第31話 生ける死体
僕は、積み上げられたメカ虫の残骸の上で、偵察兵さん(ナイスバディ)が喜び舞う姿を、呆けながら眺めていた。鉄兜を脱ぎ、滑らかに煌めく深緑の長髪を靡かせ、くるりくるりと回りながら、軽やかに踊る彼女の姿は、溜息が漏れるほど美しかった。できれば、ガスマスクは外して欲しかったと思うけどね。
そうこうしているうちに踊り終えて満足したのか、彼女は
『貴方は風の女神の
——あ、はい……
異星人のゴーレム(メカ虫の群体)は破壊済み。
『……』
——次は、火の神様の神殿ですね。承りました。
僕の一人ポエムが始まる前に、女神様(英国面)が御神託を飛ばして来た。であれば、
女神様のお告げ通り、風の
『……』
——ポータルですか。なるh——
なるほどを言い終える前に僕は火の女神様の祭壇地下に強制転送された。僕の敬愛してやまない女神様(英国面)は、本日、機嫌が頗る悪いようだ。いつも通りに冷めたような半眼で見守っては下さっているんですけどね。やはり緑髪を靡かせながら可憐に踊る風の女神様のたゆんたゆんをガン見していたのが拙かったのかもシレン。
僅かな罪悪感を引きずりながら地下墳墓の迷路のような通路を進む。30分程歩いて一人の敵にも遭遇しなかった。どうにも怪しい。曲がり角の手前で、勇者の超感覚を発動。向かって右手側、長く直線状に伸びる地下通路の先。迷路の終着点。僕は広い玄室に無数の敵を察知した。敵性反応の数が多い。みっしりと詰まっている。
この直線通路をあと10分も歩けば、ボス部屋であろう玄室にたどり着く。突入前に戦術を組み立てよう。僕は、曲がり角近くの柱の影に身を潜めた。対メカ虫戦の銃剣突撃で消耗しているということもあり、柱に背を預けて座り、少し休憩を取ることにした。その間、幸いなことに敵が近づくようなことはなかった。
暫しの後、僕は、突入する前に相棒の弾倉の残弾と弾薬嚢のクリップ数を検めた。少々、心もとない。援護兵さんを召喚しよう。そうしよう。僕は召喚呪文を唱える。
「銃弾の補充が必要だ。
一瞬、僕の視界が、布のようなもので遮られた。顔を上げれば、怪しげな人物が仁王立ちで、僕を跨ぐようにその場に出現した。なんだ、この援護兵さんはッ!近すぎるのおッ。それに恥じらいの無いパンチラはご遠慮願いたい。
「ふむ……」
その怪しげな援護兵さんは、ツインドリルが邪魔で、
それはさておき、何故、フリルマシマシの黒いミニスカなのでしょう。白タイツに洗練された黒い編み上げの
しかも彼女の獲物はNo.4ではなくドリルだ。穂先がドリルの長槍だ。唖然として見上げる僕をガスマスク越しに冷たい視線が見下ろしている。嗚呼、ガスマスクは装備するんだ。女神様たちの拘りなのだろうか?
