第26話 帝国の聖女
ヨウスケです。僕は、今、帝国兵に囲まれている。ノア君が闇魔法の結界を展開して、僕たちを捕縛するために殺到した帝国兵を押し返し、近づけさせない。光の女神様を信奉する狂信者どもの前で闇魔法ブッパです。此奴め、煽りよる……って、兵隊さんにザーコザーコとか言ったら可哀想でしょう。まあ、ノア君のメスガキモードも可愛いから許す。
僕は、ザーコ代表の空港警備隊の隊長さんから帝都上空で攻撃魔法を使用した罪だとか、言い掛かりを付けられているのだが、帝国所属の
巡視船(高速飛行船)による攻撃中止の指示に従わず、攻撃魔法を使用したのも重罪だと喚いている。僕の相棒による一撃は、光の勇者様の攻撃からノア君を守る為だった。そう主張しても聞き入れない。
兎に角、帝国に非は無いの一点張りである。それどころか、
『……』
——おっと、復活するのですか?ええ、巨大な排水溝に落ちてます。ぐちゃぐちゃです。この状態から復活する光の勇者ってヤバいですね。
なるほどなるほど。帝国の港湾警備隊の隊長さんは、光の勇者様の復活まで時間を稼いでいるとはザコのくせに強かです。彼奴は馬鹿だが帝国の最大戦力だからね。毒を以って毒を制するつもりなのだろう。それならば、帝国の空港警備隊の隊長さんには、絶望を味わっていただきましょう。
僕は、光の勇者様の復活のタイミングで、取り敢えず、もう一発.303ブリティッシュをぶち込むぜッ!
いよいよ空港警備隊の隊長さんの時間稼ぎが功を奏したようだ。KADOKAWAマークにも似た姿の光の鳳が、ぐちゃぐちゃになった光の勇者の骸を目掛けて急降下してきた。そのまま激突すると激光が周囲に広がり、光の柱が天空へと立ち昇れば、高笑いと共に
「俺・様・完・全・復・活」
ズドーン!
光の勇者様の高らかな復活宣言に被せるように、僕は
はいはい。光の勇者様は仕舞っちゃいましょうね。ノア君による膨大な闇の魔力量を込めた.303ブリティッシュ(闇)を光の勇者様の
闇の.303ブリテッシュの着弾後、光の勇者様の胸元から闇の空間が一瞬だけ膨れ上がるが、次の瞬間に一気に闇が収束すると、光の勇者を飲み込んで消えた。この手に限る。
『……』
——あ、そうですか。光の勇者様の魂を捕縛されましたか。それは実に素晴らしいです。これで彼奴の復活は二度と無い。
今、僕の敬愛して止まない女神様(創造神&英国面)の神域に光の女神様が押しかけてきてギャイのギャイの騒いでおられると。まあ、マンチキンは嫌われるので、ほどほどにするのが良いよね。だからと言って、闇の女神様のようなネゴシエーターも好かれないだろう。取り敢えず、これで光と闇のバランスは暫くは保たれるのかな?
「あの魔物を退治してくださいましてありがとうございます」
「ああ、やはり光の勇者様は魔物化していたんですね」
「……」
フリーダさん、クラーラさん、そしてノア君の視線が、魔物退治に感謝を表明した人物に集まる。さりげなく僕の隣にいるこの紳士は何者なのだろう。なんというかギリシャ彫刻のように均整の取れた体躯で、ナイスバルクなわけだが、そのゆったりとした露出度多めの衣装は何とかならないものだろうか?アルカイックスマイルで何となく誤魔化されそうなのだけど、うちのノア君が展開している闇の結界は帝国人の光の信徒の侵入を許さない筈。一体何者なんですかねぇ……
『貴方は帝国の大聖女に出会った』
——
「ハハッ。調停者よ。いつから女性しか聖女に成れないと思っていた?」
サイドチェストで訳の分からぬことをほざきおって、この筋肉ムキムキマッチョ紳士め。貴様、逸脱者だなッ。
「聖女は
流れるようにバックダブルバイゼップ。背中が平家蟹とか声掛けして欲しいのかよっ!
「いや、聖女なんだから女性でなきゃダメでしょ?」
僕の突っ込みに超紳士はサイドトライセップで応じる。おう、雄っぱいのデカさはまさに大聖女だなッ。クッソったれがッ!!
「おお、嘆かわしや。何という政治的妥当性を欠いた発言なのでしょう!」
異世界に来てまでポリティカル・インコレクトネスとか耳にするとは思っても見なかったぜ。この超紳士が転生者にして逸脱者とか恐れ入ったよ。いろいろ仕込みすぎだろ
「帝国内だけでも聖人とかで呼び名を統一しておけばよいのでは?」
全く紛らわしいにも程がある。あと超紳士はやはり面倒くせーッ!
「たかが
彼は天を仰ぎ見て、それから僕に鋼の意志を感じさせる眼差しをむけた。
「わたしこそが帝・国・大・聖・女ッ!」
何という大聖女へのこだわりの凄まじさよ。大聖女なのは分かりましたから、モストマスキュラー決めるのやめてもらえますか?
僕は、帝国の光の勇者がやさぐれたのはこいつの所為なんじゃないかと思い至る。
「どうすんだよこれ……」
僕はクラーラさんに話を振った。この旅をお強請りしたのは彼女ですからね。だがクラーラさんはプイと横を向き、何も言わずにノア君に近づくと、抱き抱えるようにして、マッチョ大聖女様を見つめるノア君の視線を遮った。
フリーダさんはといえば、ワクワクした瞳で、マッチョ大聖女様のポージングにいちいち反応している。こいつもダメかもしれない。
『……』
——面倒臭いなら消滅させても良いと仰せですか……
『……』
——あ、はいはい。光の女神様はそんなに焦らなくてもいいですよ。でもちょっと反省すべきでは?えッ?サイコロの目は女神でも変えられない?
なるほどなるほど。ファンブルしたけど消滅させずに世界の理の穴をついて、マッチョ大聖女を爆誕させたと。光の女神様は和マンチの極みですな。ある意味でこの大聖女様は被害者。滅ぼすのは気の毒。面倒臭いけど、仕方あるまい。
僕が、クラーラさんたちを眺めながらこの先の展開に色々と思いを馳せていると、帝国の大聖女様(超紳士)が、語りかけてきた。
「調停者様。そろそろアレを引いてはもらえないだろうか?」
天空を指差しながら大聖女様(超紳士)は困り顔で、僕に懇願してきた。
「見えているのですね」
僕は、驚くことでも無いので、
「もちろんですとも」
帝国の大聖女様(超紳士)も凄みのある笑顔を浮かべる。帝都の臣民1000万人を守る為に差し違える覚悟がありありと窺われる。帝国上空はるか彼方。僕が静止軌道上に展開した神威パンジャンドラムが依然として帝都を狙っていた。
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