第30話 自動人形

 僕は、風の女神様の祭壇を経由して、ピラミッドの基底部まで転移した。


 ——うむ。神力とは便利だね。


 目の前の床には、地下に続く階段を塞ぐ大きな石の扉。風の女神様の紋章がこれ見よがしに彫り込まれている。紋章の上部にあからさまな半円状の溝。僕は、迷うことなく、巨人の影が落としたオーブを嵌めこむ。すると——


「回るのかよッ!」


 —— TES V のギミックの如く、扉は音を立てて回転を始めた。


 人一人が通れるくらいの開口が目の前に移動してくると、同時にガッチと重い物がはまり込む音が響く。


 扉の仕掛けには意表を突かれたけど、僕は敵性目標に対して油断することなど無い。侵入者に対して何者かが動き出す。暗闇の奥にが3つ。ゆらめいている。カシャカシャとカムが動くような音を響かせて迫ってくる。


 ズドン!ズドン!ズドン!

   ギャン!ギャン!ギャン!


 銃声と共に金属の弾ける音が響く。僕の相棒SMLEから放たれた.303ブリティッシュが暗闇から這い寄るモノを即座に無力化した。


「一〇万年。ご苦労。ゆっくり休みな。ベイビー」


『……貴方は、レプ■ケ■タ■に遭遇した』


『貴方は、レ■リ■ー■ーを三体連続で屠った』


『貴方は、トリプル・キルの実績を解除しました』


『実績解除により、貴方のジョン・ブル・魂ッ!のレベルカウントが上がりました』


 ——世界の声シスログさん、伏字が雑じゃないですかね?


 あと一瞬、微妙な間があったけど、例のアレですよね。『キモッ』ですよね?まあ、いつものことなので気にしません。僕は勇者(英国面)ですからね。(英国面ッ)。


『……』


 ——あ、ハリウッド風のセリフは似合わないと。そうですか。いつもの様に『キモッ』の方がダメージ少ないですね。


 僕がボヤきながら通路に踏み込もうとすると、偵察兵さんが手で制しながらハンドサインを送ってきた。


「おっと、貴女が先行するのですか?」


 前回召喚した方に比べると色々マッシブな状態なので、一目見れば中身が女神もとい女性であることは、丸わかりだ。最近は、付属物がついているお得感満載な方々もいるけど、兎に角、ボンキュボンナイスバディは女性ってことさ。


 偵察兵さん(ナイスバディ)は、二回ジャンプではなく、ハンドサインで肯定する。そして行動指示も的確だ。バックアップですか。なるほどー。ツーマンセルね。


 偵察兵さんは慎重に迷路のような通路を進む。僕は相棒SMLEを構え、背後にも注意しながらカバーするように、彼女の後に続く。カティングパイとクイックピークを併用。ポイント毎に相互に安全を確認しながら、僕たちは最奥に至る最後の通路にたどり着いた。


 その天井も壁も床も昆虫型自動人形に埋め尽くされていた。しかし、ほぼ全ての昆虫型の機械メカ虫は錆びつき、朽ち果て、触れた先からガシャガシャと崩れ落ちてしまう。中には、を弱々しく光らせている個体もあるようだが、銃剣の先をガッと差し込めば、難なく仕留めることができる。


『……』


 ——なるほど。性能はレプ■ケ■タ■に似ているのですね。


 メカ虫の厄介な点は、相互ネットワークを形成して知能体として機能するだけでなく、その状態を維持しながら自己複製して無限に増える事だ。勿論、エネルギー源がなければ、修復も増殖もできない。この最奥に至るまでに遭遇した機体は、ほぼ全て朽ちていたことから、奴らの零点機能体ゼロポイントモジュールに機能不全が生じたのだろう。

 其れならば、最奥で風の女神様の印相を隔離している奴も事切れていると願いたいところだが、勇者(英国面)の超感覚が敵役の健在を告げて来る。おっと残念だったね、と言わんばかりだ。自分のことながら何だか腹立たしい。


 僕たちは通路を抜けて、やたら巨大な最後の部屋ボス部屋に至り、最奥に鎮座するゴーレム(レ■リケ■タ■の群体)を視界にとらえた。


 ボス部屋は某球団に見捨てられた某ドーム球場に似た形状だ。特に天井がそっくりだ。おそらく内側の高さも広さも同じであろう。中央よりも奥側に祭壇ステージが設てあって、その上には蜘蛛の様な八足歩行のゴーレム。奴は前脚二本を大きく広げて、僕たちを威嚇している。ほどほどの大きさだ。全高一五メートル、全幅全長は三〇メートル。僕の勇者心眼には奴の諸元が映り込んでいる。


