第22話 女神アバター
ベッドで眠っているはずなのに、天井から降るように女神様の声がしている。まだ明日も馬車に揺られるんだし、休ませてほしい。
「聞こえてますよ。夢ってことは、私は眠っているんですか?」
『そうよ……、貴女の夢をジャックして……す!』
「ずいぶん遠い感じがするんですが、どこにいらっしゃるんですか?」
『いる場所は変わらな……よ。ザザ……んでんの女神像から繋がるようにな……て、言うならばスマホの基地局……いな……』
つまり電波塔が遠くて通信状態が悪い、と。
女神様に会うたびに、ありがたみがなくなるなあ。
「女神様と繋ぐのも、神殿の役割なんですねえ」
『そう……あ、これ使……』
「これ? なんですか女神様、何かあるんですか?」
返事の代わりに、ジジジ、ザザァとノイズだけが流れている。周囲は薄ぼんやりした白い空間だ。私の夢なんだから、綺麗な景色とかに変わらないかしら。頑張って想像してみたものの、周囲に変化はない。
仕方なく待っていると、濃い霧に小さな影が浮かんだ。
『どう、これなら会話しやすいでしょ!』
三頭身の、ゆるキャラみたいな侍の登場。新選組のような模様のピンクの羽織りに、ポニーテールで二本差しの女の子。背は私の肩くらい。
「アバター……ですか? ネットゲームでもしてたんですか?」
『そうそう、
ヴィシュヌ神のお手製
女神様って、他の神様に色々頼っているなあ。ヴィシュヌ神の名前まで出てくるとは。
「マナーのいい人ばかりではないから、大変では?」
ネットゲームのプレイヤーに、本物の神様が
『うっふっふ、神に失礼をしたらリアルで罰が下るわ。同じ目に遭うとか』
もしもネットゲームでそうとは知らず神様の操作するキャラを殺したら、殺人事件の被害者になるのか……。ヒドいだましの手口だ。
それにしてもアバターを使うだけで電波問題が解決するとか、むしろおかしくない? これが神様の力……? 移動基地局みたいな?
もっと別の、人の役に立つことに力を使えないのかしら。
「ええ~と、それでご用事ですか?」
『そうそう、この前の魔法に力を吹き込んでもらえた! もう使えるよ』
「ありがとうございます、ダンジョンに間に合っちゃいましたね!」
ダンジョン攻略が終わったら翻訳して売ろうと思っていた、新たな収入源。どんどん魔法が増えるね。
そして全て元ネタが日本という。
女神様アバターは、万歳をして喜びを表現している。
『ジャンティーレ王子とアンジェラ、いい感じだね~。ダンジョン楽しみ~』
「……そうですね、お似合いのカップルです」
王子に合う人は彼女しかいないんではないか、というくらいお似合いだわ。女神様、王子がアレでもいいらしいな。守備範囲広いなあ。
『あとね、ペレに祭壇に行くよ~って報告した』
「捧げもののリクエストとか、ありました?」
必要なものがあれば、まだ間に合うわ。
『うまいもん食わせろ、肉!!! だって。なんで祭壇を立ち入り禁止の場所にしてるのよ、アンタが頼むから出張してんじゃないのって怒られた』
そりゃそうだわ、せっかくの祭壇がダンジョンの一番奥で、危険だから封鎖されているなんて。しかもお願いされてこの世界まで来てくれるのに……。ゲームの設定の為に、情を捨て過ぎでは。
しっかりおもてなししたいけど、場所的に難しいな。
「お肉ですね、分かりました。それと、祭壇を外にも作りましょうか? 分け
『そうだ、別に祭壇は一つじゃなくていいもんね~! そうしよう』
火山の女神様の祭壇については、神殿の人と相談しよう。造物主である女神様からの要請だと伝えれば、却下されたり異端の疑いをもたれたりはしないだろう。
「それにしてもお肉かあ……、祭壇まで日数がかかるみたいなんですよね。もつかなあ」
『ダンジョンにはシカが住んでるよ』
「ダンジョンでお肉を調達してもいいかも知れませんねえ。新しい祭壇を作ってから、改めて他のお肉を捧げて……」
『私はお肉よりおスシが好き〜。タピオカミルクティーも気になる』
いい加減にしろ、と言いたいけど、レゴブロックの人形のような張り付いた笑顔の三頭身アバターが、手振りを加えながらお喋りする姿は妙に可愛い。
タピオカもネットで見たんだろうか……。
この世界にも売っているよ。ミルクティーに入れる文化はなく、ココナッツミルクだった。コーンも入っている、タイ式スイーツだったな。
「ダンジョンが終わらないと、何もできませんがねえ」
『ちゃちゃっとやって来ちゃってよ。お肉も忘れず……』
「お肉ですねえ……」
『王子と……ロインも……仲良く……ように』
声が遠くなってきた。そろそろ限界かな?
