第二十四話

 廃墟マニアのHさんが、ある廃校を見にいったときのこと。


 彼いわく、当時のその校舎は、まるで昨日まで使われていたような新鮮な雰囲気と、人々に忘れ去られて朽ちてきている雰囲気、その矛盾した二つの要素が相まって素晴らしいスポットだったという。



 昼間に仲間内で探索していると、後ろから物音がした。


 不審者か別の廃墟マニアか。

 一同思わず振り返った。





 なにもない。



 しかし、しばらくするとまた物音がした。

 そして振り返るも、なにもない。


 そんな問答が何度か続くなか、Hさんは妙なことに気づいた。



(この物音、だんだん自分達に近づいてきていないか?)




 他の仲間も気味悪がり始め、そろそろ引き返した方がいいのか考え始めたとき。


 今度は前方からいままでと同じ物音がした。

 サササッと、まるで箒を軽く引きずるようなあの音。

 そして、なにかが廊下の突き当たりを横切って、教室に入っていくのがみえた。




 思わずHさんが駆け寄って教室のなかを覗くと、その教室だけ隅の方に、何重もの色焼けた千羽鶴たちが、埃とともに山積みになっていた。




 そのままHさんたちは校舎をあとにし、二度とその廃校にはいっていないという。





「ただね、埃だらけの教室で、窓からの光に照らされた山盛りの千羽鶴の影がね、一瞬だけ大きな横たわった人の形をしていた気がするんですよね」


「それに“千羽鶴”って、お見舞いに持っていったり、なにかの祈願や慰安の意味を込めて作るじゃないですか? だけど、アレを作った人は、そういうのとは別の気持ちを込めているんじゃないかな」




 廃校から帰宅した日、手荷物から触った覚えのない汚ならしい折り紙の鶴をみつけたHさん。

 それがまるでセミの脱け殻や、蛇の鱗のようにみえたという彼はそう語ってくれた。





 奇譚-『影』-

 各原題『背骨二本』、『ぱっぱっぱっぱ』、『千羽鶴』

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