第16話 知らない天井
「……知らない天井だ」
僕は、言ってみたい台詞シリーズの一つを口にすると、病床の上で身体を起こした。周囲を確認すると病床がずらりと並んでいて、負傷した兵士たちが横たわっている。唸声や嘆声などは聞こえない。野戦病院のイメージから程遠い。兵士たちは静かに眠り、傷を癒している。負傷者の様子を見にきた
看護の
先ほどの治療所にいた兵士たちの話を取りまとめると、僕は雄叫びを上げながら、一人で黒い地竜6頭に向かって、突撃したことになっていた。兵士たちには、英霊の姿が見えていなかったようだ。
なるほど。客観的に見れば、頭のオカシイ奴だわ。しかも先頭の黒い地竜に銃剣を叩き込んだだけで、同時に6頭の黒い地竜を消滅霧散させるような相当危ない奴だ。僕ならそんな奴に関わり合いたいとは思わないけどなッ。
その後のことも、よく覚えてはいなかったが、僕は「とったどーーーーーッ!」と咆えたのは間違いない。僕の魂の記録にも載っていた。
さて問題は、何故気を失ったのか?という点にあるのだが、大凡の予想はつく。血まみれ泥まみれで、ガンギマリ状態の男が、一人、空に向かって咆えていれば、当然、
彼女の回復魔法を浴びた人は誰であれ気を失う。勇者の僕も例外ではなかったようだ。瓦礫の中、気を失って倒れた僕をお米様抱っこで、救護所まで運んでくれたのもクラーラさんであった。男としての矜持と尊厳とあとなんやかやを返してほしいものだ。あ、もちろん感謝してますよ。お陰様で魔物の餌にならずに済みましたからね。
ということで、クラーラさんにお礼を言いたかったのだが、彼女は町中を飛び回り、今も負傷者を癒しているそうだ。冒険者組合支部に行けばそのうち会えるだろう。お礼はその時でいいはず。ということで僕は冒険者支部に向かった。道すがら街の様子は嫌でも目に入る。被害はそれほど大きくはないようだが、兵士や住民の遺体、壊れた建物を見ないわけにはいかなかった。東門近くの教会からゆっくり歩いて20分ほどで冒険者支部の建物が見えてきた。冒険者支部周辺は綺麗なもので、魔物が侵入してこなかったことが分かる。
僕が冒険者組合のスイングドアをゆっくりと開けると、ご機嫌なフリーダさんに出迎えられた。
「ハハッ。ヨウスケ。漸く起きたか」
相変わらずだった。彼女にとって、魔物との戦いで人々が斃れるのも日常なのだろう。スタンピードも台風に遭遇した程度だ。
「フリーダさん。ご機嫌ですね。何かいいことありました?」
僕の笑顔はぎこちなかったのかも知れない。
「内緒だ」
フリーダさんは莞爾として笑う。乙女の秘密って奴だな。秘密を共有できなくても、寂しくなんてないんだからね。
「そんな事より、ヨウスケ。やるじゃ無いか。廃地の地竜を6頭まとめて瞬殺したと兵士たちから聞いたぞ。流石、私が見込んだ男だ」
フリーダさんは、僕の肩に手をまわして、ぐいと抱き寄せると、ガシガシと僕のあたまを撫でまわした。男前だな。おい。だが、フリーダさんの大きくて張りのあるバインバインをダイレクトに肩口に感じると、超絶美人の女性である事を意識せずにはいられない。何とも落ち着かない。色めき立つフリーダ特戦隊(自称)の皆さんの視線が魔竜すら瞬コロしそうでヤバいぜ。
「それじゃ、ベルタの部屋に行こうか?」
「ベルタさんですか?」
さて何事だろうかと考え込んでいる僕を、フリーダさんがお米様抱っこで担ぎ上げる。
「もたもたするんじゃない!」とフリーダさん。
語尾が半笑いだ。僕の尊厳は何処か遠くの知らない場所に逝ってしまったようだ。ハハッ、笑うしかないね。僕はフリーダ特戦隊の皆様に手を振ると、彼らは一斉に視線を逸らした。冷たいな。おい。
「ところで、クラーラが妖精だと言い張っているのだが、ヨウスケと一緒にいた連中は何者だ?」
ほう。
「何だい。秘密か?」
「いいえ。フリーダさんは城壁の回廊で一度会ってますよ」
「ん?……ああ、怪しげな仮面の魔法士のことか?ヨウスケと同じような魔丈を携えていたな」
「はい」
「アイツと同じ神の御使いなのか?」
「多分」
「そうか……」
ところで、フリーダさんは僕のことをいつ降ろしてくれるの?ベルタさんが、複雑な表情でこちらを見ているのですが……
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