第二十三話

 Oさんがある旅館に泊まったときのこと。


 ふかふかの布団に横たわると、一日の疲れがどっと襲ってきて、あっという間に眠ってしまった。


 夜中にふと目が覚めた。辺りは真っ暗。唸り声をあげて何時なのかを確認しようとしたそのとき。


(待てよ? いつ電気を消したんだ?)


 すると急に目の前が真っ白になった。


 Oさんの目は眩み、なにがなんだか分からなかった。


 するとまた部屋が暗くなった。かと思いきや、また明るくなった。


 部屋の電灯がカチカチカチカチと、点いたり消えたりを繰り返していた。


 声にならない声をあげながら、Oさんは手で目元を隠しながら部屋の中央部分に顔を向けた。





「そこに絶対人間じゃない奴がいたんだよ」



 明滅する部屋のまんなか、のっぺりとしてはいるが、なんだか黒いモヤのようなものがいた。

 まるで黒い人の影を切り取って立たせているようにもみえた。


 そいつが人間の手にあたる部位を上下に動かす。

 どうも電灯の紐を引っ張っているらしく、それを何度も何度も繰り返していた。


 奇妙なことに、部屋が明るくなろうが、暗くなろうが、その黒いナニカは明るさが変わらず目視できた。


 それどころか、電灯が何度も明滅するにつれて、どこかその陰影が、形がはっきりしてくるようにみえた。





 気づけば朝の陽射しが差し込むなか、電気が点いたままの宿泊部屋で、Oさんは布団にくるまる形で気を失っていたという。


 そして、電灯の真下に切れた紐が落ちているのをみて、Oさんは改めてゾッとしたそうだ。

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