第24話 ダンジョン突入
早朝に起きて、もう一度温泉に入った。誰もいなくて貸切り状態!
これで今日から頑張れるわ。
朝食を頂いたら、ついにダンジョンへ入る。ローブはチベットラマ僧仕様のものにした。鮮やかな朱色のローブで胸の上までを覆い、片腕だけ通す仕様で、袖がくるぶしに届くほど長い。金で龍や花の刺繡が入って、かなり華やか。下に着る黄色い服の袖は、膝丈くらいの長さ。
気分は異世界ダ○イ・ラマ法王猊下よ。紅茶花伝のミルクティーをちょうだい!
ちなみにダラ○・ラマ法王十四世猊下は、日本に来ると必ず飲まれるらしい。ネット記事にもあるのだ、コンビニでミルクティー片手に、揚げもののケースを笑顔で眺めていらっしゃる写真が。
宿の前からダンジョンまでの道すがら、集落の人が集まって旗を振ってくれていた。駅伝選手はこんな気持ちになるのかな。胸の奥がジワジワするわ。
ダンジョンまでは一キロメートルほどの距離で、馬車が通れない道なので、みんなで歩いて進む。攻略対象の一人サムソンと、ソティリオの婚約者であるフィオレンティーナもダンジョン入り口まで送ってくれる。
「ソティリオ様、無事にお戻りくださいませ」
「必ず成功させてくるよ」
「失敗しても良いんですわ、命の方が大事です」
普段は勝ち気のフィオレンティーナも、今日はちょっと気弱になっている。
これはアレだ、ギャップ萌えってヤツだわ。可愛く見えるよ。
ダンジョンの入り口には兵が配備されていて、今は誰も入れないようにされている。兵に私達の到着は知らされているので、ビシッと整列して待っていた。
簡単な挨拶を交わして、ついにダンジョンの大きな扉が開かれる。
「これよりダンジョン攻略を開始する。我々の目的は
おおっと全員が叫ぶ。
殿下、短く喋れるじゃないの。毎回こうならいいのにな。
挨拶と称して、人が倒れるまで話し続けるかもと身構えていたわ。高校の校長先生がそんな感じだった。整列した人達を目にして、ふと、体育館に集まっていたイメージがよぎったのだ。
ダンジョンへはまず殿下の護衛と灯りを持つ係が入り、周囲を確認する。
すぐに入っていいと合図があったので、入り口付近に魔物はいないようだ。私の側はピノを含めた護衛の神殿騎士五人、それからアベルを含めた荷物持ちが二人。私達を囲むように、護衛が守っている。
あと連絡用に、クダ使いの神官も一人、同行している。神殿騎士はクダギツネを預けてもらえないんだって。
「イライア様は戦闘ができませんので、絶対に前に出ないでください」
「むしろ怖くて出られませんよ」
ピノは私のすぐ近くで、他の神殿騎士に指示を出しながら進んでいた。
ダンジョンの一階は普通の建物の中のようで、地面が平らになっている。等間隔の灯りが壁にあるが、さすがにそれだけでは暗かった。
「出ました、魔物です! 全員気を引き締めろ!!!」
先頭を歩いている騎士が、振り返らずに叫ぶ。
暗闇の中からゆっくりと姿を現す、角の生えた牛の魔物。目が赤く血走りプクッと三頭身で、ゆるキャラみたいな可愛さがある。
ゲームの敵、アンガーモーモーだ。
真面目に戦っている皆様には悪いけど、笑っちゃいそう。
脇の細道からは、金色の大きなコウモリ、ゴールデンバットが現れた。一階はゲームと同じ敵なのね。
「空を飛ぶ敵だ、魔法を打て!」
「いいえ、私に任せて!」
アンジェラが素早く手裏剣を投げ、ゴールデンバットに二枚刺さる!
