10
「こんなものだよ、私の実力なんて」
壬生さんは模試の問題用紙を僕の目の前でビリビリに破いてくと、そのままポイっと適当に投げ捨てた。
「いつかこうなる日が来るって、なんとなくわかってたよ」
「うん?どういうこと?」
「根東くん、私の実力なんてね、しょせんは受験で東大に入れる程度だし、スポーツも県大会で好成績を残せる、その程度のものなんだよ」
それは十分立派な実力ではないのだろうか?
「あの、十分凄いと思うよ?」
「でも私はノーベル賞を取れるような天才ではないし、ウィンブルドンで優勝できるほどの実力者でもないんだよ。わかる?私はね、学校という小さい環境でしか特別でいられない、井の中の可愛いカエルでしかないんだよ」
それはまた、ずいぶん可愛らしいカエルもいたもんだな。
「本当に実力のある人、本当に才能を持つ人、本当に世界で通用するような天才な人、そういう本当に実力を持っている人を前にしたら、私の実力なんて風前の灯。勝てやしないの。私はとても可愛い女の子だけど、世界のトップモデルに通用するほど可愛いわけではないんだよ。よくて日本の芸能界で活躍できるくらいじゃないかしら?」
いや、だからそれは十分に通用しているのではないのだろうか?
…ただまあ、言いたいことはなんとなく理解できた。
「えーっと、もしかして、壬生さんはあんまり自分に自信が無かったのかな?」
なんだかひどく疲れたような顔をしている壬生さん。彼女はジロリと僕を睨むと、ハアと盛大に溜息をつく。
「わかんない。少なくとも、もっと子供のころは自分の実力に疑いを持ってなかったよ。でもね、高校生になって、世の中全体を見るようになるとね、ああ、私ってもしかして、すごく平凡な人間だったのかなあ、って思うようになって、急に怖くなってきた」
——きっかけは根東くんのせいだよ、と僕を指さしながら壬生さんは言う。
「あれ、僕なんかやったっけ?」
「やったよ。それはもう盛大に私に見たくもない現実を突きつけてきた」
はは、と乾いた笑いをする壬生さん。
「だって私、この界隈で負けたことなんて無かったもん。わざと負けたようなことを除けば、まさに連戦連勝。誰も私に勝てやしない。壬生来沙羅ちゃんは成績優秀でスポーツ万能。おまけに美少女、まさに才色兼備のパーフェクトな女の子だったんだよ。でも本当はね、ちょっと並みの人間以上にできるだけの、それ以外はいたって普通の女の子なのでした」
——なんだか疲れたね、と壬生さんはうんざりするような口調だ。
「私にとってね、一番になるってとても簡単なことなの。だってちょっと努力するだけでたいていのことはできるんだもん。でもね、それを維持するってなると、すごく面倒に感じる」
「うん?そうなの?」
「そうだよ、だって私よりできる人がいないんだもん。目標にして良い人がいない。ゴールにできる人がいない。それってね、暗闇の中で走るようなものだよ。光のない真っ暗な道を、どこに走って良いのかわからず、それでも走り続けないといけない、もしかしたら間違ってるかもしれないのに、正しいと信じて走らないといけない、すごく大変だよね」
ふむ、確かにそれは不安かもね。
「それでも周りが期待するから、仕方なく頑張って一位を目指し続けてあげるの。でもね、そうすると何故か周りがうるさくなるの」
はて?壬生さんが頑張ると、なぜ外野がうるさいのだろう?
