第32話 死兵団
僕は、火の女神様(突撃兵さん)が巨大な火の
『貴方は、火の女神の
——火の女神様のキャラ違ってませんか?豪快すぎて原型留めてないですよね。
僕は、
『……』
『貴方は、世界の深淵に触れた』
——何だろ。間があったような気がする。
『貴方は、世界の深淵に触れた』
——深淵に触れたら、何か、特典でも貰えるのでしょうか?
『貴方は、世界の深淵に触れた』
——ア、ハイ。
世界の理に続いて世界の深淵ですか。取り敢えず、都合の悪そうな事は忘れることにすべきなのでしょう。
微かに賽子がテーブルの上を転がる様な音が聞こえた気がした。
僕は、気を取り直して、転送用のポータルが何処かに設置されていないか、周囲を見回した。残念なことに、土の女神様のレリーフも水の女神様のレリーフも、何処にも見当たらない。さてどうしたものかと思案すること暫し、祭壇の奥に設えられた出入り口から小さな女の子が手招きしているのが目に入った。ガスマスク装備の幼女とか凄い絵面ですわ。
『貴方は、土の女神様に邂逅した』
——世界の声さんは、最早、隠す気も無いと言った感じですね。
そこで女神様(英国面)が注釈を入れてくださった。
『……』
——マジですか。ジョン・ブル・魂ッ!のレベルカウントが上がったから、女神様達の分霊を召喚できるようになったと。
なるほどなるほど。調停者の強化目的で
『……』
——ア、ハイ。調停者自体がチートでした。普通の勇者では
なるほどなるほどと、取り敢えず、女神様(英国面)とグダグダと話し続けていたかったのだが、僕が気乗りしていないことなど当然察する女神様(英国面)は、無言でハギス(腸詰一族の中の偉大なる王)を突き出して、僕を急かせる。モタモタしているとハギス喰わせるぞッ!ということなのだろう。
この
さてもさても気分は低調だが止むを得ない。僕は、手招きする小さな女神様の近くまで、慌てずにされど勿体ぶらずに、歩み寄る。現代日本であれば事案発生である。一歩程度の距離を置いて向かい合う。彼女の気分を害するかもしれないが、僕は目線を合わせるように蹲む。
身頃の丈が短い白い小袖を着込み、藍色の半長袴、燕脂色の帯を両流しに結んでいる。黒漆色の木履の赤い鼻緒が白足袋に相まって愛らしさが引き立てられている。それ故にガスマスクの異様さが際立つ。其ればかりか、頭部装備の刃物の煌めきが、心を
「えーっと、それ、苦しくない?」
「さいですか……」
彼女の背後の暗い天井に視線を外したところで陰鬱さが増すばかりだろう。諦めて立ち上がれば、彼女は親指を立て、背後を指さすと、出入り口の奥へと歩き始めた。彼女の背中には2本の切りたn……NLAWが浮いていた。あゝ、ジャベリンじゃないんだ。
「さあ、後に続きますか」
50歩も進まないうちに通路の雰囲気が変わる。転移した気配すらなかったが、勇者の超感覚が、今や此処が地の女神の祭壇地下であると告げてきた。地下は闇の女神様の領域であるが、地の女神様の領域でもある。幼い見た目とは裏腹に、地の女神様の分霊は膨大な神力を行使できる、ということだろうか?
僕の敬愛してやまない女神様(英国面)が応えてくれる。
『……』
——見た目は幼女、中身は大地母神クラスであると。そいつはスゲーデス。
なるほどなるほど。
彼女の両流しの帯がゆらゆらと揺れる。ポックリがかこんかこんと地下道に響く。通路を照らす魔石の燈が彼女が近づく毎に順次灯る。実に便利なのだが、これじゃ敵に察知されるだろうね。
網膜上に投影されたマップ上の敵性反応がこちらに向かって微妙な速さで移動してきている。ナチ★・ゾンビに比べると酷く遅い。流石に気がつくか。先を歩いていた彼女がハンドサインで停止することを告げ、NLAWを構えた。そりゃ、もう好きにやっちゃってくださいな。僕は、カウンターマスの塩水で吹き飛ばされないよう、幼神様(地の女神)と横並びで身を屈めた。
バシュッ!
弾体が射出される。
ズヴァーン!
弱装射出で数メートル飛んだ後、ロケットモーターが起動。一気に200m/sまで加速。
ドンッ!
