35.凛。副キャプテン。
「残り10秒、5、4、3、2、1、ダッシュ!」
女バスは運動場にでていた。インターバルというランニング方式で、5分間早いペースで走り続け、5分経ったら1分間ジョグのゆっくりペースにする。また5分ダッシュをし、1分間ジョグをするという心臓に負荷をかける実戦向きのメニューが行われていた。村上先生の笛の音が鋭い。ピッピッピーっとくる。
凛は走る大切さを少しずつ見直していた。確かに8月の1ヶ月を棒に降ったのは痛かった。せっかく、4、5、6、7月と積み上げてきた体力がまたゼロになってしまった気がした。それで、今度ばかりは文句を垂れずに素直に走っていたのだった。
奏歩は大分先をいっている。信子も雄も麻帆もるみさえも凛の先をいく。あたしは名誉挽回しなきゃ。凛は多少焦るのだった。
野球部の威勢のいい声が響き渡るグランドで村上先生が皆を集めた。インターバルでへばっている皆はそれでも駆け足で集まってきた。
「私たちはこれから新チームです。そこで今日は新キャプテンを発表します。」
おもいおもいが顔をあげた。
「キャプテンは雄! はい拍手!」
一斉に拍手が沸き起こる。雄はまさに適任だった。
「そして副キャプテンは凛! 文句はないわね?」
凛は予想外のことに呆気にとられた。え? あたし? 奏歩じゃなくて? メンバー皆を見渡すと何故か皆したり顔である。だが、嬉しかったのを凛は隠せず思わず頬が緩んでしまった。
村上先生は奏歩ばかり見てると思ってた。あたしのことなんてこれっぽっちも気にしてくれないと。敵認識しててごめんなさい、先生。あたし、副キャプテンやってもいいんだ!
「凛、よろしく。」
雄が肩を叩く。
「新チームキャプテンの元でそうね、るみもいらっしゃい。目標を再度決めます。このチームは県大会優勝を目指せるはずよ。どう?反論はある?」
夏休み前に文句タラタラであったメンバーが、今中学1年の秋になって少しずつだが大人びてきた。
村上先生のいうように自分たちならいけるかもしれないという期待もあった。そして何より雄が堂々として答えたのが大きかった。
「はい。先生。私たちは優勝します。」
「よし、じゃあまずはウィンターカップにむけて地道な練習をします。寒くなってきたから足を痛めやすいわ。走り込みは最低限よ。良かったわね。その分シュートやドリブル強化のメニューを組んできます。楽しみにして。」
「秋には色々中学生らしいイベントがあるよ。」
珍しく凛は自分から奏歩に語りかけた。
「何?」
「中間テスト、文化祭、体育祭。」
そうだねとうなづく奏歩。
「あたしは体育祭なら活躍できる。」
自慢げな奏歩にたいして凛は
「リレーとかね。」と相づちをうつ。
「どうしたの? 不気味に優しいじゃん。」と奏歩。
「副キャプテンとしてチームワークのために歩みよってんの。わかる?」と凛は憎まれ口をたたいた。奏歩は苦笑して
「あー。パンケーキが美味しかったなあ。」と言った。
何のこと? となる凛を尻目に
「何でもない、あー美味しかった。」と奏歩。
凛は何なのよと奏歩を追いかけ逃げ回る奏歩。そのまま延々と追いかけっこをする2人を雄たちは生優しく見守っていた。
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