第一話
Tさんが高校生の頃。
父方の祖父が亡くなった。
急遽、実家に向かい、通夜から葬式という流れになった。
様々な作業に追われて、ほっと一息ついたとき、自然と目に入るものがあった。仏間から続く縁側の先、そこの小さな庭にある台のうえで座しているもの。それは祖父がかつて愛好していた盆栽だった。
そのなかでも中央に飾られた、祖父の一番のお気に入りに目が吸い寄せられたのだが、その様子がどこかおかしい。自分が知っている盆栽よりも黒く、太くみえる。
なにがおかしいのか気になり、Tさんは縁側まで歩みを進めた。
そこにあったのは盆栽だけではなかった。
盆栽と重なるように、灰色になった、あの祖父の顔だけがあった。
その両目はカッと見開いて虚空を見つめており、口からは墨汁のようなナニカを垂らし続けていた。
(これはアカンもんや!)
脳裏でそんな言葉が弾けたとき、Tさんの意識はそのまま切れてしまった。
目を覚ますと、寝室で寝かされていた。親族いわく、疲れと心身喪失からくる貧血の類だろうとのことだったが、Tさんは自分がみたものを誰にも話せなかった。
「あのとき、祖父の首?・・・にしか目がいっとらんかったですけど、視界の隅っこ、そこらじゅうの盆栽が蠢いていた気がするんですわ」
そこにどんなモノがいたか、今では知る由もない。
あの盆栽らは、祖父の死後も、祖母の手によって生き生きと庭先に座しているそうだ。
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