「私が一番だと面白くないって思う人が世の中には多くてね。私はただ頑張ってるだけなのに、女の子にくせに生意気だとか、どうせズルしてるとか、本当はカンニングでもしてるんだろとか、はあ、一体なにを根拠に言っているのやら。バカバカしいよね」
ああ、僻みってことね。まあ妬む人は多そうだね。
「なんで正しいことをしているだけなのに、周りから文句を言われないといけないのだろう?こんなふざけた話ってないよね。人より優れていることは悪いことなのかしら?」
「え、いや、流石にそんなことはないと思うよ」
「ふふ、ありがとう、やっぱり根東くんは優しいね」
壬生さんはテーブルの上で肘をつきながら、にっこりと微笑んだ。
「根東くん、私だって、別になんの努力もしてないわけではないよ」
「うん、知ってるよ。壬生さん、実はすごい努力してるよね」
「そうだよ、毎日ちゃんと勉強してるんだよ」
「そうだね、壬生さんは偉いね」
「テニスだって、どうすれば上手くなるか、必死に他の人のやり方を見て、学んで、ちゃんと練習したんだよ」
「うん、壬生さんは本当に頑張り屋だね」
「私、なにか間違ってる?」
「え、そんなことないよ。すごく偉いと思うよ」
「ふふ、ふふふ、う、…ぐす、ううう、じゃあなんで誰も褒めてくれないの?」
ぽつりと、机の上に水滴が落ちる。壬生さんは体を震わせて、手で顔を覆い隠す。
「私、頑張ってるよねッ!ちゃんと結果も出してるよね!」
「え、うん、そうだね、頑張ってるよ」
「じゃあ褒めてよ!」
「う、うん。壬生さん、すごい偉いよ!」
「足りないよ!」
「壬生さん、偉い偉い、あのー、えーと、あの、いつも頑張ってて、凄いよ壬生さん!」
「本当に?本当に私、偉い?凄い?」
「うん、凄いよ!」
「でも根東くんに負けたよ?」
壬生さんはごしごしと目元を手の甲で拭うと、真っ赤な目で僕を見つめる。
「なんで私、負けちゃったの?ねえ、なんで?私、頑張ってるんでしょ」
それは、えー、どうしよう?うーん…
「あの、僕の方がもっと頑張ったから、かな?」
「なんでそんなに頑張ったの?」
「だって壬生さんのこと好きだし」
「でも負ければ、根東くんの大好きな寝取られができたよ?」
「いや、それはそうなんだけどね。でもそれやったら、壬生さんが傷つくでしょ?」
「つかないよ?」
「いや、つくよ、きっと」
確かに壬生さんの性格上、もしかしたら傷つかないかもしれない。でも後々になってやっぱりやらなきゃよかったって後悔しそうな気がした。
「根東くんは、私のこと、好きなの?」
「うん、大好きだよ」
「でも私、もう特別じゃないよ?」
——勉強もスポーツも負けちゃったから、もうただの女の子だよ、と壬生さんは言う。
「僕は、壬生さんっていうその人が好きだから、それは別に関係ないよ」
「それ本当?」
「うん、本当だよ」
「じゃあ責任とって」
「え?」
壬生さんは立ち上がり、テーブルに乗り、そのまま四つん這いの姿勢で僕の方に近寄ってくる。僕はそんな彼女を受け止め、抱きしめた。
腕の中に壬生さんがいる。女の子の柔らかい感触が伝わってくる。
「根東くんのせいで、壬生来沙羅ちゃんはね、普通の女の子になっちゃったんだよ。もう勉強もスポーツも一番だった、あの来沙羅ちゃんはいないの。ここにいるのはね、彼氏に負かされて、取柄を全部失った、ただの可愛い女の子なんだよ」
——私をこんなふうにした責任、取ってくれるよね?
僕は壬生さん、いや来沙羅をしっかりと抱きしめて、そのまま彼女にキスをする。
「うん、いいよ。責任どころか、来沙羅の心まで全部もらっても良いんだよね?」
「うん、あげる。私の全部、受け取ってね、司」
僕たちは立ち上がり、そしてベッドへ向かう。
来沙羅をベッドに押し倒すと、彼女の制服のボタンを一つずつ丁寧に外し、服を脱がせ、ブラのホックを外し、下着をすべて脱がして彼女の体を覆うものを無くす。そして僕も服を脱いだ。
ベッドの上に仰向けになる来沙羅の体はとても綺麗で神々しくすらあった。
杏も瑞樹も綺麗な美少女だが、今の来沙羅はそれ以上に可愛い。
白く滑らかな肌。形の良い二つの乳房に、キュッと締まっているウエスト、そして丸みのあるお尻。指先から爪先まで、どこまでも完璧な美少女の体だった。
「司、私のこと、気持ち良くして。今日のこの屈辱、全部忘れさせて。できなかったら許さないよ?」
「わかってる、来沙羅。僕に全部任せて」
来沙羅は抵抗する意思はまったくないようだった。その白い頬をピンク色に染めて、なにかを期待するような眼差しを僕に向けてくる。
僕はこの美少女の体に覆い被さり、来沙羅を抱いた。
時間はあるのだ。焦らず、じっくり、丁寧に、ゆっくり、優しく、僕は彼女を愛撫し、耳もとに愛の言葉を囁いて、来沙羅の体が暖まるまでその体をほぐしていく。
決して彼女に苦痛を与えないように、どこまでも気持ち良くなれるように、来沙羅には優しく接していく。
やがて来沙羅の顔がトロトロに蕩け、はあはあと息が荒くなる。
「司、早く…もう我慢できないよ」
「うん、いくよ、来沙羅」
準備はできた。そして僕は来沙羅と一線を超えて交わった。
来沙羅は、処女だった。
彼女は一度も他の男に寝取られてはいなかった。
今までのすべての言動は、ただの嘘。ただ僕の性癖を満たすための、真実ではない物語だった。
それも今となってはどうでも良いことだった。僕は来沙羅を愛し、来沙羅も僕を愛し、お互いに気持ち良くなっていった。
やがて行為が終わる。僕の隣には全身汗だくでうつ伏せになっている来沙羅がいた。
「司…」
「どうしたの来沙羅?」
「最後のあれ、凄かったね💓」
ふふ、と笑いかける来沙羅。
そんな彼女が愛おしくて僕は彼女にキスをした。
「あ…もう、こんなに気持ち良いなら、もっと早くやればよかったかもね」
「え、それは勘弁してよ。だってそれって…」
他の男とやるって意味に取れるじゃないか。
「ふふ、冗談だよ。あーあ、ついにやっちゃった。ふふ、これでもう、わからなくなるね」
「え、なにが?」
「この先、もし私が他の男に抱かれることがあっても、もう処女じゃないから確認しようがないよね」
「…」
し、しまったあああああああああああああああ!ええ、そういうことになるの!?
