第三十六話
Sさんが電車に乗っていたときのこと。
なんとか座席を勝ち取り、肩をすぼませつつ鞄からある怪談本を取り出した。
パラッと本を開くと、その本のなかでも「たいしたことのない話」のページが広がった。
それをかいつまんで紹介すると「妖怪じみたものに出会う、発狂する・・・というのを体験者の知り合いから又聞きした、どこか作り話めいた怪談」であった。
すでに読んでいた話だったので、自分に聞こえるか否かの小さな声で「もう読んだ」・・・と倦怠感のこもったぼやきをSさんは漏らした。
「まだ、
自分の耳元、後方から嬉しそうな声でそう囁かれたという。
奇譚-『声』-
各原題『オノマトペ』『いらっしゃいませ』『いる』
短編怪談集『奇譚』 西川東 @tosen_nishimoto
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