第34話 神器
僕は
水の女神様が最後に感謝のハグを炸裂させたので、僕はボリューミーな双丘の弾力さ加減に当てられて、夢心地になった。
『貴方は水の女神の
——
「おっと」
残念。豪快な一撃だったが、当然、僕に油断はない(黒地竜との戦闘を除く)。難なく躱してカウンターの.303ブリティッシュを撃ち込む。
「二体目」
巨人の影が霧散すると、オーブが落ちて来た。今更ではあるが、回収しておくとしよう。
それにしてもこの地に四原質の
まあ過去の経緯を知った処で、過去は変わら無いし、僕の任務は既に完了しているのだから、これ以上あれこれ考えても詮無きことだろう。最早、四柱様が何をヤラカシたのかなど知る必要はない。
不意に魔力の流れが乱れるのを感じて、魔力が収束する先に視線を向けた。丁度、三体目と四体目の巨人の影が沈下した祭壇から煙の様に立ち現れるところであった。攻撃する為というよりは、自ら消滅するために、僕の
僕はため息をつく。闇の勇者だったソフィーのことが脳裏に浮かぶ。グッと堪えて僕は巨人の影を撃つ。銃声は二回。もはやセミオートのように扱えている。神力が充填された.303ブリティシュが巨人の影を霧散させた。オーブが石畳の上に落ちる音がした。これで本当の意味でお仕舞いだといいのだけどね。
僕を労うように瑞々しい果物のような甘い紅茶の香りが漂ってきた。僕の敬愛してやまない女神様(英国面)からの労いのお言葉だろう。
『……』
——ありがとうございます。
『……』
——巨人達の影は遺跡が残り続ける限り復元するのですか?そりゃ面倒なことですね。放っておくと現世の人族に悪影響を及ぼすから全て消滅させよと仰せですか。
なるほどなるほど。先程、消滅させた巨人の影はごく一部で、巨人達の何百万という魂は、原罪によって、この遺跡に縛り付けられていると。魂の解放を目的で何百万も狙撃できませんけど、如何いたしましょうか?
『……』
——巨人達の魂を開放するには
僕は、巨人達の罪が何なのか知りたくもなかったのだが、話の流れで拝聴することになった。15万年程昔の事、巨人達はこの異世界の最初の知的生命体となった。四原質の女神達は、祝福と加護を与えて、彼らに文明を築かせた。順調に文明レベルが発達することで、宇宙へと進出することを期待していた。
しかし、彼らの興味は宇宙には向かず、始原魔法を操る意識の内面から存在の根源へと探究心が向かった。やがて無邪気な魂のままに神秘を暴くと、増長慢となり、巨人達は神々に挑んだ。創造主に対する反逆は確かに罪と言える。
『……』
——裏切りですよね。それが堪らなく愛おしい?無聊を託つにも程がありますよ。
勇者(英国面)とは言えども所詮死すべき存在に過ぎない僕には、那由多を揺蕩う神々の感覚は理解し難い。
巨人が神々に戦いを挑むなど数々の神話に散見される程度には珍しくもない。光と闇の女神の二柱様は、かねてより巨人達が本質的に不従順であることを看破していた。時に望んで、二柱様は周到に用意していた天罰を解き放った。
カルダシェフ・スケールのタイプIIIレベルの文明を有する異星人に巨人達を襲撃させるとか容赦がなさすぎる。多分、光の女神様が事前準備の際に賽子を振ったのだろう。巨人達が始原魔法の使い手であり、この異世界の惑星規模で天変地異を起こせる力を保有していたとして、敵は銀河全体のエネルギーを制御可能なのだから結果はお察しである。神々は、暇つぶしに愛し子に反逆させては、その度にぶり殺して楽しんでいるに違いない。
『……』
——巨人達の影が徘徊するのも見飽きたので、さっさと魂を解放させよと?御優しいことで。いえ、皮肉では無いです。
愛おしいと宣ったかと思えば、見飽きたとは恐れ入る。神々に対する反逆なら未来永劫牢獄に繋いでおけば良かろうなどと思ってしまう。勇者(英国面)の毒がかなり決まってきているので、僕の考え方は一面的で極端に成りがちだ。その所為か、女神様(英国面)の多面的でふわふわと揺れ動く様な思いに追従することが難しい。
滅んだ種族よりも、進化の可能性がある今の人族の方を大切にすべきなのだ。この異世界の人々にとって、始原魔術も巨人の痕跡も不要。全て消し去った方が良い、というのが女神様(英国面)のお考えなのだ。最早、巨人たちのことなど関心事ではない。愛情の裏返しは無関心ということだ。
思い出に浸る必要もなく、愛しさを味わうならば、今現在、地上で生活を営んでいる人族から感じ取れば、それで十分なのだろう。
僕は、敬愛してやまない女神様(英国面)と念話を続けながら、船長達の待つベースキャンプに戻った。
「ヨウスケ!生きていたかッ!」
ふぁるこん号の船長のヤシャームさんが迎えてくれた。遺跡が沈下した時は、ダメかと思ったらしく、豪く心配を掛けてしまったようだ。
「見ての通りです」
僕は両手を広げて五体満足であることを伝える。
「
「神印はこの通り……」
僕は鞄から神器を取り出した。それは、帝都から出発する日に僕の敬愛してやまない女神様(英国面)から預かった神に至る為の器は鈍色に褪せていて、ちょっと触りたくないような代物であった。今や僕の手の中で、神々しい輝きを取り戻している。触っていると怪しげな囁きが聞こえる。ヤシャームさんの目の色の変わりようを見れば、やはり人目に晒してはいけないと感じた。
「おおッ。神器が鈍色から瑠璃色にかわってるなッ!!」
ヤシャームさんが僕の背中をぱんぱんと叩いて偉業を褒め称えてくれた。
『……』
—— 始原魔法は世界の理を乱す。今の人族の世には邪魔物であるが故に遺物は渡すのは厳禁であると。遺跡もろとも
なるほどなるほど。今回は船長たちは骨折り損ということですね。御気の毒です。
『……』
——月の女神様の神殿の扉を抉じ開けようとしている魔道具を暴走させて、この遺跡と廃地をつなげるのですか?魔物が溢れ出るから急ぎ備えよと。あゝ、パンジャンドラムで吹き飛ばすのに十分な理由となりますね。
「ヤシャームさん。悪い知らせです。ふぁるこん号を直ぐに飛び立てるように準備してください」
「どうした?御神託か?」
僕は無言で頷いた。
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