第十七話
少しまえは、いわゆる“やんちゃ”な人間だったKさんの体験。
当時つるんでいた仲間も似たような者で、やはり若気の至りというべきか、しょっちゅう度胸試しをしていたという。
そして度胸試しでよくやっていたのが、真夜中の廃墟探索であった。
数ある廃墟探索で、古い雑誌や茶わんをはじめ、なにに使うのか分からない変なものをみたことはあったが、よくいう心霊現象といったものに会うことはなかった。
ただ、ある廃墟でなんとなく拾ったノートは別格だったという。
Kさんが廃墟のなかで拾いあげたそのノートは、建物の寂れ具合にふさわしく、汚らしいだけで何も書かれていない外見をしていた。
なんとなくパラパラとめくると、どのページにもびっしりと
『wwwww・・・』
と、書かれていた。
いわゆるネットスラングの『草』というものであったが、さすがに今まで度胸試しで肝の太くなったKさんも、ページいっぱい一心不乱に書き込まれた『草』の光景に一瞬たじろいだ。
滅多に拾うものではない。
これは度胸試しにもってこいと、さっそく仲間に奇妙な熱量がこもったノートを見せびらかした。
一同が「なんだよこれ」「キ●ガイじゃん」などと口にするなか、Kさんだけ違和感を覚えた。
『www』と並ぶ文字の一部が、小文字で筆記体のhの終わりを強く跳ねてを伸ばしたような形、すなわち『h_』のようになっている。
とたんに、ふと(これ、『w』じゃなくて『ん』なんじゃねーかな)・・・と脳裏に浮かんできた。
すると「んー、んーんんー」と、甲高くも吐息のような囁きが耳に入ってきた。
それがまるで「え~、そうかなあ~?」と、嬉しそうに、内緒話でもするような声だった。
そこからKさんは脱兎のごとく、仲間を置いて廃墟を後にしたそうだ。
「・・・だからね、たぶん目をつけられたんだよ。分かってくれるやつが現れたから」
以来、Kさんは廃墟の類いには近づいていない。
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