第28話 異能の正体は
ベルトにはダイナマイト
一本一本はかなり細いけど、先程目にした爆発を見る限り、一本たりとも人質の側へは飛ばせない。
奴が次なる攻撃準備に取り掛かる一方、僕は護符を数枚飛ばした。ヤツの方ではなく、スタジオ入り口へ。
この意図を察したのか、ヤツは舌打ちした。
僕が飛ばした護符は結界を形成し、入り口から流入する瘴気の流れを食い止めている。
これ以上、ヤツが力を吸収しないためのものだ。
加えて、僕とは別方向に護符を用意しておくことで、ヤツの思考の余裕を奪おうという意味もある。
瘴気のダムばかりではなく、それも意図した布石かもしれない――と思わせれば、後々のやり取りで優位に立てるかも、というわけだ。
とはいえ、状況的にはまだ相手側に優位がある。スタジオ内に入り込んだ瘴気は相当な濃度があり、悪霊憑きの異能者にしてみれば、ホームグラウンドみたいなものだ。
さらに、こちらには人質もいる。
その辺、ヤツもよくわかっているんだろう。指の間に挟ませたダイナマイトをチラつかせ、ヤツは笑う。
「
「もう少しハンデをくれたら、閻魔様に口利きしてやるよ」
「ハッ! 世迷い言を!」
大声で言い放ち、ヤツはダイナマイトをバラ撒いた。悲鳴もなく、一瞬で静まり返った空間に、いくつもの円筒が飛んでいく。
どの導火線にも、火はついていない。
でも、爆発する。しないわけがない。さっき爆発したダイナマイトも、火はついていなかった。
確信をもって僕は対処に専念した。撒き散らされた円筒に目掛けて護符を飛ばし、加えてヤツ自身の方にも。そして――
スタジオ内に再び、激しい爆発が生じた。煤煙立ち込め、破壊された残骸が、床や壁に当たって散乱する。
煙が晴れる前から、僕は悪しき気配に向かって護符を投げていく。
しかし、ヤツへの攻撃はうまくいかない。爆煙と混ざり合っている瘴気が護符と反応し、火花のような軌跡を宙に残している。
これを見れば、どこを護符が飛んでいるかわかるというわけだ。
そして、さらなる爆発。今度は小規模だ。護符を破壊するためだけのものだろう。
やがて、爆煙が晴れていった。ヤツに護符が当たった様子はない。僕に対して警戒しつつ、ベルトから次の弾を手に取っていく。
人質は無事だ。爆発も護符の結界で防げている。
ただ、面で攻撃を受けると厳しい。一気に力を消費してしまうからだ。
それに、結界そのものは丈夫でも、結界を張るための護符そのものは火に弱い。
だからこそ、結界を形成する護符を、まずは別の護符が身代わりになって守る必要がある。
僕にとっては消耗戦の要素がある戦いだけど、ヤツにとっても、事情はそう変わらないように思える部分がある。
ベルトに装着しているダイナマイトは、あくまで有限だからだ。
しかし……あと数回もローテすれば、弾切れになるのは明白ながら、ヤツは構いもせずにダイナマイトを撒き散らしてきた。
宙を飛び交う円筒に細心の注意を払い、護符を巻き付かせていき――
僕は一計を案じた。バラまかれたダイナマイトの中でも、こちら側に突出している一つに集中し、複数の護符を飛ばしていく。
そして、爆発。轟音とともにスタジオ内が揺れる。
その爆煙の奥から、ひょっこり顔を出そうとする追加のダイナマイト。
でも、これは
護符で逆に飛ばされる可能性に思い至ったんだろう。投げ飛ばした後のダイナマイトにも、感覚が通じているらしい。
やがて煙が晴れ上がると……宙にはダイナマイトが一本浮かんでいた。
その周囲には護符が8枚。それぞれが頂点となる、立方体の結界を形成している。
僕は証拠物件を確保できたわけだ。
☆
ダイナマイトが本物ではなく、爆発がヤツの異能によるものというのは間違いない。持ち込めるはずもないのだから。
おそらく、ダイナマイトに見えるあの物体は、局内で工作して用意したんだろう。そのための材料程度なら普通に持ち込めるはず。
そうして作ったダイナマイトもどきを、異能で爆発させている。
では、爆発の核になる対象物は何だろう?
