第十三話
Sさんが小学生の頃。授業の一環で点字について学習する機会があった。
これがどういうことか、授業をきっかけにSさんは点字にドハマりし、どうにか指だけで読めるようにならないか奮闘したという。
その熱意は本物で、授業で書いたノートの内容を点字で書き直してなんとか読めないか、などと試行錯誤していたそうだ。
そして、ある日の休日に最寄りの駅に向かい、施設内に記されている点字を解読できないか挑戦することにした。
真昼間、他の人の邪魔にならない隙を見計らって、駅の案内図に打ち付けられたあの突起物の羅列にそっと指を添える。目を閉じて指の腹の感覚に集中する。
しかし、悲しいことになんと書いてあるかさっぱり分からない。暗黒空間のなかで頭が混乱するだけであった。
そのままぞぞぞぞっ・・・とゆっくり指を滑らせる。そうして腕が伸びきりそうになったとき
ぶにゅっ!!!
予想だにしていなかった感覚に思わずSさんは「うわあ!」と指を離して目も開いてしまった。
夕暮れ時。知らない場所。見知らぬ電柱。
思い出せば一つだけ明かりが薄暗い電柱のまえに突っ立っていたという。
それから混乱した状態で交番をみつけ、そこで隣町にいる両親が迎えに来るまで泣き続けたという。
その頃の話はここまでである。ジャンルとすれば「不思議な話」の類にあたるだろうか。
しかし、現在、Sさんはこのときの記憶を非常に恐れている。
「あのとき触ってしまったナニカに引っ張られているような気がするんです」
近年、Sさんの視力は急激に落ちてきている。
もしこのまま目がみえなくなったら。
本当に暗闇のなかで、あの「ぶにゅっ」としたナニカと二人きりになってしまう。
ひょっとすると、そうして怯えている自分の姿を、あいつは暗闇のなかから観察しているのではないか。
そんな妄想が頭から離れないという。
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