『焼くなら……焼きイモ……』
唐突にアバターが後ろにのけ反って攻撃されたようなリアクションを取り、シュンッと消えた。最後は倒された設定で消えるのか。
最後の焼きイモはなんなの? お肉を焼いて捧げるなら、自分にはイモを焼けという意味なのかな。
「……うさま、イライアお嬢様!」
身体が揺れる。ああ、ここは現実の世界だわ。
「……ふぁ……パロマ?」
「大丈夫ですか? 何度も声を掛けましたが、お返事がないので心配しました」
女神様と会ってたからなあ、精神が切り離されていたのかしら。
あの女神様だから、二度と目が覚めませんでした、とかありそうで怖い。
「ありがとうパロマ……、大丈夫よ。まだちょっと頭がゆらゆらするけど」
「お疲れが出たんでしょう、朝食はこちらにお運びします」
「そうしてもらえる?」
神殿でご神託を受けた時は、頭も身体も異常が無かった。
今回は遠いから、こちらに負担があるのかしら。すぐに立ち上がったら転びそう。もう少しベッドで休んで、ありがたくここで食事させてもらおう。
「ではすぐにご用意します、お肉を追加しましょうか?」
「お肉……?」
「うわ言でお肉、お肉と呟いていましたよ」
「それは関係ないやつー!」
女神様のせいで恥をかいた!!! よりにもよって、肉、肉と口をついていたなんて。食いしん坊みたい……。
パロマはクスリと笑って、食事の用意をする為に廊下へ出た。
明るい日差しが窓から差し込んでいる。時計を見たらもう八時近いので、みんなは食べ終わっているかも。
急いで食事を済ませて、出掛ける準備をしないと。あ、顔も洗ってないわ。置かれていた水桶で顔を洗っていると、戻ってきたパロマがタオルを差し出してくれた。
「お食事は宿の方が運んでくださいます。他の方々は食後のコーヒーを頂いていましたよ。皆様が心配されています。調子が悪いようでしたら、出発を遅らせますか?」
「大丈夫よ、実は夢で女神様のお声が聞こえてね。祭壇に肉も捧げるようにって」
「女神様が夢の中に……!? それで肉と
「よろしくね」
来てすぐ戻ることになって悪いけど、任せておいてご飯を食べちゃおう。パロマと入れ替わりで、宿の人達がテーブルに準備してくれた。
イングリッシュマフィンにベーコンとぷるぷるのたまごを乗せ、黄金色のオランデーズソースをかけたこの料理。
エッグベネディクト! うわあ、この世界にもあるんだ。サラダとミニトマトが添えられていて、食欲をそそる。田舎の宿と
楽しい食事を終え、馬車に移動する。出発の準備は既にできていた。
「おはようございます、イライアさん! 朝食に姿を現さないから、具合が悪いのかダイエットかと思いました。まさか、女神様から啓示を受けてたなんて……!」
テンションの高いアンジェラが、私の両手を握る。確かに私もその二択だと思うな。
ちなみにお互い敬称を“さん”にしようと、昨日の馬車の中で話し合ったのだ。
「神殿以外で女神様のお声を聞けるなんて、君は何て素晴らしいんだ……! 僕の
待て殿下、ジャンティーレ殿下。それはどう違うの。
「肉はダンジョンで手に入れよう」
ソティリオは普通に提案してくれた。私も同意した。
火山の女神様の祭壇を地上に作るようにとの啓示も受けた、と伝えておいた。
殿下に話を通しておけば、スムーズにいくはず。神殿騎士や、見届けの神官もいるしね。神官はダンジョン入り口で祈る係。彼のクダギツネで伝えてくれるとのこと。
今日中にダンジョンに到着して、明日の朝から攻略開始の予定です!
よおおし気合いを入れ直して頑張るぞ!
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