22.凛。左手ドリブル。
凛は三年が引退した後、奏歩が朝練を始めたのに気づいた。体育館で男子に混ざりシューティングをしているのだ。凛はしばらくそれを眺めていた。
「ね、奏歩。あんた無理して片手で投げてるから届かないんじゃない。男子のまねなんか知らないけど、プライドを捨てて両手にしなよ」
「嫌だよ。私は片手がいい」
「頑固者」
「違う。両手だとドリブルから素早くシュートの構えに入れないし左手のぶん、ぶれるんだ。狙いが定まらない」
「ふうん」
いつの間に雄がきていた。
「よ! お二人さん仲がいいね」
「どこが」
「奏歩のシュートがドヘタ問題を何とかしたいの」
雄は奏歩が片手にこだわる訳を聞いた。
「それなら、綾瀬くんのフォームを見て研究したらいいよ」
不審者三人はじっと男子のほうを見つめ綾瀬くんと他のCチームメンバーとの違いを探した。
「わかった」凛がいった。
「綾瀬くんは腕の力だけでなく全身のバネを使ってる。足から全部力が伝わって最後はふわりって投げてる。手はコントロールするだけ。原動力は全身だ。逆に下手な人は腕だけに頼ってる」
「凛偉い!」雄が感嘆する。
奏歩は仏頂面だがなるほどと思っているのは確かだった。
「信子も呼んで今日から朝練しよっか!」
雄がるんるんという。綾瀬くんと同じ空間にいたいだけだよね、凛は呆れた。
村上先生の鬼のような指導が始まった。
やはり一番きついのはシャトルラン。それだけはどうしてもいただけない。
1キロ走はだんだんタイムが縮んでくるのが目に見えるから楽しかった。凛は今では5分で走りきることができるようになっていた。
凛はドリブルをみっちり仕込まれた。特に左手。なかなか大変だったがボールにさわる練習は楽しかった。ジャンプボールのための丸いラインをドリブルでなぞる。くるくると回りながら迫ってくる雄から逃げる。雄は両手フリーで凛のドリブルを邪魔するために放たれた鬼役だった。
「もーらいっ」
「いや。なんのこれしき」
「あまいね。ボール取った!」
奏歩も同じ事をしていた。奏歩のボールは永遠に取られない。ドリブルのリズムがパターン化されていない。何より地面に這うような吸い付くようなドリブルだった。
凛は悔しいとは思いつつ、奏歩のやりかたを真似ていた。
信子は体当たりの練習をした。雄と身体をぶつけ合い背中合わせの相撲で雄をラインの外に追い出さないと延々終わらない。
麻帆は大概なんでもできた。だがこれといって得意もなく苦手もない。強いていうなら自分を好きすぎでいつも髪の毛を気にしているのが欠点か。しかし彼女は男子がいれば力は倍増する。
雄は遠慮してしまうのが問題だった。
男子バスケCチームとの合同練習は恒例行事になっていた。5on5。雄は男子相手だといかんなく力を発揮する。身体で押し負けないでセンターのベストポジションを奪うとパスをもらいそのまま振り向いてシュート。パターンができてきた。
Cチームは雄を抑えようとそっちに気を取られるからすかさず信子が助け船。手渡しでボールをもらい信子は逆サイドへパス。麻帆が待ち構えていてミドルシュート。
女子は前と比べものにならないほどバスケの腕が上達していた。ただ、奏歩は苦戦していた。
レッグスルーを使って一人抜こうとしても相手はそれをよんでいて引っ掛からない。Cチームとはいえ男子だ。脚力で負けていない。加えて奏歩がシュートが入らないのを知っているから距離を保たれる。一度奏歩がレイアップシュートへ行こうとした時はセンターに見事に弾かれてしまった。
やはりゴールが決められないというのはストレスになる。奏歩は目にみえてイラつきだした。
凛は左手ドリブルを強化中ということで右手を封印していた。左手でワンドリブルし後ろターンが出来るようになっていた。左サイドは凛担当。
Cチームとの7分ゲームは18対15。勝ち。なかなかのできばえだった。
村上先生が言った通り速攻は頭を使わないから楽な反面体力が試された。走り負けしていては速攻にならない。毎日の1キロ走が2キロに増えさらに練習後に体育館のダッシュメニューが追加された。シャトルランも健在だ。
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