10.村上先生。ビデオ学習。

 次の日の練習は前と同じ1キロランをこなした後、県1位のチーム山本学園のバスケプレーをビデオで見る、というメニューだった。上手い人たちがどう動くのかを研究するのが村上先生の意図でビデオを何度も何度もとめては村上先生が解説をいれた。


「あなたたちはとりあえずボールに寄っていこうとするけどそれは間違い。小学校の体育じゃないの。大事なのはいかにパスを回してゴール下に近づくかよ。ディフェンスをふりきるにはやみくもに走り回ってはだめ。頭を使わないとね。」


「よくみて。まずボール運びをするのがガード。これはドリブルが上手い奏歩にやってもらいます。次にガードのパスを見計らいながらコートの端を走ってる人がいるでしょ?これはフォワード。凛と麻帆に割り当てます。最後にコートの中心近くにいて得点源になるのがセンター。雄と信子は身長があるから適任よ」


 ゲーム展開はとても早く凛は何がなんだかよくわからない。しかしワンクッションごとに村上先生はビデオをとめる。


「今、ガードがディフェンスに苦戦していた。そしたらフォワードが斜め横に来たわよね。これをミートと言います。パスが回った。ガードはその場にたたずむんじゃなくスペースを開けるため逆サイドに走った。そして逆サイドにいたもう一人のフォワードがヘルプにやってきた。センターはディフェンスを背中で押し出してボールを欲しいと手をあげましたね、ほらパスが通った。振り向き様にシュート。入って2点よ。」


 これが基本の形で理想的だと先生は言う。しかし次のシーンではペイントエリア、台形の中心に3人のプレーヤーと3人のディフェンスがごちゃごちゃ固まっていた。


「こういう場合シュートは無理です。でも外ががら空き。センターだからといってずっと動かないでいるとこうなるの。一旦外にはけてスリーポイントラインまででる。この選手はそうしてるでしょ? そしたらパスが回ってくる。そこからドライブしてもいいしスリーポイントを打ってもいい。今の場合中心に人がいすぎてカットインは無理と判断したの。それで外にいる3人でパスを回してディフェンスを翻弄し、タイミングがあったところでスリーポイントシュート。落ちたわね。でもリバウンドは味方が拾った。ゴール下シュート。入りました」


 先生は少しビデオを早送りするとまた止めた。ゴールが落ちたシーンだった。


「これはリバウンドをディフェンス側が取ったパターン。見て。コートの端を逆方向に走った選手がいるでしょ?リバウンドからのパス。ディフェンスからオフェンスに早変わり。守りがまだ追い付いてなくて悠々とレイアップシュートが決まりました。これが速攻。一番手っ取り早くて相手へのダメージも大きく確実に点がとれるしフォーメーションに頭を使わなくてもできる技よ。つまり初心者向けの作戦。リバウンドからの速攻。私たちはまずこの速攻を練習します」


 つまりは走れということで、凛はキツそうだなと恐れいった。奏歩は自分のテクニックが生かせなさそうなので不満顔。麻帆はといえば先ほどから髪の毛をいじりガラスに自分の顔を映して見ていて先生の解説をろくに聞いていなかった。

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