僕がこのスタジオにやってきて、戦闘が始まる直前のこと。床には何か不穏な気配を感じた。床に何か仕掛けられていたのは間違いない。
それに、僕が動き出してすぐ、ヤツはダイナマイトを投げ……それとはまた別に、何かが爆発していた。その時は、霊力の塊にしか見えなかったけど。
ということは、霊力そのものを爆発させているんだろうか?
その可能性はあると思った。腰に巻きつけているこれ見よがしなダイナマイトは、あくまでダミーでしかない、と。
ただ、完全なダミーというわけでもないように思う。それにしては、何かこう……見せかけの武器に、ヤツ自身の動きが縛られすぎている印象がある。
霊力そのものを爆発物にできるのなら、もっとやりようはあるんじゃないか。
となると、もう少し有り得そうな可能性として、ダイナマイトではない別の物体を爆発の核にしているのではないか。
この仮説が正しければ、ダイナマイト状の物体はダミーであり、一方で本命の核を包み込むカバーでもあるわけだ。
少なくとも、手にした物体の形状に左右される異能の可能性は、かなり低いんじゃないかと思う。
というのも、携帯性を考慮してか、ベルトに巻き付けたダイナマイトは細いものだけど、限度というものはあるからだ。
これがなくなったら、手じまいだろうか?
そうは思えなかった。今回の爆破事件に先立つ、ユナボマーを
それに、このTV局スタジオを戦場にするほどの犯行で……局員を装って忍び込めている。
それほどの組織性・計画性を
だから、ダイナマイトっぽく見える上っ面は、僕みたいな敵に対するブラフでしか無いんじゃないかと思う。
その上っ面を剥いだ中に、きっと真実がある。
そして、敵の異能を暴くという点において、敵の残弾は僕にとってのタイムリミットにもなる。
ダイナマイト以外の何かを爆発させるのは、ヤツにとっても真相を暴かれかねない賭けになるだろうけど、こちらとしても爆発の中で探るのは容易じゃないからだ。
☆
そんな現地での情報戦で、僕はどうにか間に合った。
結界に閉じ込めたダイナマイトに、ヤツが忌々しそうな目を向ける。
やはり、普通のダイナマイトではなく、ヤツの霊力で爆破指示を送る必要があるようだ。結界で閉じた空間に、奴の指示は届かない。
そこで、結界の護符を破壊しようと、ヤツが腰に手を伸ばすも、僕は牽制に何枚も護符を放った。
内一枚が奴に貼り付き、着弾点に紫電が走る。それなりの攻撃にはなったらしいけど、あくまでその程度だ。舌打ちとともに、迫り来る護符を爆発で叩き落としていく。
放った護符は官製品最強の強度を誇る一枚だけど、これでくたばる様子はない。すでに相当の力を蓄えているようだ。
護符をヤツにまとわりつかせながら、僕は首元に右手を伸ばした。ネクタイの結び目に指をかけ、一気に引っ張る。
中に護符を仕込んだネクタイは、一振りで霊力の剣となった。振りかざし、素早く一閃。
ネクタイの剣が、ダイナマイトの外装を叩き割る。
そう、外装に過ぎなかった。中身はほとんど空白で――
割れた筒の中から、白いモノが姿を現した。
「チッ!」
種明かしされたことに、ヤツがすさまじい形相で睨みつけつつ、こちらへ弾を投げつけてくる。
しかし、憤りを覚えたのはこちらも同じことだ。ネクタイの剣はそのままに、護符を放って爆弾を迎撃していく。
ダイナマイトと護符がかち合い、連鎖的に爆発。雑に撒き散らかされた爆発に、結界の護符も、証拠物件も、何もかもが呑まれて果てていく。
――先ほど目にした白いモノは、骨だった。たぶん、人骨だ。こういう仕事をしていて見間違えるはずもない。
自分の物ではなく、きっと他人の骨を、ヤツは武器にしている。
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