side 杏里 正体その1

 店内を見回すと、すぐに窓際の席に座った美来と目が合った。笑って良いのかわからなくて、ほんの少しだけ口の端を吊り上げた変な笑顔になってしまう。向こうも同じような感じで小さく笑っていた。

 ……服、こんな感じで良かったかな。一応、薄い水色のいつもより綺麗な服にしたんだけど……あたしの家になぜか何着か置いてある服から選ぶしかなかったし。美来は白のワンピースで、いつもどおり黒髪をリボンで二つに結んでいる。色白なのも相まって、はっとするような美少女ぶりが発揮されていた。ああ……あの前に座るの嫌だな……。

 でもしょうがない、幽霊なんだからお洒落したって意味ないんだから!あたしは小さく頭を振って、美来の向かいに座った。彼女は何も頼んでなくて、結露したコップの水がぽつんと置いてある。……待たせたかな。

「ごめんね。待ちました?」

「いえ、私が早く来すぎただけで」

 美来がそう言って軽く笑った。そうしてそのままふっと、目を伏せてしまう。

 ……さて、これからどう切り出してくるかな。あたしは密かに深呼吸をする。

「あの、杏里」

「はい?」

 美来が深く息を吐くのが分かった。


「今日呼んだのは、について話しておきたかったからなんです」


「……え?」

 私の――美来の、正体?

 あたしのことじゃなかったの⁉

 思わず顔を上げる。闇みたいに黒い美来の瞳と目がかち合った。

「信じて、貰えないかもしれませんが」

「……だいじょうぶ。美来は嘘つかなそうだから……」

 嘘だ。てっきりあたしのことだと思った。ていうか、美来の正体って何よ?美来もあたしとおんなじように学校に紛れ込んでいるの?というかそもそも、なんでそんなことを、今ここで言うの!

「私は」

 コップに結露した雫が一粒、流れ落ちた。


「私は、神様です」

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