19.三年生。2回戦。

 円陣を組み、手を重ねる。山本学園の応援団はこちらの保護者勢の比較にならず多かった。声も出ているし旗もある。ポンポンを持ったチアガールさえいるのだからどれだけバスケに力を入れているかがわかるというもの。


 試合が始まった。三年がスタメン。ジャンプボールの唯は高さで負けた。そのまま山本学園がレイアップシュート。2対0。向こうの応援陣がどっと沸く。いけいけそれそれやれやれもっともっと! 歌になっているのが、こちらとしては耳障りだ。


「マンツーマンでディフェンスするよ」


 キャプテンの一華が声かけしている。村上先生は口をつぐみ黙ってみていた。


 ナノがボールに積極的にあたり、スキを狙う有佐がいた。唯はセンター同士の体当たりで体力を消耗していた。


 山本学園のオフェンスだ。ボールがセンターに渡る。かとおもいきやスーパープレーが出た。


 センターはターンしてノールックで逆サイドのセンターへとパス。もらった方のセンターは待ち構えていたかのようにまるでバレーボールのトスのようにボールを弾いてシュート。決まった。


 一華たちはこの空中戦についていけない。ボールがひらひらと花を舞う蝶のように頭上を飛び交う。ぴったりマークしているはずが翻弄され続けわちゃわちゃだ。早くも第1クォーターで体力の限界がきた様子。まだ1得点も決まっていない。


 ナノが自らドリブルで突っ込む。格下のチームには通用した技だったが、山本学園のガードはそれを許さない。スティールされ、山本学園の速攻で2得点。


 唯がセンタープレーでステップを踏み込むがシュートはきれいにはたかれまた山本学園の2得点。


 有佐がスリーポイントシュートをうつ。大きく跳ね返りリバウンドは山本学園。


 一華は足が止まっている。


 流石にまずいと焦り始めたのか村上先生が立ち上がった。


「タイムアウト! 選手交代!」


 え? となる三年たち。こんなシーンでしかも全員交代なんて。だが、足が棒のようになっているのは端から見ても明らかだった。ここは少し休むに限る。麻帆以外の三年がベンチへ戻った。変わって出場したのは気合い満々の奏歩、青ざめた信子、嫌気の指している凛、自信なさげな雄だ。


 コートに上がり、一礼をすると奏歩は審判からボールを受け取った。試合再開のブザーがなる。凛へと一旦パスしまた奏歩がボールを受け取る。


 山本学園のディフェンスはきつい。ステップの先の先まで読まれている。しかし奏歩は左足を軸にして右手でワンドリブルするとそのままくるりと背中回りにターンして見事一人目を抜き差った。 


 お? と山本学園応援団からどよめきがあがる。5対4になった人数のミスマッチのその隙をついて奏歩は信子にパス、信子はシュートするが外した。リバウンドをまた奏歩。


 シュートモーションに入ったところを叩かれ、山本学園のファール1。フリースローが与えられた。奏歩はラインギリギリに立ちシュートを放つ。駄目。届かない。2本目のシュートは逆に強すぎてリングにぶち当たり戻ってきた。


 リバウンドは山本学園がとる。ディフェンスを組み立てる間もなくシュートが入った。これで32対0である。


 凄いスピードで食らいつく奏歩。凛はまだ活躍できずにいた。奏歩がけっこういいパスをくれるがボールをもってもドリブルができない。相手にもそれを読まれているため当たりが激しい。


 シュートにいくにはフリーにならなきゃ。凛は空いているスペースを必死で探した。コートの中央には雄と信子が走っている。麻帆はスリーメンのラインにいる。ならば。と凛は考えた。


「信子、雄ちゃん、真ん中に入ったら一旦はけて。スペースをあけてほしい」


 信子は汗だくでわかったといった。雄はまだ余裕の表情で了解した。凛には作戦があった。


 奏歩がまた1人抜く。奏歩へのディフェンスは2枚になっていて凛はフリーだ。外に走ると見せかけて凛は中央を突進した。雄と信子ははけていていない。スペースが大きく空いていた。


「奏歩!」


 45度の位置に立った凛は奏歩にパスを要求する。少し低い鋭いパスがきた。それを拾い直しても凛には余裕があった。ドリブルはしない。45度。よし完璧。凛はふわっと浮かせるようにゴールへボールを放つ。期待どおりリングのラインの45度に当たりボールはリングの中へ吸い込まれた。やった! 初ゴール。


「よっしゃあ」


 凛に覇気が戻った。シュートってこんな気持ちいい。先輩たちがわあっと歓声をあげる。敵はおやっとノーマークだった凛をみる。雄が感極まってハイタッチしてきた。気分がよかった。結局その点が最初で最後の点になった。


 三年は、一応悔しいとは言っていたが元々敗けを悟っていたこともあり最後は笑顔だった。円陣を組み直し村上先生が一言ずつ語れ、と言った。


「私はこのチームが好きでした。皆身体能力もあったしよく勝てたしね。最後は残念だったけど後の事は後輩に譲ります。村上先生の言うように県大会にいく事があれば応援にいくから。よろしく!」


 一華が前向きな挨拶をした。他のメンバーも似たような事を述べて最後のミーティングは終わった。日記帳を回収する村上先生。


「これは、思い出としてとっておくわ。今後の参考にもなるし」


 恥ずかしいなあと三年の皆。何を書いたのか凛たちは興味しんしんだった。


「いいね、皆一年の諸君。三年が応援してるんだから生半可な覚悟じゃ駄目よ。次に山本学園とあたるときは勝ちにいくからね」


 村上先生が締めくくった。だがこれは本当の地獄の始まりの言葉だったことを凛はまだわかっていなかった。

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