ゴールデンバットは地面に落ち、騎士達がとどめを刺した。手裏剣を抜いて、拭いてからアンジェラに返している。
なんだかシュールなものを見せられているなあ。
モーモーがまた現れ、今度は一緒にバケキャットまでいる。バケキャットはモーモーより小さな身体の、しま柄ネコの魔物。魔法弾を飛ばしてくる、一階の強敵なのだ。
……このゲーム自体が、けっこうヒドかったな。
魔法弾を神殿騎士のバリアー的なもので防ぎつつ、殿下やソティリオも攻撃に加わって退治していく。
素早いバケキャットが前線をくぐり抜け、私を目掛けて走ってきた。ちょっと身構えたものの、ピノが剣を抜いて立ちはだかり、一刀のもとに切り伏せた。
「……一階の割には敵が多いな。慎重に進もう」
誰も入らないから、増えたのかなあ。一階はあまり出ないはずなのよね。
しかし今のところ、このメンバーなら余裕だね。薄暗いのが怖いけれど、気持ちが楽になったわ。
「さあ進もう。暗き闇を切り裂く希望を、僕らは流れる星の如く運ばねばならない」
殿下はやっぱり殿下だわ。
「ジャンティーレ 殿下、素敵です」
アンジェラが殿下のすぐ隣で微笑んでいる。殿下の水色の髪が、灯りの中に白っぽく浮かび上がっていた。
「私の出番はまだ無いみたいですね」
無言のソティリオに話し掛けた。彼は前を見たまま小さく頷く。
「さすがに一階から回復するようでは、十階まで進めないだろう。しばらくは温存しておいて、ただしいつでも回復魔法を唱えられるよう、準備だけはしておいてくれ」
「はいっ。足を引っ張らないようにします」
本当に戦えないのって、私だけなんだよなあ。灯り持ちの人も、身を守るくらいの力はある人達だ。
誰か怪我しないかな~、とか不謹慎にも考えてしまう。役に立ってないのは私しかいない……! 仕舞いっぱなしの鉾先鈴が、リュックの中から、動く度にシャラシャラとくぐもった音を出している。
ちなみに三階まではここで警備していた人達が調査に入っているので、順路はハッキリと把握している。その先は危険度が増すから、引き返したそうだ。
私の出番は三階以降だな。順調に一階をクリアし、二階への階段を下った。階段の踊り場で食事を取ってから、移動する。ここは魔物が出てこない場所なの。みんな、まだまだ余裕がある。
二階も一階と同じ敵しか出なかったので、あっさりと進めた。
休憩して、三階に突入する。時間は夕方に差し掛かる頃かな。戦っている人達は、さすがに疲れているんではないだろうか。
「飛ばしすぎでは? 休まれた方が良いかと……」
「いや、危険の少ない低層階を早く済ませ、四階から慎重に移動する」
ソティリオが水を飲みながら答えた。
なるほど、しっかりと調査済みのエリアは手早く済ませるのね。道順も、今まで一度も間違えていない。
三階にはカミツキヒツジが出る。もこもこで可愛いんだよね……、って、カミツキヒツジの首が長い。女神様ー、これアルパカです!
「カミツキヒツジだ!」
だからアルパカです!!!
「
笑わないので精一杯だよ。肩が震える私に、ピノが優しく語り掛けた。
「ご安心を、イライア様には近寄らせません!」
「頼もしひです……!」
喋ったら笑いそう。ひーひー。
ちなみにこのアルパカ……ならぬ、カミツキヒツジは食べられる。アンガーモーモーも。王宮の騎士が血抜きをして、お肉の塊へと変えてくれた。神殿騎士は教義に反するとかなんとかで、魔物の解体はしないよ。
襲ってくる魔物を何度も倒していくうちに、出てくる頻度が減ってきたよ。今のうちにどんどん進もう。
「イライアさん、知ってます? ダンジョンの魔物って、どれだけ倒しても出てくるじゃないですか」
アンジェラがいたずらっぽい笑顔で寄ってきた。怖がっているように見えた私を、励ましてくれるのかな。
「……ええ、そうですね。不思議ですよねえ」
「集落には、アンガーモーモー専門の狩人がいて、モーモーが食材として
「確かにいつでも狩れる獲物って、食糧の供給が安定していいですね」
山に猟に入るより、確実に捕まえられて便利だわ。
「モーモーハンター、略してモーハン。人気らしいですよ」
モーハン。別のゲームが始まりそう。
周囲を警戒する張り詰めた騎士達と、私達のテンションが全然違うなあ。
「そ、そうなんですか。おいしいお肉を
「ねー、お肉は正義!!!」
三階もキレイな通路が続くダンジョンで、これまでより分かれ道が増えた。
これからが本格的なダンジョン攻略だ。お笑いもここまで……と言いたいけど、何があるんだか予想できないな。
だんだん女神色が濃くなりそうな予感。
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