6.村上先生。新入生歓迎試合。
「これから新入生の実力を試すために試合をします」
最初の部活が始まった。顧問は英語担当新任教師の村上先生。先生は知っているであろう奏歩のボール落書き事件には触れず淡々と指導を開始した。
「はじめまして村上です。私が女子バスケの顧問です。近畿大会優勝実績のある男子バスケの伊東先生の援助もうけています。バスケには走り抜く体力、ボールコントロール、シューティングのセンス、フォーメーションで頭を使うことが要求される高度なスポーツ。これからはあなたたちをびしばししごくから覚悟して」
軽いウォーミングアップのあとストレッチをしてゼッケンを着ると5分のミニゲームが始まった。
三年対一、二年生。一華、ナノ、有佐、唯に混ざって村上先生と対戦する。こちらのチームは凛、奏歩、信子、雄、麻帆だった。
スタートのホイッスルが鳴る。最初にボールを奪ったのはキャプテン一華で、すぐにナノにパスが回りナノは華麗なドリブルで雄を抜いてレイアップシュートを決めた。一華の茶色ヘアが得意げに揺れる。まだ15秒。
雄はバスケが下手ではない。むしろ上手い。しかし三年への遠慮がありディフェンスに身が入らない。接触を恐れてやすやすと抜かれてしまった。
ボールは奏歩に渡る。奏歩はわき目もふらず突進して凛たちチームメンバーのことなど一切無視だった。さすがに上手い。ボールをまるで身体の一部みたいに操っていたが三年はそんなに甘くなかった。
「めっちゃ舐められてるよ。あたしら。有佐! 唯!」
ナノが号令をだすと
「有佐もヘルプいく」
とかわいい有佐が寄ってきて、唯も、静かにクールにヘルプにきた。
奏歩にはナノ、有佐、唯の三枚ディフェンスで当たられ、あえなくボールを奪われるとそのまま唯がゴール。どこからか湧いてきた唯のファンたちが喜ぶ喜ぶ。
バスケは独りプレーではどうにもならないのだ。凛はボールに触ることすらできずただ三年がゴールを決め続けるのを見ていた。信子も同じ。コートを端から端まで走らされ息も絶え絶えだ。汗だけが吹き出している。
それでも奏歩はボールを一人占めしたスタイルを崩さない。見かねた雄がパス! と叫んだ。三年にディフェンスされ苦し紛れに奏歩は雄にバウンドパス。雄は一華に当たられていたが隙を見て信子にパス。信子はゴール下のシュートを放った。イン! これが最初で最後の得点だった。
凛は結局何もできなかった。5分のミニゲームで点数は35対2。ぼろぼろである。敗因は主に奏歩だ。凛はそう思った。バスケなんて楽しくない。それも奏歩と同じチームなんて最悪。やっぱり辞めよう。凛は決心した。
「はい。試合終了。新入生の実力はよくわかったわ。指導のしがいがありそうね。体力もないし。でもまず今日は初日だから走り込みは辞めとくわ。入部そうそう辞められたくないもの。というわけで今日はシュート練習をします」
村上先生はボールを9個投げて寄越した。1人1個だ。右下ゴール下のシュート練習が始まった。30秒間ひたすら上を向いてシュートし続ける。
凛は四角いラインの右斜め45度の角を狙ってみる。はいる。四角いラインの下にあたる。落ちる。四角いラインの左角まで飛んでいく、落ちる。法則が分かってきたところで30秒終了。
凛が入った記録は2本。奏歩は0。麻帆は6本、信子は5本、雄は7本だ。
雄の身長は中学一年にして158センチ、信子は166センチだ。対して奏歩は140センチと不利だがゼロというのはセンスがないと凛は意地悪くおもった。
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