第二十七話

 Cさんが片付けをしていたときのこと。

 物置から、小学生のときに夏休みの宿題でやった絵日記が出てきた。



 自分の名前と「えにっき」という文字が汚ならしく表紙に書かれていた。

 懐かしい気持ちでそれをパラリ、パラリと捲っていくと、あるページで指が止まった。




 そのページだけなにも描かれていなかった。

 前後のページを見返すと、その日付だけそうなっていた。


 そして、日記の冒頭の年月日を書く項目には、黒いクレヨンでうえから無理やり


 やまだ こうすけ


 という、自分の名前ではない、知らない人物の名前が書かれていた。

 そして本文には


 あしたはゆくえふめいです。


 ・・・とだけ、名前同様、黒いクレヨンで汚い文字が書かれていた。

 そして、その一文には赤い波々線がならび、ページの端っこに


 一緒だね


 そんな大人の赤ペンの筆跡があった。




 思い返せば当時の担任だった先生は、『やまだ こうすけ』なる名前ではなかったが、夏休みが明けてからは病気だので学校を休み勝ちになり、年を股がずに別の先生に変わっていた。




 そこから『えにっき』を捲っても、戻っても変なページはなかった。


 ただ、どんな因果があるのか分からないが、脈絡もないそんな空白が1ページだけそこにあった。




 奇譚-『夏休み』-

 各原題『流し雛―夏―』『嵐のかくれんぼ』『むにっき』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る