28.村上先生。信子。
「足のこと、私が悪かったわ。」
村上先生は信子に謝りにきた。
「先生。」
「あなたが、頑張りやさんだからつい。」
「私もつい、走れる気がしたんです。」
「駄目よね。まだ大人にもなりきってない未熟な女のコたちを、鍛えると称して痛めつけてたんじゃ。昭和の時代錯誤だったわ。」
「私は、痛いならやめなよって言ってくれるチームメイトがいてよかったと思います。」
「そうね。私はあなた達がまだ中学生だということを忘れていた。プロのコーチにでもなったみたいな気持ちだったの。」
信子は村上先生を責め無かった。熱血が招いたゆえだとわかっていた。
「でもね、私だって肩身が狭いのよ。」
村上先生はつらそうに言った。
「職員室では他の先生たちが、働き方改革で仕事量を減らそうとやっきになっているの。教師ってのはやりがい搾取だといわれていて裁量権が広い割に自分の時間はないに等しい。私が部活を指導すればするほど、周りからは白い目でみられる。賃金が発生しないのにどうしてそこまでやるんですかってね。」
「じゃあ先生は何故そこまでやるの?」
信子は不思議だと思うことを聞いてみた。明確な答えは無かった。
「さあね、結果をだしたいのよね、多分。自分が弱小チームを優勝に導いたっていう称賛がほしいのかも。」
信子は思った。村上先生は先生自身のためにこんなにがんばっているんだな。でもなんだか、それはとても辛そうだな。
結果はではじめている。このチームは強くなりつつある。でも村上先生は何故か満たされない。それは誰も褒めてくれないからかもしれない。
じゃあ一体村上先生はどこまで結果をだせばいいの? 日本1の女子バスケチーム? 世界1? 上をみれば果てしないんじゃないかと信子は思った。
「つまんない話をしたわね、ごめんなさい。」村上先生は荷物を広げた。
「信子、夜の天体観測望遠鏡を組み立てるのを手伝ってくれる? 凛たちは寝てしまったから。」
「はい。」
信子は村上先生の抱えている闇を少し見た気がしたのだった。
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