side 美来 託宣その2
靴の音、私の呼吸の音に合わせてただひたすらに足を回す。何度も思ってしまうけど、私って機械みたいだ。小さな小さな、歯車。
……持久走は嫌いじゃない。息は切れるけど、その分正確に素早く時間が駆けていくから。
強く向かい風が吹いて、横から女子が私を抜いていった。
走りながらなんとなくイメージする。小さな小さな歯車が幾つも幾つも連なって、”何か”が動いている。――少しずつ辛くなってきた。そもそも、こんな事考えたってどうにもならない。私は、生きてるのか?証明することすら諦めている。何より、……人が怖い。どうしてかわからないけど。
そう思った途端、急激に、変わり映えしない運動場の景色が、ぐにゃりとねじれた。
はっと息を呑む。運動場に溢れる色という色が混ざりに混ざって、違う景色をうつし出す。
ぐらぐらと視界が揺れて、吐きそうなほどの気持ち悪さと目眩で一杯になった。
――今?ここで?素直な気持ちは、それだ。
託宣だ。それも緊急の、膨大な量の。
鮮やかに目の前で踊るイメージは――今日。今日の夕方のこと。走っていられずに足を止めた。
場所は、道路。青信号。横断歩道を渡るのは――蓮水か。
……分かった。
これは、事故の場面だ。
つまり――蓮水は今日の夕方、死ぬということ。
衝撃が頭を貫いて、私は立っていられずに倒れ込んだ。
「神木さん!」
鋭い声が飛ぶ。
弾けるように景色が吹っ飛んだ。
”今”の景色が戻ってくる。私が呆然と見たのは、倒れた時に手をついて、”生きている”芝生を殺しているところだった。
私の手が触れてしまったところから、青々としていた芝生がみるみる茶色に変色して、しなびていく。咄嗟に手を引いたものの、手遅れだった。私が倒れたところの周りだけが不自然に茶色く枯れてしまった。
その中に、ぱたりと倒れた虫がいるのを見てぞっとする。もし、私が誰かに向かって倒れ込んでしまっていたら――
「神木さん!大丈夫っ、しっかりして!」
走ってきた先生に肩を掴まれる。
私は慌てて、着ていたジャージの袖で手を隠した。
「症状は?」
「何もありません。すみません、ちょっと倒れてしまっただけです」
「熱中症かしら、念の為保健室に行ってきなさい」
半ば強制的に保健室へ送り出される。そのまま、私は残りの授業を見学させられてしまった。
もちろん、症状なんてなかった。
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