49.決勝戦その7

 3クォーター、凛はハイになっていた。10番のシュートチェックに成功した事やオフェンスの基盤が自分だとるみが言ってくれた事が重なり凛に自信を与えていた。身体もほぐれていた。


 練習がきつかった分体力がついたんだなと今になって分かる。この試合は転機だった。


 実力に不釣り合いな活躍をしようとか、派手に決めようとはもう思わなくなっていた。綾瀬くんの存在も今は忘れていた。


 ただ地道に皆のためにチームの勝ちに貢献したい一心だった。奏歩が気持ちよく走れるように。あたしはアシストする側に回るんだ。


 凛だけではなかった。他のメンバーも皆それぞれが浮き足立っていた。勝利の予感に色めき立っていた。


 そのせいで自分たちの限界を、しばし忘れた。放つシュートは面白いように入るしリズムは完全に第3中に来ている。


 山本学園は9、10、11、12、13番を下げ再び4番らを投入してきたが、チーム全体の波が悪循環に陥ったためかシュートが落ちる。


 リバウンドは信子だ。身体を当て絶妙な位置に立っている。信子が取ってくれると信じて凛も麻帆も雄も奏歩もシュートを打ち続けた。


 それが全て入ったのだから、流れというのは恐ろしい。


 メンバーは150パーセントの力を出し切っていた。追い風が吹いているかのようだった。


 村上先生も全く危機感は感じていなかった。るみも純粋に彼女らを応援した。誰もが、これはいけると感じていた。


 

 3クォーター中盤でいつの間にか第3中は逆転し点差を離していた。52対64。12点差で勝っている。ボールを回して相手を翻弄する。スキをついてシュートを打つ。入る。


 天下の山本学園を相手にこのゲームメイクは奇跡と言っていい。5人の息がピタリと合って調子よく血が巡る。そんな感じだった。


 山本学園のコーチは渋い顔で一連のゲームを眺めていた。彼はまだ勝負を投げ出したわけではなかった。


 どこが第3中の弱みかを見つけそれを突こう。彼には魂胆があった。第3中は急成長したチーム。そういうチームが何を苦手とするか、コーチは経験で心得ていた。


 百戦錬磨のコーチには自分サイドの選手の特徴が手に取るように分かる。誰を狙って餌食にするか。冷静に鬼のように彼はタイムアウトを取った。


 最初にコーチの犠牲になったのは4番キャプテン雄だった。


 リバウンドを全く取らせない。ファールギリギリの体当たりで弾き飛ばされた雄はオフェンスで面を取れず裏を取ろうとした所それを読んでいた7番にパスカットをされてしまった。


 意気消沈したままディフェンスへ戻る雄。相手は意図的に雄へ攻撃を仕掛けてきた。ポジションへ戻ろうと走る時に何人もと身体がぶつかった。それでもポストプレーを守りきる雄。ボールが7番から離れてほっと油断した。

 

 すると7番は雄に激しく体当たりを噛ましてきた。よろめく雄。7番がゴール下に来るのを許してしまった。相手の5番は示し合わせていたかのように弧を描くボールをゴール付近に投げた。


 シュートでもパスでもない。何だこの投げ方はと、雄が驚くと7番は空中でそのボールに触れ軌道修正をするように軽くタッチした。


 ボールはそのままゴールネットの中へイン。俗に言うタップシュートである。


 技を見せつけられた雄は悔しがるしか出来なかった。そして疲れをどっと感じた。


 150パーセントの力を出し切ってランしていたツケが巡ってきた。


 疲労感に比例してネガティブな思考が沸き起こってきた。


 あたしはキャプテンだ。皆を引っ張っていかなければ。なのに現実、チームの中心なのは奏歩じゃないか。


 あたしは敵わない。歯が立たない。その上こんなプロ級の技を敵に決められて。


 あたしはキャプテンの器じゃないよね。つ、つらい。奏歩が一緒だと凄いプレッシャーだよ。キャプテンらしいプレーをしなくちゃ。なのに出来ないなあ。できてない。あたしって何だろう。うう、つらい。

 

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