第20話 異世界の脅威

 ヨウスケです。現在、狙撃モードです。


 ズドーン!


 初弾命中。本日も相棒SMLEは好調。体が闘争を求めているのか、相棒の咆哮は耳心地が良い。フリーダさんと特戦隊の皆さんの巧妙な戦術機動によって、僕が陣取る小高い丘へと馬賊たちが追い立てられて来る。

 馬賊たちは、フリーダさんのに負けて、恐慌状態に陥り、狙撃者の居場所を確認することもできず、遠距離攻撃への対抗措置にも気が回らない。そんな状況の敵を狙撃するなど実に簡単な射撃演習エクササイズだ。

 僕の連射の拍子は乱れず、標的を仕留め続ける。今や僕はターキーシューターだ。「ハハッ。見ろ、馬賊が七面鳥の様だ」などと呟きながら青毛の馬に乗った馬賊を片っ端から射殺する。

 人を殺すことに一切の躊躇なく、僕自身の行為に自己弁護すら思い浮かばない。照準に標的を捉えては引き金を落とす。同時に撃針がライフル弾の雷管を叩けば、一拍後には標的の頭部が吹き飛ぶ。単純作業の繰り返しに何の感慨も後悔も痛みも伴わない。勇者という世界存在がそうさせるのか、僕の本性がそうさせるのか、この際、どちらであろうとも構わない。興味がない。只々、僕は標的を狙撃する。


 青毛を駆る乗り手がいよいよ最後の一人となった。僕の相棒SMLEの弾倉は空。薬室に.303ブリティッシュ弾MK.8が一発。距離は200メートル。一瞬の閃光。青毛の馬賊が素早い動作で弓を射かける。流れるような美しい動作で連射。敵が武技を発動させて、矢に魔力を載せたことなど勇者の直感が看破する。狙いは正確で矢弾の威力も強い。しかし、当たらなければ意味がない。

 Pipes & Drumsが鳴り響く。僕は立ち膝状態の狙撃体勢から瞬時に駆け出し、全てを置き去りにした。飛来した矢弾は僕が居た場所に虚しく突き刺さる。僕と射手との距離が一気に縮まる。射手は若い。まるで子供だ。眼差しが僕の動きを捉えている。常人ではないようだが、残念ながらここで終わりだ。僕の銃剣の刃先が急所を捉える。


 ドン!


 衝撃波が彼の全身を突き抜けると完全に無力化された。驚愕する双眸に僕の姿が映っている。彼の人生最後に見たモノが僕のガンギマリ顔であったことを気の毒に思う。彼の愛馬は僕の横をすり抜け、乗り手を置き去りにして走り去った。

 僕の銃剣突撃を受けたにも関わらず、彼はまだ息があった。急所を捉えて完全に貫いた筈。一撃必殺を阻止されたことで僕は苛立つ。止めの一撃に.303ブリティッシュをブチ込み、銃剣を乱暴に抜いた。


『……』


 ——そうですか。身代わりの護符というモノがあるんですね。


 女神様が半眼で僕をじっと見ているような気がする。僕が勇者の力に驕っているのか、勇者の狂気に侵食されつつあるのか、あるいは単なる闘争本能の昂りなのか、見極めている。


『……』


 ——……。


 女神様は優しく囁くように僕を諭して下さったのに、何故か全身が総毛立った。見た目は美しく儚げだが、やはり創造神(英国面)なのだと思い知らされる。


 女神様によって、平静な状態に引き戻された僕は周りを確認した。フリーダさんが、最後の一人となった栗毛の乗り手を双剣で切り捨てた。グンターさんたちも各々の割り当てを仕留め終えた。敵対した馬賊の制圧は完了。


 僕は足元の遺体に視線を落とす。身につけている鎧も握られている弓も身に帯びている剣も特別に誂えた逸品。地位のある人物の子息か何かなのだろうか?野盗というには無理がある。


 フリーダさんが馬から降りて、馬賊の遺体を数人検分した後、僕の近くまで来ると、足元の若い馬賊の遺体をしばらく眺めていた。


「これは面倒だね」


 そう一言残して再び馬に跨ると、アントンさんの待つ馬車に戻って行った。お米様抱っこされずに放置されたことにほっとしていると、アントンさんの職人たちが小高い丘に来た。僕は、念の為、全周を警戒する。

 職人の一人が年若い馬賊の遺体を回収した。その職人は、この辺りの草原では遺体を放置するとゾンビ化してしまう、と説明してくれた。これも異世界テンプレの一つと言えば一つだ。

 口に出して説明したくないような方法で、職人たちは30体の遺体をあっという間に処理してしまった。やはりフロム的で暗く湿り気を帯びた重苦しい世界だと思い知る。


 偵察兵を召喚して、彼と共に職人たちの警護をしながらアントンさんの馬車が待つ地点までゆっくり移動した。アントンさんの姿が見えないので周囲を探そうと意識すると、偵察兵が直ちに居場所を特定した。彼が指差す先、馬車隊から500メートルほど離れた場所に、フリーダさんを連れたアントンさんがいた。アントンさんと対面しているのは、馬に跨った大柄の、その姿を見た瞬間、僕の思考が固まった。


 OH!ファンタジーッ!人馬一体とはまさにこの事。


 どこからどう見てもケンタウロス。鎧を着込んだ半人半獣の偉丈夫とアントンさんが何事かを話し合っている。獣人ケモノビトはいない筈では?


 戸惑っている僕に対して、偵察兵が注意を喚起する。隠蔽された騎馬隊が扇状に展開しているらしい。ならば遠隔観測射撃を砲兵に依頼すべきか僕は迷ったが、偵察兵は控えるべきであると具申してくれた。注視で十分。相手が動き出してからでも間に合うということで、しばらく様子を伺っているとケンタウロスは踵、いやこの場合は蹄を返して走り去った。偵察兵が騎馬隊も後退したことを告げた後、僕の前で2回ジャンプして姿を消した。ありがとう偵察の人。


 僕は、戻ってきたフリーダさんに駆け寄った。


「なんて顔してるんだ。子供じゃあるまいし。アレは獣人じゃないぞ」


 クラーラさんが近くで笑っている。


「獣人でなければ魔族か何かですか?」


 僕は目線で答えを求めた。


「魔物さ」


 フリーダさんが肩を竦める。


「魔物の癖に馬賊を従えてやがるのさ」


 フリーダさんは、鎧姿のケンタウロスが走り去った方を見つめた。彼女はそれ以降口を開こうとはしなかった。


『……』


 ——女神様のお仲間の一柱が地球から召喚した元勇者ですか。


 なるほどなるほど。勇者や聖女、聖剣や大賢者、その他諸々、大層な二つ名をお持ちの方々に、女神様たちが碌に考えもせずに力を与えた結果、彼らは魔物となり、この世界の存立を脅かす存在になった。なるほど……。


 それならば、責任の所在はハッキリしていますけど、責任取らせる気は無いのでしょうか?とも思うが、神々はそもそも身勝手な存在だ。何を言っても無駄でしょうね。でも僕の女神様は創造神だったような……多分、そこに突っ込んだらダメなんだろうね。


『貴方は初めてこの世界の脅威に出会った』


 ——世界の声シスログさん。まさかとは思いますが、告知するのを忘れてました?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る