第三十一話
地元の電機製品店でアルバイトをしていた聡子さん(仮名)の体験。
ある日、商品の埃を取り払っていると、どこからともなく子供の歌声が聞こえてきた。
「ハッピーバースデートゥユー、ハッピーバースデートゥユー、ハッピーバースデートゥユー、・・・」
その部分しか繰り返さない女の子の声がどこからするのか辺りを見回すと、青い顔をした店員さんが首を振って「やめろ」とジェスチャーを送ってきた。
不思議なことにお客さまには歌声が聞こえていないのか、何食わぬ顔でいるのが気味が悪かった。
そうこうしていると、その歌声が自分の近くまでやってきた。
店員さんが制したものの、その声が余計に気になってしまう。そこで、ちょうど配送前で埃をふき取っていたテレビの、なにも映らない画面に聡子さんは注視してしまった。
「反射した画面越しだったし、照明とかのせいで、そうみえただけかもしれないんですけどね」
真っ黒な画面のなかで、例えるなら大きなスポンジに生クリームをでたらめに塗りたくったような、酷くヒビ割れてボロボロの白い頭をしたものが駆け去っていった。
歌声が聞こえなくなってすぐに店員の顔をうかがったが、無言で頭を横に振ったそうだ。
後日、出勤して更衣室で自分のロッカーを開けると、なにかがはらりと地面に落ちた。
それは一枚の茶封筒で、表に返すと
「さ こ
と 」
と、汚い文字で書かれていた。
それが、あの子どもが差しだしてきたお誕生日カードのように思えた。
なんとなく「もうここにはいれないな・・・」と感じた聡子さんは、中身をみないまま封筒をゴミ箱に叩き込み、早々にバイトを辞めたという。
その後、聡子さんになにかあった・・・ということはない。
いまはもうない、ある電気製品店での話。
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