闇と光と紅茶と賽子

第19話 王都

 ヨウスケです。僕は、今、アントンさんの商隊の馬車で王都に向かって移動中。何故かクラーラさんも同じ馬車に乗ってますわッ。


「わかっちゃいましたぁ。ヨウスケ様はちょっとキモいけど使徒様でしたぁ」


 キモいは余計だと思う。キモいはッ!


 クラーラさんは、キモいと言いつつ、僕の腕にしがみ付いている。ワザと当ててんのよ攻撃ですか?そうですか。


「えっと、説明してもらえる?」


 クラーラさんの精神攻撃(物理)に耐えながら、何故、アントン商会の馬車に乗っているのか、僕は説明を求めた。


「はい。光の女神様の御神託です」


 説明終了。……って、何んにもわッかんねーよッ!と内心で寸言したところで、彼女はそれ以上何かを言うことも無く、ただ笑顔を向けてくる。花が咲くような笑顔とは、此れのことかと感心しながら、僕はクラーラさん(217歳)を見つめるしかなかった。


 困惑している僕に女神様が優しく語りかけて下さいました。ん?いつもと違うぞ。何やらかした?


『……』


 ——あ、そうですか。ちなみに拒否権は?……無い。そうですよね。


 女神様曰く。勇者には旅の仲間が必要だから、適当に見繕ったとのこと。ご配慮に感謝。毎朝、感謝のマーマイトーストです。コレが意外に癖になる。僕の英国面も磨かれてきたのでは?


 さて、この異世界、ドラクエ的というよりもフロムゲー的な世界に近いような気がする。ジッサイ僕は、ダクソの白霊召喚の様な真似が出来るぜ(キリッ!)。援護兵、衛生兵、そして偵察兵がそれぞれ絶妙なタイミングで支援してくれる。砲兵から火力支援という心強い味方バランスブレイカーもある。まあ、砲兵(戦場の女神)の姿を見たことはないけどなッ。いざとなれば英霊(妖精さん)たちが一緒に銃剣突撃してくれる。一人とは言い難い。一人とは違う。違う筈。違うよね?


『……』


 ——栄光の銃剣突撃といえども孤独には勝てない、と。……確かにそうですね。あくまでもロイヤルアーミーな方々は戦闘中限定です。


 なるほどなるほど。「孤独は心を殺す」のですか。パーティーというのも悪くない選択だ。


 だが、それは、今じゃない。


 僕は、妙に懐いているクラーラさんを一度見て、フリーダさんに視線を向けて、何とかして欲しいと目で訴えたがダメだった。状況は悪化した。フリーダさんは満面の笑顔で反対側の僕の腕に抱きついてきた。両手に花(合計435歳)だぜ。ヤッター……


『貴方は冒険の仲間(笑)ハーレームパーティーを手に入れました』


 ——世界の声シスログさん。半笑いはやめてくれよ。


 誰だって艱難辛苦より愉快適悦な日々を所望するけどさ、でもフリーダさんやクラーラさんと合歓綢繆のような情事的な展開を望むのは違う。まあ、現在進行形で、ナイスダブルおっぱい状態なのは認めるけどなッ!


『……』


 ——あ、はいはい。キモいキモい。


 世界の声シスログさんの無言のツッコミはさて置き、クラーラさんたちの場合は、日光浴、海水浴、あるいは森林浴といった気候性地形療法的な効果を期待して、僕に張り付いているに過ぎない。

 神々の祝福を受けた人たちにとっては、僕からダダ漏れてくる女神様の神力は、とても心地良く、そして癒されるものらしい。ちなみにジョン・ブル・魂ッ!ブレイブ・ハートのレベルが上がればダダ漏れは止まるとのこと。


 そうこうしている内に御者とアントンさんの会話が緊張感のあるモノに変わった。馬車の中に不穏な気配が漂い始める。気がつけばフリーダさんもクラーラさんも僕から離れて、警戒体制に入っていた。両腕が何となく寂しい……


「アントンの旦那。7キロメートル先で乗合馬車が襲われている」


 グンターさんが、騎乗している馬を寄せ、アントンさんに状況報告。


「リンデンハイムからバーデン行きの定期便。なるほど」


 アントンさんは冷静に考えを巡らせている様子だ。


「賊の数は?」


 フリーダさんがグンターさんに尋ねる。


「30騎。青毛が10頭混ざってる」


「馬賊か。厄介だね」


「グンター。何処の氏族か分かるか?」


「いいえ」


追放者はぐれか?アントンの旦那、どう見る?」


「跳ねっ返りどもが、野盗に偽装しているようにも思えますが、意図が読みきれません」


 一度言葉を切ってから、フリーダさんにアントンさんが思い切りの良いことを尋ねた。


「全員殺せますか?」


「難しいね。他に隠れて、こちらを伺っている奴らもいるかもしれない。そもそも奴らの青毛は速い。本気で逃げられると厄介だが……」


 フリーダさんは妙案が浮かんだようだ。実に良い笑顔を僕に向けてきた。


「ああ、やれる。ヨウスケ。手伝え」


 まあ、そうなるな。僕の相棒SMLEの出番だ。だが、お米様抱っこで僕を抱えて、走行中の馬車から並走する馬に騎乗しようとするんじゃない!ああ、ダメダメ、いけません。お客さま。いけませんッ。


 フリーダさんは、僕を抱え上げると、馬車の扉を開けて、グンターさんが引き連れてきたフリーダさんの愛馬の上にひらりと飛び乗った。身体能力高すぎぃ!


「うわぁーッ!」


僕は情けない悲鳴をあげる。


「舌噛むから黙ってな!」


一方、フリーダさんは男前なセリフ。


 馬車の御者に速度を落とすように指示すると、フリーダさんは、進行方向から二時の方向の小高い丘に向かって、彼女の愛馬を走らせる。世界の声シスログさんの事務的なお知らせが僕の耳に響いた。


『貴方のお米様抱っこの抱き心地が向上レベルアップしました』


——それって、魂の記録に書き記すに値するのッ!?

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