第21話 冒険者本部

 ヨウスケです。未だに王都を巡る観光に出かけることができない。王都は水の都と呼ばれていて、とてもとても美しい街並みを誇る。巨大な水路や巨大な噴水。先代王の離宮や女神様たちが祀られている大聖堂。観光スポットをめぐるだけでも2週間は必要らしい。今すぐ、お上りさん専用の巡回馬車に飛び乗りたいというのに、この通り、お預け状態である。なんてこったい。

 バーデンから王都に至るまでの出来事について、フリーダ特戦隊(自称)のグンターさんが詳細な報告書を冒険者組合本部に上げているのだから、それで十分だと思うんだけどね。何故、僕がお偉いさんの前で愛想笑いを振り撒いていなければならないのか甚だ疑問である。白金級冒険者とはもっと自由なモノかと思っていたのだが、何かに付けて、引っ張り出されてしまう。今回は、昼日中既に二時間も拘束されている。


 目の前には、典型的な異世界のBBAにして、語尾が。巫山戯たことに冒険者組合本部の総組合長グランドマスターだのと宣うのだ。頭を撫でたくなるほどににも関わらず。


「御主、何か失礼なことを考えておるじゃろ?」


「いいえ。何も」


 イエスマム!仰る通り大変失礼と申しますか、異口同音、誰もがそう思うであろう事を考えておりますとも。異世界のテンプレの一つBBA。結構なお手前ですな。

 だが僕はロリも合法ロリも趣味では無い。ボン・キュ・ボンが好きなのだ。その所為で2回ほど魂を擦り潰されたけどね。見た目通りの大人の女性が好みなのだよ。ケモ耳が有ればさらに良し。俺に良し(血涙)。


 さてこのグランドマスターのことなのだが、彼女の額の左右から伸びる見事な角は成人した鬼人族であることを示しているとのこと。勿論、情報源は女神様(英国面)。大きな角も可愛らしいと思えるのだが、この世界の常識的に酷くアンバランスで醜悪なことらしい。例えば、フリーダさんは、まだ鬼人族としては少女扱いされる年齢で、未だに角は生えていない。正確には子を成していないので角が生えていない。デルミーラさんの見た目の場合、こんな小さい子供が子供を産んだのかYO!となるらしい。


 女神様(英国面)がさらに詳しく解説してくれた。


『……』


 ——呪いですか。ああ、酷い話もあったものですね。


 なるほどなるほど。500年ほど前に召喚された勇者(地球人)の暴走に巻き込まれて、このような体になってしまったのですね。とても気の毒です。出来れば500年前にお会いしたかった。大人の魅力を溺れるほど味わいたかった。


 小人閑居して碌でも無いことを考える僕は、デルミーラさんが報告書を読み終えるのを待っている。


「フリーダの跳ねっ返りが、おヌシに懐くのも宜なるかなじゃ喃」


 そのフリーダさんのことなのだが、氏族長でもあり上司でもあるデルミーラさんが苦手らしく、お米様抱っこで僕をデルミーラさんの部屋に運び入れると、さっさと逃げ出してしまった。その所為で、僕は、グランドマスターのデルミーラさんと二人きりの状態なのだが、間が持たないにもほどがある。辛すぎるぜ。


 ところでデルミーラさん。語尾無理してませんか。自然体で良いのですよ?その方がさらに可愛らしくなると思います。僕はロリ好きではないが、年相応より見た目相応をお薦めしたい。お兄たんって呼んでも良いのよ?僕はロリ好きではないが……。

 思考というか嗜好があるぬ方向にズレ始めた途端、デルミーラさんが、書類から目線を僕に移して、キッと睨んだ。そして何も言わずに再び報告書を読み続ける。それにしても分厚い報告書だ。


「死者の都でエルダーの群れを屠りおったのか」


 はい。主にクラーラさんがやらかしました。僕はいつもの通り相棒SMLEを使って、.303ブリティッシュを何も考えず適当に撃ち込んでいただけです。最初のうちは、普通に打ち込んでも素通りするだけでした。だからと言って、女神様(英国面)の神威を発動させてしまうと、街ごと吹っ飛ばすことになるので、困っていたところに、クラーラさんが.303ブリテッシュを祝福することを提案してくれたのです。光の女神様からの御神託と言ってましたね。

 ジッサイ祝福は効果的面。エルダーリッチの群体どころか、領主館の跡地の地下深くで御就寝中の真祖様(吸血鬼)まで消滅しました。ヤッタゼ!


「クラーラさんって、凄いですよね」


 取り敢えず、死者の都の全面解放を達成したという素晴らしい功績は、クラーラさんに全て押し付けてしまいましょう。僕に名誉は不要。実利を得ましたので、それ以上を望むと身を滅ぼしかねない。

 エルダーリッチのついでに真祖を消滅させたことで、僕のジョン・ブル・魂っ!ブレイブ・ハートのレベルカウントが出鱈目に回りました。それだけで十分です。王族だとか教会だとかに目をつけられては困るのですよ。


「あれも確かに特別な存在じゃ。まあ里からは嫌われておるが喃」


 デルミーラさんがため息を一つ。机の上にグンターさんの報告書を放り投げる様に置くと、暫く腕組みをして虚空をジッと見つめていた。


「妾の500年は何であったのか喃」


 自問自答であることは明白。彼女のこの脱力感は拙いぞ。沈黙は金だ。いや金だと目立つ(そういう意味じゃ無い)。空気と化すべきだ。限りなく透明であるべきだ。日本人固有のスキル発動。


 陽が傾き始めた頃、デルミーラさんは漸く口を開いた。


「ヨウスケ。ご苦労だった。白金級に相応しい活躍だ。死者の都の真祖討伐クエストはヨウスケ一党が完遂したと認めよう」


「真祖討伐クエスト?ヨウスケ一党?」 


「いずれ国王陛下から召喚状が届く。楽しみにしておれ」


 僕の心中の荒野でタンブルウィードがくるくると回りながら遠ざかっていく虚ろな光景が浮かんだ。

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