第十五話

 某書店で働いているYさんの話。

 従業員が使う更衣室で自分のロッカーを開けたとき、奇妙な感覚に襲われた。



 それがなんなのか分からず、しばらくそのまま佇んでいて気づいた。

 制服として使っているエプロンにつけている名札が、いつもは自分からみて左側につけているのが右側についていた。

 それだけではなかった。左側に寄せてハンガーにかけていたものが全て右寄りに、ズボンの右ポケットに入れているペンは左ポケットに、そんな感じでなにもかもが”あべこべ”になっていた。


 しまいには、いつも着ているワイシャツがから右前から左前に変わっていたという。



 さすがにここまで話を聞いた私は(それは作り話だろ・・)と興ざめして、そこから適当に切り上げてYさんとは別れた。

 ただ、思い返すと、話を聞く前と後でYさんの印象が変わっていたような気がする。

 よくよく思い出すと、ファミレスで向かい合って話したのに、このYさんが男だったのか、女だったのか、特徴をはじめ、どんな経緯で連絡を取り始めたかまでも記憶が曖昧で薄ら寒いものを覚えた。





奇譚—記憶—

 各話原題 『ぶにゅっ!』、『串焼き』、『あべこべ』

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