41.綾瀬くん。決勝戦。
女子バスケ部は1日のお休み、男子バスケ部が先に決勝戦であった。女子たちはおもいおもい示し合わせたように自然と総合体育館に集まった。観客数はとても多い。流石に決勝戦なだけはある。
奏歩はグレーのパーカーにダメージジーンズ、スニーカーというラフな格好でやってきていた。対象的に凛は紺色のロングスカート、白いボアのセーター、ぺたんこでグレーのミュールと、女子らしさ全開なガーリーファッション。ただのバスケ鑑賞でもここまで違いがでるとわかりやすいねと、雄が2人に感想を述べた。
会場をみわたすと村上先生が男子バスケの応援団のなかにいる。すらっとしたネイビーのシャツに防寒用のスーツ、パンツスタイルでとても引き締まってみえる。村上先生はショートカットの髪をゆらし、誰かに電話しているようだった。
せっかくだから村上先生の元へ行こうと集まった女子たちは向かった。村上先生が電話していたのは三年生一華たちだった。
「今からこない?」
「ごめんなさい受験勉強が」
「そうよね。ごめんなさい」
「でも、凛や奏歩、雄たちの決勝戦には絶対いきます!」
「無理しないで。でも嬉しいわ」
女バスの一同は、男子Cチームと保護者にまぎれて応援することになった。
第3中学男子は序盤からオールコートでディフェンスにあたっている。相手ガードがそれに苦戦。ボール運びが滞り、審判が秒数を数え始めたのをみて、センターが助け舟に上がってきた。なんとか通る苦し紛れのパス。必死さがにじみでている。なんとしても勝ちに食らいつこうという執念みたいなオーラがでている。
だが、そう甘くはなかった。第3中学は足を止めないディフェンスで、まるで同点で終盤に差し掛かったかのような守りをする。ガードは、苦し紛れ。パスする相手がいない。ドリブルも止まってしまった。かなり遠いスリーポイントを打つしかない境地に追い込まれていた。
体制が崩れたまま放たれるスリーポイント。勿論外れる。リングに大きく弾かれたボールの、リバウンドを征したのは綾瀬くんだ。第3中学のフォワードは走っていた。速攻。決まる。
その後も、普通っぽいシュートが、どんどん決まるのが第3中学の強みだった。ド派手なダンクシュートなんてのは無い。ただ、ひらりひらりと舞う空中戦ではある。センターにパスが入るのも見ているだけでは当たり前のように思えるが、実は選手同士身体を当てあっていて、ポジショニングで面をとるのさえ一般人には難しい。
加えてコートの端から端までダッシュし続けるというのは至難の技だ。綾瀬くんはそれを涼しい顔でやってのける中学生。只者ではない。
女バスは、男バスの試合にくぎ付けになっていた。綾瀬くんはもう何本目かのリバウンドシュートを決めている。そしてオフェンス。身体を当ててちょうどよいタイミングで面をとり、ディフェンスの裏をかいたと思ったら正面にでてきた。翻弄される敵のセンター。綾瀬くんはペイントエリア、台形の中でパスを受け止め華麗なフックシュートをきめた。
「きゃー!」
沸き起こる歓声。綾瀬くんのファンが、鰯の群れのように集まっている。
雄も完全に心を奪われていた。そしておどけてみようと思い付き、女バスメンバー皆に、手をマイクにしてインタビューしはじめた。
「凛、今1番好きな男子は?」
「綾瀬くん。」
「信子、今1番かっこいい男子は?」
「綾瀬くん。」
「麻帆さん、今1番ホットな男子は?」
「綾瀬くん。」
「るみ、今1番輝いてる男子は?」
「綾瀬くん。」
「奏歩、以外略。」
「綾瀬くん。」
「以上女子バスケ部から中継しました。解説の村上先生、いかがでしょう?」
村上先生は少しだが、笑顔をみせた。
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