第四話

 Sさんが一人でエレベーターを待っていたときのこと。


 


 世のなか帰りたい日に限って、信号が続けて赤だったり、バスが遅れたりする経験が皆さんにもよくあるだろう。


 


 その日のSさんもそうだった。やけにエレベーターが下りてくるのが遅かった。


 片方は故障中で、唯一使えるエレベーターは各階でいちいち止まっているようだった。


 


 チン!



 やっと降りてきたエレベーターに、Sさんは疲れと苛立ちから、降りる人よりも先に乗り込もうとしてしまった。


  とたん、エレベーターの隅に人影がみえたので、彼女は思わず「すいません!」と声を出して立ち止まってしまった。


 


 そこに立っているのは人ではなかった。


 婦人服売り場などに置いてあるマネキン。


 それをブクブクに太らせたものが立っていた。


 


 言葉を詰まらせて立ち止まっているSさんをよそに、扉がゆっくりと閉まり、下の階に行ってしまった。


 


 そうして再び上ってきた無人のエレベーターに乗ろうとした。が、マネキンが立っていた隅、そこに水たまりがあったため、気味の悪くなったSさんは階段を使ったという。


 もちろん、その店舗には『ブクブクに膨れたマネキン』などない。

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