46.決勝戦その5。
シュートを打たせないディフェンスが始まった。間合いを詰めサイドステップで敵に食らいつく。腕1本分で相手がシュートモーションに入ったらすぐチェックできるだけの距離感。そこからさらに拳1個分位間合いを詰めた。
観客で、ディフェンスに注目してくれる目利きな人はあまりいない。誰もが自然と派手なオフェンスに目が行きがちだ。
だが凛は身を持ってディフェンスの上手い下手が勝負の明暗を分けると気づいていた。
上手い人が敵チームだった場合奏歩はずっとドリブルをしている。下手な人だった場合は問答無用で抜きにかかる。
普段練習の始まりに行うフットワークも主にディフェンスのため。楽しい練習はオフェンスのため。苦しい練習はディフェンスのため。守り強化のためにしんどい練習を毎日してきた。
この舞台で、苦しかったことの成果を発揮出来なければあたしの青春は無駄ばっかりだ。凛は泣きたくなった。
11番への間合いを詰める。パスコースを防ぐ。下半身を使って11番へプレッシャーをかける。疲れる。もうほんっと疲れる。でもここで頑張んなきゃあたし青春を取り返せないよ、まじで。
11番が苦し紛れのパスを出した。10番へ。奏歩も間合いを詰めた。が、凛は気づいた。あれ、奏歩ちょっと寄りすぎ。
4度目のシュートを恐れてか奏歩は10番にピタリと吸い付いている。抜かれるよ、絶対。奏歩が右手を守っているからきっと左手側から抜かれる。
しょうがねえな。あたしがフォローいくとするか。
思った通り奏歩は抜かれた。10番は左手から蟹歩きのように奏歩を抜きストップして体制を整えスリーポイントシュートを放った。
が、そこで予測していた凛が飛び出た。
シュートチェックだ。見事、凛は10番のスリーをはたききった。
ほっとする奏歩。
凛に近寄り「ありがと」
小さい声だった。だが奏歩は凛にちゃんと感謝した。
凛には何故か涙がうっすら滲んだ。ありがとうを言われただけなのに。でも何故だろう。
ずっと敵だった奏歩を最近はほんの少し凄い奴だと認め始めていた。しかもその凄い奴のフォローをして感謝をされるっていう。複雑さ。
嫌な気分ではない。むしろその逆。
このとき凛は自分が奏歩に意地悪をしてきたんだなとストンと腑に落ちて認めたのだった。
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