「あの、すいません。援護兵さんには見えないのですが……」
彼女は、チッチッチッという感じで左手の人差し指も振る。援護兵ではなかった。
「突撃兵……ですか?」
大きな動作で頷いているよ。真紅の髪色のツインドリルが揺れる。「そうです私が火の女神デス」と言わんばかりの激しい自己主張。少しは、隠す努力はしようぜ……。
一瞬、賽子が転がる音が聞こえた。同時に突撃兵さん(火の女神様)は、最奥の玄室に向かって、槍を構えて猛然と走り出す。僕は、数多の赤軍兵の魂が「Ураааааааа!!」と叫びながら彼女と共に突撃する姿を幻視した。呆気にとられている隙に彼女は通路の奥へと消えた。
「って、ちょっと待てや!!」
僕は慌てて彼女の後を追う。勇者の超感覚が彼我の戦力分布を捉える。突撃兵さん(火の女神様)の動きに反応したのか、敵もこちらに向かってくるのが判る。
間も無く、僕は視界に敵を捕えた。「思った通りだ!くそったれッ!!」と僕は毒づく。殺到して来る敵は、ちょび髭軍団(ゾンビ)だ。元ネタが多すぎて、何から引用したのか、さっぱりわからないぞ。
『……』
——ナチ★・ゾンビですか。★はいらないですよね?あ、はい。
なるほどなるほど。今更ながらのご配慮ですね。なるほどと女神様(英国面)とイチャコラしている隙に突撃兵さん(火の女神様)が接敵した。
敵の先陣が突撃兵さん(火の女神様)と赤き魂の集団の突撃によって瞬時に燃え上がり灰に還る。見る見るうちに敵性反応が消える。これは勝ち確かも。まあ、そんなに甘くはないのでしょうけどね。
神力ぶっぱとか反則では?と思っていた時期が僕にもありましたよ。実際、甘くなかった。次々にゾンビがゾンビアタックして来やがる。
「数が多い。数がッ」
分隊火器MG42とか、パンツァーシュレックとか、ゾンビのくせにいろいろ面倒くさい。重火器ゾンビを
だが甘いのは僕だけじゃ無い。此方には突撃兵さん(メタンハイドレート)がいるんだぜ?和マンチも交渉人の呆れるキツイ一発を打ち噛ましてやる。やってやる!
「その前にッ!」
連中の火力に押されてナチ★ ・ゾンビの軍団に飲み込まれそうになる突撃兵さん(火の女神様)を回収。赤軍の魂は盾になって成仏してもらいましょう。
僕は彼女を小脇に抱えて、勇者パワーを発揮して撤退行動を開始する。床を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り、ぐるぐると螺旋状に飛び跳ねて、敵弾を回避しながら玄室に繋がる長い長い地下通路を抜け、最後の曲がり角に辿り着く。
すると半透明の
『貴方はナチ★・ゾンビを倒しました』
『貴方は——』
——
視界が塞がれるので、取り敢えず、ご推奨選んで、ジョン・ブル・魂ッ!の表示を消す。続けて、僕が「出よ!偉大なる鋼鉄の戦士よ!!」とそれっぽいセリフを唱えれば、
「C3'GCかよッ!」
『……』
——いえいえ。TOG 2重戦車はちょっと。はい。C3'GCが良いです。チャーチル戦車はレンドリースされて東部戦線で大活躍してましたね。まあMk. VIとかでなくてC3'GCなのが謎ですけどね。
『……』
——ア、ハイ。カワイイデス。
なるほどなるほど。女神様(英国面)には可愛らしく見えると。なるほど。
それはさておき。逆卍なゾンビどもです。調子にのってワラワラと玄室から攻め出て来やがりますわ。だが、ここまでだ。僕が突撃兵さん(火の女神様)に神力発動をお願いすると親指を立てて応えてくれた。直ぐにメタンガスが玄室に広がり、いい感じで空気と混合したところで、僕はタイミングを逃さず、榴弾を発砲するようC3'GCに命じる。
一閃轟音。
玄室奥に榴弾が着弾すると大爆発。衝撃波はゾンビ軍団を瞬時に粉砕する。爆轟による衝撃波はゾンビ軍団だけではなく僕達にも襲いかかる。僕は勇者パワーでなんか凄く凄い結界を張って、突撃兵さん(火の女神様)とC3'GCを守る。
「うむ。僕って男前ッ」
『キモッ』
——
何かにつけて、キモッキモッ言われていた所為だろか、あらぬ性癖が生えて来たようだ。
赤い光線が充満する煙を切り裂き、C3'GCの上部装甲を貫通する。瞬きする間もなく、C3'GCが爆散。そして煙の中からぬっと現れたのは——ちょび髭ロボ——お約束なヤツだった。頭部だけが透明なキャノピーで覆われているタイプだ。
ああ、はいはい。わかってましたよ。出ると思ってましてけどね。目からビームとか笑えば良いのかな?
「チクショーメーッ!」
Pips & Drums が玄室に鳴り響く中、僕は単騎突撃して、チョビ髭ロボの頭部を吹き飛ばすのだった。
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