第15話 黒い地竜
ヨウスケです。フラグだめ。絶対。
スタンピードから逸れた魔物たちが城塞都市バーデンの東側城門に回り込んだ。大半が城塞都市バーデンを掠めて通り過ぎたが、スタンピードから取り残され狂奔状態から解放されると、魔物本来の本性を取り戻す。人間を襲い喰らうのだ。奴らは城壁の内側に侵入しようと城壁を這い上がる。
鋸型の狭間からヌッと魔物の頭部が差し入れられた。コモドオオトカゲの4倍はあろうかという大きさだ。黒光する固く分厚い鱗で覆われた爬虫類が回廊に次々と乗り込んできた。体長は10メートルを超え、体高は優に2メートルはあるだろう。
「ち、地竜!?」
城壁の回廊を守る兵士たちが恐れ慄く。
「恐るなッ!只のデカいトカゲだ!!」
近くにいた分隊長の怒号が飛ぶ。彼は続けて
「発射台回せ!」
大きな動作で周囲の兵たちにも手伝う様に命じている。
「な、何をする気だ?」
職人が激しい口調で尋ねた。
「打ち噛ます」
回廊に続々と入り込んで来る地竜たちを睨みつけながら断固として言い放つ。
「だめだ!近すぎる」
射手が目を剥いて諌める。
「構うものかッ」
装填手と射手と巻上手が互いに目配せして頷き合うと、大矢の弾頭に爆発の範囲を制限するための金属の輪を手早く嵌めた。ここで食い止めないと拙いことになるのは、城壁を共に守る者たちであれば、即座に理解できた。
「退け、退け、退け」
発射台を回転させつつ、職人たちも声を張り上げる。
「退避!全員退避!!」盾兵が
「放てッ!」
分隊長が裂帛の気合いと共に号令。
「だーーッ」
破れかぶれとばかりに射手を任されていた職人が叫びながら大矢を放つ。
グオンと低く鈍い音をたてて、弦が弾かれ、大矢が空気を切り裂いて、黒い地竜を貫く。致命の一撃を受けた其奴は、他の数頭を巻き込んで吹き飛んだ。
「「「ぎゃぉおおおーッ」」」
巻き込まれた地竜が悲鳴のような鳴き声をあげる。魔法陣の抗力が失われた瞬間、大矢の弾頭が爆発した。城壁の回廊に侵入していた黒い地竜のうち3頭が爆散し、2頭が城外に弾き飛ばされる。
「「「ぐわーッ」」」
退避が遅れていた守備隊の兵が複数人も魔石の爆発に巻き込まれる。爆発の衝撃は城壁の内部に浸透した。爆心点の城壁上部の構造物が崩れ始め、回廊に這い上がってきていた数多くの地竜を巻き込み、城外に倒壊した。
地響きと共に東側の城壁の一部が崩れたことで、大きな隙間が生じた。その隙間から折り重なる様に、10頭の黒い地竜がなだれ込んでくる。先ほどの爆発にも崩落にも巻き込まれなかった個体だ。
東門の後詰めを担う中隊の兵士たちが勇敢にも黒い地竜の群れに立ち向かう。その数は凡そ60人。本来は100人一備えだが、この城塞都市の守備兵の充足率は悪い。
「くっそッ!全部は無理だ。今は頭数を減らせ」
歴戦の風格を備えた中隊長がそう命じると、兵士たちは20人毎に集団作り、3頭の黒い地竜を押さえ込ませた。
「盾兵ども怯むなッ。隊列を維持しろ」
小隊長たちも兵を鼓舞する。
「抑えろ。押しとどめろ!」
「槍隊!前へ!前に進めッ!」
黒い地竜の視線にとらわれない様に地竜の様子を伺っていた伝令たちが状況報告と迎撃体制の準備のために走り出した。この中隊長は、魔物の特性をよくよく理解していた。黒い地竜たちは、頑強に抵抗する硬い鎧の兵士よりも、より柔らかくて美味い街の住人を狙うものだ。奴等は我先にと街の中心を目指す。仲間意識などない。集団で群れて移動するが、協力して狩りをすることはない。それゆえ各個撃破は容易い。であるならば、街路を使って、勢いを殺しながら、黒い地竜の群れを漸減させるのは容易だ。東門の後詰めの中隊だけで全て倒す必要は無い。
戦いの最中に兵士たちの中で、黒い地竜がどの程度の魔物であるのか気がついた者がいた。
「廃地の魔物だ!何で混ざっていやがるんだ!!」
盾兵が理不尽な情況に異を唱えながら、黒い地竜の前脚による薙ぎ払いの勢いを大楯の巧みな捌きで殺している。
「スタンピードだ!クソッタレがッ!」
槍兵が当たり前のことだと一蹴する。スタンピードには強力な個体が混ざるものだ。守備兵の槍を弾き返す硬い鱗。無感情な金色の目。赤い爪と太く長い尾。それらが振り回される度に鮮血が舞い、兵士が薙ぎ払われる。だが彼らは決して怯まない。諦めない。
僕は、漸く乱戦の渦中にたどり着いた。監視塔から東側の城門に向けて、疾走していたのだが、迷路の様な道のため、回り道することになった。途中、
今の僕が放つ.303ブリティッシュ弾 MK.8では、あの
1頭の
「うぉおおーっ!」
僕は
僕と見つめ合った
残念なのは僕も同じだ。身体が動かねぇ。新手の
目の前にヤツが浮かび上がる。半透明の
『貴方は英霊の召喚に成功しました』
——英霊キタッ!アーサー王か?獅子心王か?
僕の鼓動が高鳴るのがわかる。生きながら食い殺されるかもしれないというドキドキ感なのかもしれないが、魂が高揚していることにしよう。
「……」
第二次世界大戦のロイヤルアーミーの軍装で、頭の上に軍曹という意味の英語の注釈を浮かばせているナイスなガイが僕の近くに立っていた。すごく良い姿勢ですね。
「
軍曹が英語で語りかけてきた。
「……ぐ、軍曹?」
高揚感が霧散し、困惑が僕の心に広がる。
「
僕の体が反応する。悔しい!でも着剣しちゃう!!体に力が戻り、すぐに立ち上がる。周りを確認すると無貌なれど不敵な笑顔を浮かべたベテラン兵たちが銃剣を掲げていた。
軍曹含む5人の名も無き英霊が僕と共に銃剣を構える。のそりのそりとこちらに近づく
「
全てが緩慢に流れる。空気が粘りつく様だ。風景の色が落ちる。灰色の世界。僕の足は猛然と石畳を蹴る。さあ勇者の力を味わうが良い!
『貴方の
僕は、
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