第33話 水の女神
僕は、先ほどのハイルな死兵団との戦闘を引き摺っている。
「ライジング★サンは強敵でしたね」
転送された先、誰もいない空間。目前に地下迷宮の出入り口。独り言しても僕の気は晴れない。発動機付鋸男のパッチモンは中々デザイン性が高く、メカメカしくて良かったが、風船おじさんは生々し過ぎて、未だに嫌悪感を拭い去ることができない。
彼奴らはルッキズム以前の難事だろ。全裸コートの変態、いや死体だ。しかも血を吸って丸々と膨れ上がったマダニを連想させる形状。あれを考えた奴は、白痴の夢を見る神の眷属に違いない。
賽子が転がる音がする。今回はハッキリ聞こえた。光の女神様以外の五柱様の
『……』
——はい。本日これが最後ですから頑張ってお仕事しますよ。大丈夫です。
ですから、キッドニーパイを笑顔で出すのは止めて頂きたい。割と本気です。大体、パイならコテージパイとかあるじゃないですか。あれは旨い。パイ生地の代わりにジャガイモ使ってますけどね。あゝ、ジャガイモはジョン・ブル・魂ッ!的に正しくないのかも。
ドイツといえばジャガイモだが、ジャガイモ野郎よりは、
閑話休題。
渋々、僕は歩き出す。さっさと水の女神様の
迷宮全体のマップを視界の隅に投影する。勇者(英国面)の能力のお陰様で、侵入者対策の迷路であっても迷う事なく、勿論、罠に引っかかることもなく、最短経路を通って玄室に到達した。所要時間は、凡そ一時間といったところだろう。
どぼーん!
——出せば水中に落下。何処ぞの地底湖並みに豪く深い。石床に10センチほど地下水が溜まっているようにしか見えなかったのにッ!水没するとは驚きだ。『残念だったなッ!トリックだよ』ってか?こいつは
僕は、どうにか元の場所に這い上がった。仕切り直しだ。一度、相棒をマジックバックに収納。勇者パワーで濡れた衣服を乾かす。次いでに異世界定番の浄化魔法で汚れやら何やらを落とす。ゾンビとの連戦により酷い匂いがこびり付いているはずだ。自分の臭いは分からないからね。
「ひょっとすると勇者(英国面)は臭いのかも知れない……」と僕は呟き、だからこそ女神様達はガスマスクなのかッ!?などと心中で一人惚けをかます。
『……』
——
僕と
『貴方は水の女神に遭遇した』
——あゝ、納得です。伝説のウサ耳の癒し手は、水の女神様の眷族だったのか。
水の女神様は狐耳。眷属はケモ耳族に違いない。蒼みがかった薄鈍色に銀を混ぜ合わせた様な色合いの豊かな長い髪に紅赤に花紫を薄く載せた瞳(ガスマスク越し)。愛らしくも整った佇まいは十二分に神聖さを醸し出している。真珠の様な白を地色の振袖。袖は、袖下から袖山に向かって、露草色から薄い天色に更に白衣へと段階的に暈し染められている。
ふふん、という感じで、腰に手を当て、両肘を張り出して、胸を張る。はい、ブルン頂きました。着物でも揺れますのね。神力すげぇです。さすが水の女神様ですわ。
『「そうですわ」』
なんだろう、生声が聞こえた様な気がするが、気にしたら多分不味いことになる。平常心で聞き流そう。
『「さあ、ぶちのめしますわよ」』
判っていてやっとるなこの御柱様はッ!
因みに、僕と僕の敬愛する女神様(英国面)については、脳内再生されているだけであって、物理体として直接では無い。四原質の女神様達については、
水の女神様は祭壇近くの石床を指先す。僕は、そこに視線を向けるが、水面が揺れるだけで、何者かの気配もない。念の為にと相棒を再度召喚して、.303ブリティッシュを薬室に込めれは、遊底と槓桿が良い音を響かせる。気合が入る。油断はない。
水に浸かった時、僕は膨大な敵性反応を感知していた。敵は水性の魔獣か何かなのだろう。水面から飛び出して来れば、此方のモノだ。.303ブリテッシュを撃ち込んでくれようぞ、と息巻いてはみたものの、問題は敵を誘き出す手立てが無いことだ。
僕は、女神様に何とかなりませんかねぇ?と尋ねようとしたのだが、瞬きする暇もなく、玄室に満たされた水が掻き消え、石床が露出する。
さてもさても、先ほどの水没は、単なる深い水底の幻想だったのか、石床を浅く浸す水溜まりが幻影か、或いは、此処ではない異界の
結果だけみれば、水面も水底も消えたのであれば、水性の魔物など一掃されたのではないだろうか?
「この状態で、僕は何を——」
水の女神様にそう尋ねようとした時、僕のジョン・ブル・魂ッ!が敵の出現を告げる。振り向きざまに
「鮫かよッ!」
確りと視界に捉えることはできるのだが、此奴の気配は稀薄だ。恐らく物理体ではないのだろう。属性神力未充填の.303ブリティシュでは分が悪い。元ネタが判明すれば、ギミックも分かるのだが、鮫映画は数が多過ぎる。此奴の元ネタが何なのか分からない。原点にして頂点たる
『貴方は、
——アサイラム系じゃないですよね。しかもゴーストとか厄介じゃないですかッ!
そこで女神様の解説(御神託)が届く。
『……』
——水溜りが無くても移動出来るタイプに設定したのですね。霊体云々は、エイリアンの侵略というエピソードには合ってない様な気がしますけど。
なるほどなるほど。昔の事すぎて、当時、何を考えていたのか忘れてしまったと。大した意味は無いから気にするなと僕の敬愛してやまない女神様(創造神&英国面)が仰せならば、気になどならないし、愚痴など溢してはいられない。
ゴーストな鮫が大口を開けて、空中から僕に向かって突進してくる。敵は霊体。水属性。厄介だな。どうするのかと考えるまでもなく、僕の身体が反応して、すれ違いざまに銃剣で奴を切り付けた。奇妙な手応え。奴は、音を立てて、石床に潜り込んだ。暫しの静寂の後、背鰭と尾鰭を出して、遠巻きに石床や石壁を泳ぎながらこちらの隙を伺っている。
「石の中の水か……」
僕は不意に思い出した。石は意図的に乾燥させない限り水を含んでいる。含水状態と呼ばれているのだが、結晶格子を構成する結晶水とはチョイと違う。石材は硬いが
「ああ、その観点から言えば、確かに未だに水は玄室を満たしている」
そう僕がさらに呟けば、僕の敬愛してやまない女神様(英国面)が満足げに御神託を割り込ませてきた。
『……』
——正解と言われましても。この設定は無理筋に過ぎませんかね。まるで
あゝ、良い手がありますよ。某有名私大の土木工学科教授の義母さん(同い年)から聞いた事があった。ってか、あのクソ親父(海洋生物学の大権威)のことも序でに思い出すとなんか腹立ってきたぞ。
『……』
——おっと、すいません。脱線しました。結婚4回目とかほんと4ねば良いと思いますよ。あッ、僕の方が先に死んじまってますね。
僕は、気を取り直し、意趣返しも兼ねて、ゴースト★シャークをマイクロウェーブで一気に葬る事にした。先ずは、水の女神様(狐耳)には一時退避をお願いして、
「さあ、レンチンの時間だッ!」
決め台詞としては締まらない。
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