第8話 回復術士
「なん……だと……」
異世界と言えば、
「なんだい。あんなのが趣味なのかい?」とフリーダさん。
ギョッとしてフリーダさんの声が聞こえた方向に振り返る。後ろを取られた!?まあ、驚くまでもなく、武術素人の僕に気配を感じることはできない。
『……』
——第三者視点に設定しろと?ああ、デモンズもダクソも第三者視点でしたね。
女神様曰く、
「僕の故郷には
フリーダさんの視線が冷たさを増したような気がする。だらし無い顔になったことを見咎められたからだろうか?
違うのです。テンプレが確認できたので、単に嬉しかっただけです。疾しい気持ちなど2.5ccも持ち合わせていませんよ?所詮、素人ですし?
人と獣の境界線の引き方で
僕がくだらないことを脳内議論しているとフリーダさんがつまらなさそうに応えた。
「あいつは
「趣味?」
「残念だけど、この大陸には、獣人なんていないんだ」
「マジか……」
「そう、いないんだよ獣人も、そして妖精もね」
チ、チクショーーーーッ!僕のワクワク感をどうしてくれるッ!異世界にウサ耳も猫耳もいないとかありえんのだが?
『貴方は厳しい現実と向き合った』
『貴方は
『貴方の
——ありがとう。ありがとう
「神話……違うな。御伽噺に出てくる兎人の回復術士が有名なんだ。回復魔法が使える子供たちの憧れのようなものさ。アイツのは拗らせすぎてあんな格好をしている。ま、腕は確かなんだが、いろいろ問題があって、
「この支部の人たちは尖った感じの人が多いのか?」
「多様な人種が集まる王都程じゃない」
人種が違えば色々な価値観や習慣の違いがあって、軋轢が生じますよね。同じ人種でも民族が違えば言葉も文化も違いますし、互いに尖った存在に見える、といった感じだね。
『……』
——え?人種の意味が違うのですか?
女神様曰く、ドワーフ、エルフ、ホビット、オーガは人間。懐深いな異世界。ん?いや人種なんだろうけど、なんかこう座りが悪い。霊長類という分類のような気がする。キツネザルとチンパンチーの違い程度には互いに違うように思える。
『……』
——あ、そうなんですね。
なるほどなるほど。交雑可能なのだから一括りで問題ないと仰せか。ネアンデルタール人とクロマニヨン人の違いですかね。ちなみにフリーダさんはオーガで、齢218歳の少女だそうだ。若いんですか。そうですか。
「あ、あのうぅ。ちょっといいですかぁ」
フリーダさんの背後から間伸びした声がした。影に隠れる様に僕のようすを伺っているウサ耳が見える。
「クラーラか、どうかしたのか?」
「……」
フリーダさんは煩わしいと言いたげな表情を浮かべると彼女の背後で気後れして煮え切らない態度のクラーラさんを抱え上げて、僕の前にずいっと差し出した。
「うわぁあ〜」
「おっと」
ウサ耳さんも身長があるので、僕の唇に彼女の鼻先が触れそうになる。近いです。フリーダさんのバグった距離感を他の人に押し付けるの拙いです。僕は僅かに仰け反りながら尋ねた。
「何か用?」
少々ぶっきらぼうになったことは許して欲しい。僕と言う30男の人生に女性に彩られた時期は存在しなかったのだ。目が泳ぐ。ウサ耳のクラーラさんも美人過ぎるぜ。何なんだよこの異世界はッ。女性は全員美人なのか?最高だぜ。女神様に感謝!
「あの、あの、あのぉ〜。貴方は、使徒様ですか?」とクラーラは顔を真っ赤にしながら、そしてとても嬉しそうに尋ねてきた。
「光の女神様の加護を感じます。光の勇者様ですよね?ね?」
僕は困惑する。使徒?光の勇者?女神の加護?加護を感じるとは?
『……』
——あ、そうなんですね。神の加護持ちが使徒ですか。聖職者であればそのまま使徒と呼ばれ、一般人であれば勇者。この異世界には少なからず存在するのですか……
なるほどなるほど。クラーラさんは、光の女神に祝福されているので、光の女神の加護を持っている人の存在を感じることができる、と言うことですね。なるほど。
それはさておき、クラーラさんが近いです。面白がっているフリーダさんに目配せをして、少し距離を取ってもらえないかとお願いするも、女神様との念話のように気持ちが伝わる筈もない。彼女はクラーラさんをさらに僕の方へと押し付けてきた。こんなのが好きなんだろう?という悪い笑顔を浮かべるんじゃない!
「クラーラさん。僕は駆け出しの冒険者ヨウスケ」
そう僕は答えた。締まりのある真剣な表情と瞳に込める力強さを感じて貰えただろうか?僕の考えた最高のイケメンムーブで少し距離を取りながらそれでいてクラーラさんを気遣うような仕草を繰り出した。
「ヨウスケ。ちょっとキモいぞ」とフリーダさん。
「えぇ〜っと、ゴメンなさい。勘違いでした!」と引き気味のクラーラさん。
心に刺さる無表情だ。だが直ぐにゆるふわに切り替わったぞ。おっ?和やかな雰囲気が結界のように展開される。クラーラさん、切り替え早いなッ。おい。
僕は女性の強かさに打ちのめされた。そんな僕を気にも留めず、クラーラさんは踵を返し、足早に闘技場を出ていった。
『……』
——
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