 僕は思わず「健在かよ」と悪態をついた。


『……』


 ——アッ、ハイ。版権の問題が発生しそうな発言は控えます。ではなくメカ虫デス。そもそもの方には目となる機能モジュールは装備されていませんよね。


 伏せ字がダメダメな段階で、最早、手遅れだと思いますけどね。他所様SG-1のネタを引っ張って来ているだけでも、なんですけどね。女神様たち身内だけで盛り上がるだけなら、大人の事情アレやコレやを考える必要もないけどさ。女神様たちの身勝手さに巻き込まれる異世界人達はお気の毒過ぎですわッ。


『……』


 ——ナニモモンダイハナイデス。ハイ。


 「慈悲無き世界の貌は無情に逆巻く波の如く」ですなぁッと。女神様(英国面)の虚空な瞳がヤバいので余計なことを考えるのは止めておこう。そうしよう。


 其れはさておき、メカ虫の数が多すぎだぜ。さてさて、どうしたものかと思案していると、偵察兵さんが支援砲撃を奨めてくれた。


「火力支援で吹っ飛ばせるの?此処は地下墳墓だけど……」


 偵察兵さん(ナイスバディ)が頷く。ガスマスクで表情は隠れているけど、何故か嬉しそうなのが引っかかる。


 まあ、神威パンジャンドラムをの要領でぶち込むという手も無くは無い。しかし、ご存じの通り、パンジャンを放った瞬間、此方に向かって来る可能性も少なくない。閉鎖空間で使用は避けるべきだろう。では砲撃要請しましょうかね。


東経一〇五北緯二〇地点ロの二いつもの場所にお届け物をヨロシク


 砲撃要請の巫山戯た呪文を唱えれば、何もない空間から弾幕が降り注ぎ、標的が閃光と爆風に包まれた。天井がぶち抜かれた訳ではない。


 これは異次元からの贈り物。HEIAP弾ですわ。これは砲撃支援ではありませんわ。近接航空支援(CAS)による対地攻撃ですわ。やばいですわ。異常ですわッ。


『……』


 ——アッ、ハイ。当世流TSお嬢様風の語りは評判が悪いと。なるほどー。


 無茶苦茶過ぎる。物理的な障壁とか一切合切無視して、膨大な火力を叩き込んでくるとか無いわ。一瞬、呆れそうになったが、そう言えば、パンジャンドラムを静止軌道から地上に叩きつけるようなことをやってのける女神様(英国面)だったことを思い出した。流石、女神様(英国面)で↑す↓わ→。


 ——そもそも論になるのですが、CAS攻撃これができるならば、僕など不要なのでは?


『……』


 ——僕がマーカーでしたか。


 なるほどなるほど。勇者(英国面)を通して間接的に干渉することはできるが、直接干渉はできないと。それが世界の理縛りプレイなわけですね。なるほどー。


 どうやら僕は敵地に潜入して破壊目標にレーザーを照射する一昔前の特殊部隊SASの部隊員のような役割を担っているらしい。自覚は大切。それだけで Pips & Drums が聞こえてくる。徐々に大きくなる。


 CAS攻撃で蜘蛛型ゴーレムをバラバラに破壊したとはいえ、眼前には未だに数百体のメカ虫どもが蠢いている。時間が経過すると奴らの修復が始まるだろう。


「さあ、残りのどもを片付けようか?」


 僕の背後から声がかかる。振り向くまでもない。第三者視点に切り替え済みだ。クリストファー・ジャッジ(おいおい)にそっくりな偉丈夫に率いられた屈強なる男達が着剣状態のL85A2を構えているのが分かる。僕のジョン・ブル・魂ッ!が頼もしい援軍を自動召喚したのだ。


「はい。中尉殿!」と僕はジャッジ中尉殿に応える。


 満を持して「突撃Charge!!」とジャッジ中尉殿が叫ぶ。


 号令一下、中隊規模の召喚兵士ロイヤルアーミーが銃剣を煌めかせ一斉に突撃する。神威を纏うその姿は壮観であろう。栄光の「タンブルダウン山の戦い」や「ダニーボーイの戦い」も斯くやであろう。

 何故か、偵察兵さん(ナイスバディ)も着剣済みのNo.4で一緒に突撃している。ウッキウキで突撃している。見なかったことにしよう。


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