第二話

 Sさんが子供の頃。

 当時のSさんらは、『子どもは風の子』をそのまま体現したような快男児で、思えば一年中外を駆け回って遊んでいたという。





 ある秋のこと。


 『運動の秋』という言葉があるように、性懲りもなく鬼ごっこやら虫取りなどで動き回っていた。しかし、『食欲の秋』というように、遊んでいると腹が減ってくる。一人が腹を鳴らすと、また一人と腹を鳴らし始める。その様子をみかねた誰かが「××寺に行かんか」と口にした。


 この季節の××寺には、丸々と太って、綺麗な橙色をした柿が実っていることで有名だった。それが境内の塀の近くに木が植わっているため、塀の外まで伸びだした枝先に実がぶら下がっているのだ。


 さっそくSさんら一行は、やましい気持ちと、長めの木の棒を抱えて寺に向かった。すると、あともう少しという所で、あの真っ赤な柿の実がみえてきた。日に照らされたそれは、てらてらと輝いて、その艶が柿の実のでっぷりとした丸みをより一層に際立たせていた。


 そのまま木の実の下までたどり着くと、Sさんらは急いで持ってきた木の棒で、一番低い所にある実をつつき始めた。しかし、一行は背が低く、持ってきた棒は柿の実に届きそうで届かなかった。なんとかその実のなる枝に触れることができても、柿は微かに揺れるだけで落ちてこない。このままでいると寺の住職が飛び出してくる。焦れば焦るほど、柿は枝のなかで踊り狂うだけであった。


 そうして、誰もが頭上の柿に釘付けになっているなか、痺れを切らした友達が「えい!」と思いっきり木の棒を振り上げた。すると、あの弛んでいた枝が大きく跳ね上がり、柿の実がふっと宙に舞った。誰もが「あっ」と声を上げたそのときだった。


 どすん。


 その瞬間、足の裏がピリリと軽く痺れた。


 そして、その重厚な音に驚き、後ろに飛びのいた一行の輪の中心にあったのは、柿の実ではなかった。両の掌ほどの〝お地蔵さまの首〟だった。


 それが天を仰ぐかたちで、ころころと、まるで人様の木の実に手を出した自分たちを見やるように揺れている。


 誰彼構わず、蜘蛛の子を散らしたようにSさんらは逃げ去った。




 翌日、気になって柿の実を落とした通りに向かったが、お地蔵さまの首はもちろん、柿の実が落ちていた形跡もなかった。さらには××寺の門前に向かい、そこに鎮座しておられるお地蔵さまらを確認したが、首の落ちているものは一つとしてなかったという。

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