第一章 はるがすみ
side 美来 神様の悩みごと
微風に髪がするりと流される。このまま何処かの国に誘ってくれればいいのに、なんて思う私を自分で一蹴して、風にのって伝わる今日一日分の”
――この後、私のクラスでは。
目を開いて息を吸い、校門に足を踏み入れる。
また風が吹く。六月の風は湿っぽい。
「
ほら来た。
振り返ると、焦げ茶の髪を一つにまとめたあどけない印象の少女がいた。去年三学期に転校してきた女子である。
「島田さん」
「お早う」
「お早う」
毎朝何故か、彼女は私に挨拶をしてくれる。その後はすぐに走って行ってしまうのだけれど、その儀式めいた習慣は、高二で同じクラスになり接点を持った日からずっと続いている。
……でも、誰も私の正体を知らないんだろうな。自嘲気味に小さく笑う。誰かに言ったとしても、信じてもらえないのは目に見えている。
私は――神様、だ。
詳しく言えば、神様からのイメージを受け取って、私が改めてイメージをすることでそれを実現させる、という仕事を実行するだけの神様の手下、みたいな所だろうか。
ともかく私は、何故か人の運命を操れ、少し先の未来を知ることができるのだ。
自分の記憶がある限りでは、これまで生きてきてずっとその役割を担っている。――もっとも、こんな私が人間と同じように”生きている”と言って正しいのかは謎だけれど。
靴箱の前で立ち止まり、上靴と履き替えながら自分のことについて考える。神様という自覚はあるけれど、それでも私は何者なのかはよく分からない。それでも、今日も託宣通り――ちなみに私は、神様から下されるイメージを”託宣”と呼んでいる。神の意志、意味は同じだ。
私の横を派手な女子二人組が通り過ぎる。これも託宣通り。ただ私は彼女らに触れないように身を小さくする。
――触れてはいけない。そのことは重々承知しているけれど――。
私は階段を駆け上がる彼女らの背に向けて、いつも渦巻く疑問を心の中で吐き出した。
――触れた生き物を殺してしまうという私は、本当に人間だと思う?
春だなんて、もう夏みたいに霞んでしまうのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます