第25話 帝都へ
ヨウスケです。僕は、今、飛行船に乗って王都の空を飛んでいる。さらば王都よ……って
前日のことだ。冒険者組合の待合室で僕ら一党は、だらけながら紅茶(パンジャンドラ無印)と女神様(英国面)から御裾分け頂いたルクセンブルクのチョコレートを楽しんでいた。不意にクラーラさんが僕におねだりをしてきた。
「ヨウスケ様。光の勇者様に会いに行きましょうぉ〜。
「いい噂は聞かないな」とフリーダさんも頷いた。
「光の勇者悪逆非道!光の女神様放置!許すまじ!」とノア君。
そいうことになった。
僕ら4人は、デルミーラさんの執務室に押しかけて、光の勇者に面会に行くことについて、許可を求めたところ。二つ返事で許可してくれた。まあ、彼女にしてみれば、厄介払いができて好都合というところだろうか。デルミーラさんは凄く嬉しそうであった。
フリーダさんが驚愕するほどの短時間で西方の帝国の帝都直行便のくっそ高い飛行船の搭乗券まで用意してくれた上に、飛行船発着口まで転移の魔法陣を使って送ってくれただけではなく、乗船から出航までずっと見送ってくれた。僕は、嬉し涙を溢しながら手を振り見送ってくれる見た目ロリ娘の姿に感動を覚えた。
「必ずここに帰ってくるぜッ!」
僕が、勇者(英国面)パワーで大声で叫んであげるとよほど嬉しかったのか、絶叫で応えてくれたようだが、何ていっているのかさっぱりわからなかった。鬼人族の昔の方言だそうだ。フリーダさんもよくわからないらしい。
その後、空賊や飛行型の魔物に襲われることもなく、出航から七時間の後には帝都上空に到達した。
「ヨウスケ!見よ!
ノア君が嬉しそうに過激なフレーズを口に出しているが、猫耳と尻尾がフリフリと動いて可愛らしいので、この際、過激な発言は聞かなかったことにしよう。そもそも日本人的な価値観で異世界人を説教するなど無粋ですよね?おっと、異世界人は僕の方だった。
帝国は光の女神様を主神として信奉しているだけではなく、闇の女神様の信者たちを迫害している。ノア君にとって倒すべき敵なのだ。
闇の女神様の信奉者は個人主義者が多く、国家の後ろ盾を持たない。死者の都の
今は、この無駄に精巧な猫耳魔道具セットで可愛らしさがレベルアップしたノア君を堪能しようじゃないか。現にフリーダさんもクラーラさんもノア君の一挙手一投足を目で追って楽しんでいる。特にクラーラさんがヤバい。気持ちはわからんでもないが、涎拭いたほうがいいかもね。
『……』
——あ、はい。神威発動もお許し下さるのですか?
なるほどなるほど。監督不行き届きですね。責任は光の女神様だと。承りました。女神様(英国面)から御下知もありましたので、光の勇者様が、善であろうと、悪であろうと、何であろうと、消えてもらいますよ。ええ、是が非でも消します。
僕がそう決意した瞬間のことだ。
ズン!
腹に響く音と振動。続いて連続する。爆発音。
どがーん!どッかーん!
うん。平仮名の擬音だと迫力ないね。
『……』
——あ、はい。攻撃ですね。
なるほどなるほど。
『……』
——ん?
光の女神様がプゲラ(平成)しようとして、一瞬だけ顕現したようだけど、僕の女神様(英国面)に掃き飛ばされたようだ。
まあ、光の勇者様を消すために使徒やら何やらが送り込まれてくるなら、光の勇者様が機先を制するというのは、強ち間違いではない。だが民間人の搭乗している旅客船を攻撃して良い理由にはならん。帝国と王国の戦端を開くにしても民間人を殺すというのは悪手なんだな。この飛行船には王国の貴族やらそれにつらなるものやら大商人など合計130人も乗船してることすら、馬鹿者には分からんのだろう。勇者の毒とは、げに恐ろしきかな。
まあ、僕としては、光の勇者様を消すためのいい口実になったわけだ。
展望室から
展望室の窓越しに光の勇者様を睨みつけていたフリーダさんが動いた。
「客の様子を見てくる」
悔しさを滲ませて、そう言い残すと、フリーダさんが走り出した。彼女は飛行する敵に対処する手段を持っていないし良い判断だろう。
「怪我人いるかもぉ」とクラーラさんが僕の顔を覗き込む。
僕はクラーラさんに視線を向けて頷く。身を守る手立ての無いクラーラさんには、脱出ポッドに乗り込んでいて欲しいのだが、彼女は回復術士の性分なのかフリーダさんの後を追った。
一般乗客には犠牲になって頂いた方が、帝国により一層の圧力を加えられるぜなどと、
僕は
遊底槓桿を引き戻し、薬室に.303ブリティシュを込める。距離は600m。光の勇者様の武技たる光波の有効射程だな。アウトレンジで決めてやるぜぇ、とか思ってそうだけど、残念だったな。
僕は相棒を構え、照星に光の勇者様を捉えた時、見覚えのある猫耳と猫尻尾が視野に飛び込んできた。
「ん?ノア君」
スコープとは違い、標的を狙っていても視野がある程度確保できる。それが
おお、ノア君も飛んでるよ。スゲェー!
光の勇者死すべし!とか叫んでいるようだ。勇者の超感覚を使うまでもなく、飛行船の風切り音や推進器の音に負けることなく、ノア君の怒りの叫び声が伝わってくる。闇魔法全力展開という感じだろう。
キンキンキン!(激しい戦闘)
闇の使徒様であるノア君と光の勇者様が超高速で飛翔しながら斬り合っている。急旋回からの斬り付け。急停止からの受け流し。ノア君ってば接近戦も行けるんだ。
ノア君が光の勇者様を抑え込んでいる間に消化作業が進み、予備の推進器を展開することで、飛行船は墜落を回避できたようだ。そうこうしているうちに足の早そうな小型の飛行船が近づいてきた。帝国の巡視船のようだ。遅過ぎませんかねぇ?
拡声魔法で「双方、剣を納めよ!」とか偉そうに言ってますねぇ。それで
おっと、うちのノア君は良い子過ぎるぜ。素直に猫型魔杖を収めてしまった。ノア君の隙をついて光の勇者様が襲いかかる。守護らねばッ!
Pipes & Drums が鳴り響く。勇者の超感覚が瞬時に発動。時が粘りつくように遅くなる。網膜に火器管制系の表示が浮かび上がり、敵味方の識別表示、距離、速度、方向、予測位置による補正などの射撃諸元が瞬時に僕の体と
ズドーン!
巨大な発砲音と発火炎。展望室の窓を盛大に破って、神力が載った.303ブリティッシュが光の勇者様目掛けて飛翔する。光の女神の加護も光の勇者の魔法も結界もジョン・ブル・魂ッ!の前では無力だ。全てを突き抜けて、
巡視船搭乗員全員とノア君が固まっている。狙撃地点の僕を冷たい眼差して見つめているようだ。おっと、僕はやらかしたようだな。反省反省。
『貴方は空気を読むことを覚えた』
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