を頂き、回復魔法の経典を全て読み解くことができました」
「回復魔法の、経典を……!???」
司教が声を張り上げると、近くを通りかかった神官見習いと、職場見学(でいいのかな)に来ていた神学生もこちらを振り向いた。
「素晴らしい……! 早速文字に起こして、普及させ……いや、許されるのか……? 女神様が、パストール令嬢をお選びになったでは……」
司教と神殿騎士であるピノが、啓示を粗雑に扱ってはならないのでは、と話し合っている。
「女神様は、回復魔法の普及が遅れているのを
それらしい言い訳を考えたから、納得してもらえたわ。
むしろ女神様ご本人が、ほとんどコレを読めないのよ……。聖書を翻訳したマルティン・ルターの気分だわ。
私のこれからの予定が決まった。
まずは男爵夫人の友人に、回復魔法をかける。
使用して試してから、神殿を介して私の名を出さず、完全翻訳版を発売する。一部しか解明されていなかったわけだもの、これは売れるわよ!
濡れ手に
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