標的に直接命中。弾体が炸裂する。
十体近い敵が纏めて吹き飛ぶ。続けて二発目が撃ち込まれて、敵の集団の数十センチ上で炸裂する。同じ様に十数体の敵が薙ぎ払われた。
「さあ、どんどん。やっちゃってください」
NLAWによってテンションが上がってきた僕は追加注文するも、幼神様(地の女神)は打ち止めとばかりに頭を振る。確かにNLAWは使い捨てですけどね。そこは神力で補充するとかできませんかね?あ、できない。そりゃ残念。まあ、行けと仰いますよね。そのための勇者(英国面)ですし。
僕は
「露払いありがとうございます……」と僕は立ち上がる。
さて、このまま突貫しても芸が無い。とはいえ、クールタイムが明けていないので、C3'GCは召喚できない。CASも要請不可。なればパンジャンドラムかと迷うが、やはり狭い空間で使うのは拙いだろう。手札がそもそも少ないのにあれこれ考えても仕方がない。ここは外連味も衒いも不要だろう。
ぎこちなげに近づいて来る敵に合わせて、僕も
勇者の超感覚を使わずとも、敵をはっきり視認できる距離まで近づけば、奴らの背が妙に高く見えた理由が判明する。スティルツを装備しているかのように脚部が長い。複足にも見える形状だ。両手の指から鋭い刃物がのびているだけではなく両腕には鋸形状の長槍が装備され、体躯を支えていた。
しかも、ドイツな鉄鉢、ドイツなガスマスク、ドイツなトレンチコート。よく見れば、ガスマスクのホースがドリル。逆卍の腕章の白抜きの赤が映えているぜって、チクショメーッ!天丼じゃねーか。ナチ天丼とは胃に凭れそうだ。
『……』
——
なるほどなるほど。今流行りの
『……』
——うわッ。ちょ、ちょっと待ってくd——
B級SF&ホラー&スプラッターな映画の知識が流れ込んできた。無駄な知識が増えりゅぅのぉ゛お゛お゛……などと、
あゝ、嫌な予感はこれだったのか。代替物ならざる人工物による肉体の置き換えを目の当りにした違和感。まさにB級映画に登場するサイボーグ——肉体と機械が雑に融合している——に感じる忌避感。漸く、 Pips & Drums が聴こえてきた。僕は、先頭集団を形成するモスキート★メンに神力を過剰に充填した.303を打ち込み吹き飛ばす。間髪入れず、僕が2個中隊規模の英霊たちを召喚すれば、無貌の先任中隊長殿が雄叫びを上げた。
「
怒涛の銃剣突撃がキマる。栄光の銃剣突撃の前では武器★人間など只の骸に過ぎない。死兵団はまとめて成仏せよ。
僕は、ロイヤルアーミーな英霊たちと共に玄室へと雪崩れ込み、敵を一掃した。気がつけば幼神様も僕の傍にいる。彼女が抱えている使用済みのNLAWには、人間の体液のようなものが付着しているけど、見なかったことにしよう。
それはさておき、勇者の超感覚は、依然として玄室内部に多数の適性反応を捉えている。
「上かッ!?」と僕は叫び、高く暗い天井を見上げる。
風船のように膨らんだ体躯のおっさんたちが天井に張り付いていた。数えるのも嫌になるくらい多数いやがりましたよ。此奴らは、恐らくライジング★サンであろう。こちらを睨みながら嫌な音を立てている。何とかして、僕たちに攻撃を仕掛けようと蠢いて意いるが、高い天井に閊えるだけで、降りて来ることはなかった。
僕と幼神様は、天井に張り付いている怪異から視線を戻し、暫く見つめ合った。連中については、このまま放置するということで意見が一致する。彼女は、スタスタと祭壇の上に移動し、そこに設置されていた
『貴方は土の女神の
『次の祭壇に転移しますか?』
——おっと、選択肢が出てくるとは新しい。ジョン・ブル・魂ッ!のレベルカウントが上がったせいだろうか?勿論、YESですぜッ。
そこで一寸待ったッ!という感じに僕の敬愛してやまない女神様(英国面)が転移を止めた。
『……』
——えッ?風船おじさん達を始末しろと仰せですか。いやいや、なんか臭そうですし、爆発しそうですし、汚い叫び声を出しそうですし、それに.303ブリティッシュが勿体無いですよ。
『……』
——それ、いいですね。それにしましょう。
僕と女神様(英国面)がぐたりながら出した結論は、遠隔操作で
その結果、地の祭壇が据え付けられた神殿の地上部分が半分ほど沈下してしまったのはご愛嬌。
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