え、うそ、マジで?ええ、いやいやいや、ちょっと待ってよ!それってつまり、あの、えーっと…
「き、きき、来沙羅はもしかして、まだ続ける気なの?」
「うん、続けるよ。だって司…」
——寝取られが大好きだもんね、と厭味ったらしい笑みを来沙羅は浮かべた。
「もう私には司しかいないもん。勉強もスポーツも、そこそこ得意な来沙羅ちゃんしかここにはいないんだよ?全部失った今の私にとって、司はね、唯一他人に自慢できる、最高の彼氏なの。そんな彼氏が寝取られて欲しいって思ったら、彼氏を喜ばせるためについ他の男とエッチしてもおかしくないよね?」
「え、ええ?そうなるの?で、でもちょっと待ってよ!」
「ふふ、ぷぷ、アハッ。大丈夫。司がやって欲しいって言わない限り、やらないから」
「あ、そうなの?なら安心だね!」
ふう、そうだよね。いくら寝取られが好きだからって、そんな本人の同意もなしに勝手に寝取られプレイなんてしないよね。
え、でもそれってさあ、僕が望めばいつでも来沙羅は他の男とエッチしてくれるってこと?えー、うーん、どうしよう?そんなこと言われたらさあ、ちょっと試したくなるじゃないか!
「あのー、イチャイチャしてるところ悪いんですけど、そろそろ良いかな?」
こんこんと扉をノックする音がすると、ガチャリと扉が開き、二人の美少女がやってくる。杏と瑞樹だった。
「ちょっと、今いいところなんですけど?」
「うーん、私もね、せっかくの二人の時間を邪魔したくないの。でもね、ほら、もうすぐ0時になるでしょ?」
「なあ司。俺たち今日はまだ抱いてもらってないんだが?これってつまり、寝取られて来いってことか?」
…え?あ、そういえばそういう約束だったね。
杏と瑞樹は服を脱ぎ捨て、二人ともなにも身に着けない状態でベッドに上がってくる。
「違うよね、ご主人様。ちゃんと今夜も抱いてくれるよね?」
「そうだよな、司。俺のこともちゃんと気持ち良くしてくれるよな?」
二人の眼差しがなんか怖い。僕は助けを求めるように来沙羅を見る。すると彼女は、はあと小さく嘆息すると、
「仕方ないね。それもこれも全部司が悪いんだもん。じゃあ私たち、三人でエッチしようか」
とまるで獲物を見つけた女豹のような顔で僕を見る。
あ、これはダメだ。逃げられない。
もうこうなったらあれだ、腹を括ろう。
「わかったよ、やるよ。今日はヤリまくるよ!今日は全員とヤるからね!」
あははは、もう自棄だよ。こうなったらやってやってやりまくるだけだよね!
僕はベッドの上に三人の美少女を並べる。お尻が三つも並んでいて壮観だった。はー、こんなのAVでしか見たことない光景だよ。実在するんだね。
「早くっ、ご主人様💓」
「司、俺もう我慢できねえよ💓」
「私が最初だよね、司💓」
その晩。淫らな嬌声が一晩中、部屋の中に響きわたった。
やがて一夜が明け、窓から日の光が差し込む。
ベッドの上はまさに大惨事だ。なんだかもうべとべとのぐちゃぐちゃで、ちゃんと掃除しないと次の夜はここでは寝れないだろう。
隣にいる来沙羅の方を見ると、パチリと瞼が開いて目が遭った。
「おはよう、司」
「うん、おはよう、来沙羅」
僕たちは自然とキスをする。
「ねえ、司」
「うん、なにかな?」
「杏のお母さんって浮気症で、そのせいで離婚しちゃうかもしれないの」
…え?急になにを言い出すのだろう?
「でもね、浮気症が無くなれば離婚しないで済むと思うんだよね。私、杏は大事な友達だから、助けてあげたいの」
「え、ああ、うん。それはまあ、僕も杏のことを助けられるなら助けたいけど…」
「だからね、杏のお母さんを寝取ってあげてよ」
…はい?えーっと、本気ですか?相手は人妻ですよ?
来沙羅の目はとても冗談を言っているようには見えない。
僕らはついに一線を超えてお互いに心の底から愛し合える恋人同士になれた。しかし僕らのこの歪な関係はまだまだ続きそうだった。
絶対に寝取られない僕の彼女・壬生さん カワサキ萌 @kawasakimoe
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