side 美来 混乱

 バス停の側にあるショッピングモールの扉の前で、私はそっと杏里を待っていた。――邪魔にならないように。

 何となく不安で、私は首元に触れた。少しくらいお洒落しておいたほうがいいかと思って、迷った挙げ句付けてきたあの青いペンダントだ。

 どちらかといえば、これを使って”アリス”とやらを探し出す方が目的でもある。

 どうせ街に出るのなら、ペンダントをつけて行けばもうひとりのアリスを炙り出せるかもしれない。

 黒髪のアリスは万が一にも見つけられないなんて言っていたけれど、それでもあんな言い方をされたら気になるに決まっている。

 これはもうひとりのアリスのものだと言う。相手がこれを探しているかは分からないけれど、付けていればあちらから来てくれるだろうか。

 未来を知るアリス――というのも。あれは、私の”神様”としての部分を指して言っているのだろうか。

 ……なんて考えていると、丁度遠慮がちに歩いてくる杏里を見つけた。

 一瞬声を掛けるのを躊躇いかけて、はっと息を飲み込む。

 誘ったのは私だ。杏里と、少しでも近づくため。

「杏里」

 呼びかけると、杏里ははっと顔を上げた。

「私です」

 そう言って微笑んでみせると、杏里も返してくれた。

「お早う……というか、こんにちはかな」

「はは、そうですね」

 自然に自分から笑いが出てきて、少しだけ不思議な気分になる。

 ――けれど、それでも、と言うべきか。

 私にとっての混乱は、ここから始まるのだ。

「……ごめん、美来、それって――」

 杏里が目を見開いて、固まったまま薄く呟いた。

「え……?」

 その視線は、私が首にかけていた――ペンダントに、注がれている。

 いや、まさか。これは、もうひとりのアリスのもの、のはずで……?

 釘付けされたように、私もどこか緊張してくる。


「……<アリス>に渡された、”体を維持するペンダント”――だよね?」

 世界。

 やっぱり、私が存在しているのと同じくらいの謎っていうものは、あるみたいだ。

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