第十一話
Kさんが親戚の誘いで栗拾いにいったときのこと。
その親戚の山では、毎年大きな栗の実がなり、これが大変美味なものだからKさんは張り切っていた。
張り切りが過ぎたせいか、落ちていた栗のイガを踏んで開いていたときに転んでしまった。
一同が心配して駆け寄ってきたが、怪我などはいっさいなかった。
「あまり張り切りすぎるなよ」と周りから注意されながらも、その後は元気よく栗を漁りまくった。
ただ1つだけ不可解なことがあった。
イガを踏んで転んだとき、いままで栗拾いのときに感じたことのない、ツルっというか、ヌルっとした感触を靴越しに味わった。だからKさんの感覚では、張り切りすぎて転んだのではなく、なにか変なものを踏んで滑ったかと錯覚したそうだ。
その晩、Kさんは布団のなかで急に目が覚めた。
体がみょうに重い。金縛りかと一瞬考えたが、そうではない。
まるで掛け布団ごと大きな足一本で踏みつけられているような感じがする。
これはいけない!と、なんとか布団から出ようとした瞬間、急に踏みつける力が強くなった。
仰向けのまま、目前を凝視するが、暗闇のなかに天井がみえるだけでなにもない。
なんとか声をあげて隣の布団で寝ている奥さんに助けを求めようとするが、声が出ない。
そのうちだんだん息が出来なくなって、気づけば日が差し込む寝室で奥さんに揺さぶられていたという。
熱を出してぐったりとした状態でそのまま病院に向かったが、診断結果は『全身を打ち身している』とのことだった。
後日、この出来事を栗山の持ち主である親戚に話したところ
「そんな話ははじめて聞いたなあ」
「でも、山ってそんなところだから」
と、驚いたのか驚いていないのかよく分からない反応をされた。
それからKさんが栗拾いをするときは、心のなかで「失礼します・・・」と
みえないものに一応断ってからイガを踏むようにしているそうだ。
話はこれで終わりだが、Kさんは話の途中でこんなことを口にしていた。
「・・・たぶんですよ?たぶん、あのとき滑って転んだから僕は『打ち身』で済んだんですよ。あのまま踏ん張ったりしていたらどうなってたんですかね」
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