20.凛。信子。

 バスケ部にも休みはある。毎日のハードな走り込みとボールが飛び交う息もつけない練習が休み。がんばっているねと、天から与えられた御褒美のようだ。


 凛はしばらくぶりの休みにウキウキしていた。体を休められるのはもちろん学校帰りに遊びにもいける。信子とは決して仲がいいわけではなかったがチームワークのため凛は信子を遊びに誘った。


 信子は少し微妙な表情をしていいよと言った。


 凛と信子がきたのはカラオケボックス。そこで歌いもせず凛は奏歩への愚痴をとうとうと語った。


「でさ、奏歩ったら綾瀬くんのラインを頼んでもいないのにきいてくるわけ。迷惑よね。こっちは静かに片思いなのに知りたくもない情報までわかっちゃって。綾瀬くん三雲さんと付き合ってて。告ってもいないのにフラれたわけよ、私は。」


「奏歩のわがままぷりは試合でもずっとそう。ボールを放そうとしないからフリーの味方がいるのに全然見えてないの。敵の癖とかあるでしょ? そういうのも見てないし。だから囲まれてボール奪われて終わりなのよ。私たちは走り損。楽しくないのよね。」


「あーあるみとテニス部にしとけばよかった。バスケ部って走りすぎなの。体がもたないわ。」


 信子は相づちだけうってうんうんと同意していた。しびれを切らして凛は「信子、あんたも愚痴あるっしょ、言ってみなよ。」と促した。


「私は、ね。綾瀬くんよりも雄が好きなんだー。」


 信子がぽろりと漏らしたのは意外な事実だった。


「え、まじ?雄ちゃん好きなんだ。だって完全に女の子じゃない?体も心も女だし。」


「別にレズじゃないよ。ただ。自分の気持ちに正直だしまっすぐだし人気者だし。いいなと憧れちゃうの。それに、私ね、結構スポーツ好きなんだ。」


 そうなの? と凛。その割にはおとなしいよね、あんまり得意そうでもないし。


「じゃあ、今から信子んちにいこう!」


「カラオケ、1曲も歌ってないよ。」


 信子の部屋は小綺麗に片付いていて居心地がよかったがところどころフィギュアが飾ってあった。凛はへぇと物珍しく観察する。


 ベッド枠に腰掛けて信子はオレンジジュースを凛に渡した。


「今まで思ってたんだけど凛ちゃんって奏歩ちゃんに興味津々だよね。愚痴っぽいけどそこまで人を観察できるかって。でも意地悪は本当は良くないと思う。奏歩ちゃんは貧乏なんだ鳩しか友達がいないとか言わないで。悲しいよそういうの。」


「なに。文句つける気? 奏歩は相当なわがままよ。」


「ツンデレなだけでしょ。本来は優しい子だよ。」


「ずいぶん奏歩に肩入れしてんのね。」


「私、小学校の修学旅行で班わけ余ったでしょ、その時奏歩ちゃんと一緒になったの。奏歩ちゃん、行き先でずっと話をしてくれた。晩御飯が毎日カレーだとか公園の鳩は模様が派手なのがオスだとか、ボールは唯一お父さんに買ってもらった宝物だから絶対スポーツ推薦で高校にいきたいとかね。」


「信子は気弱で、絶対相手を否定しないもんね。話しやすいわけだ。」


「でも、おかげで私は楽しかったんだよ。」


「奏歩のことが好きなの?」


「違うけど、目標があって努力してる。そういう姿勢は応援したくなる。」


「別にいいわよ。応援しなよ。悪者はあたし独りってわけだ。あたしは奏歩が絶対嫌い。」


「凛ちゃんも強情だよねえ」


 信子は呆れ顔だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る