side 美来 カフェにて
矢部が岡田たちと映画を見に行く。中村は即帰宅して、河井岬が夏休みの宿題をする。――そうだ、私も宿題があるんだった。
はっとして頭を振り、雑念を振り払う。椅子に座ったまま、窓の外の海を眺め、託宣に集中する。
でも、託宣を聞いていないと緊張で頭がおかしくなりそうだ。……自分で勝手に決めて、杏里を呼び出したって言うのに。馬鹿だな、私。
まだ真っ青な空ののぞく午後、私は杏里を海の近くのカフェに呼び出した。――普通の人間が、こういう場合どこで話をするのかわからなくて。クラスメイトに見られても多少困りそうだし。私は別に嫌われているわけではなくて、近寄り難いから……私自身が人間に近づけないから一人なんだと思っているけれど、同じように一人の――私が言えることではないが――杏里と会っていたら、なにか噂されるかもしれない。
人間は怖いもの。当たり前のように、その記憶がこびりついている。だけど、杏里は――何故か毎朝声をかけてくれるから、慣れてしまったみたいだ。
とりあえず落ち着こうと、私はカフェの店内を見回す。天井にはランプとくるくる回る大きなシーリングファンが確かな日常を感じさせていた。
時計で時間を確認する。カフェは少し変だっただろうか。変に時間が余ってしまって、よけいなことばかり考えてしまう――私が早めに来たのは心の準備をするためなんだけれども。
そういえば、最近蓮水と杏里に関する託宣が全く来ていない。杏里はなぜかは分からないけれど、蓮水については想像がつく。私が未来を変えてしまったために、知らない未来が出来てしまって託宣が追いつかないんだろう。
だけど、私は。……これからどうなるんだろうか。
カラン、と入り口のベルが鳴った。
はっとして顔を上げると、少し戸惑ったような表情の杏里が突っ立って、私を真っ直ぐに見つめていた。
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