4

 駅前でしばらく待っていると、宗像さんの彼氏とおぼしき男性がやってきた。たぶん、同じ学年だろう。


「ごめん、杏!遅れちゃった!」


「もう、遅いですよ。みんな待ってたんだから」


「本当にごめんね。まさかこんな大事な日に寝過ごすだなんて」


「もう、寝ぐせついてますよ。ほら、直してあげますね」


 やれやれと溜息をつくと、、宗像さんは彼氏の頭にぴょこんと飛び出ている寝ぐせを撫でて直してくれる。宗像さんって、けっこう優しいよな。


「ありがとう、杏」


「どういたしまして」


 なんというか、妖艶でビッチな雰囲気のある宗像さんの彼氏というのだから、てっきりすごく性欲旺盛な絶倫男でもやってくるのかと思った。しかし、いざ目の前に現れたのは、どちらかといえば性欲は薄そうで、人畜無害な感じのある男性だった。


「えーと、真央律です。今日はあの、よろしくお願いしますね」


 ははは、と乾いた笑いをするこの男。なんだか緊張感がまるでないのだが、この人は本当にこれからすることを理解しているのだろうか?いや、理解していない方がありがたいか?その方がうやむやにできそうだし。


「壬生来沙羅です。今日はよろしくお願いしますね」


「あの、根東司です。よろしくお願いします」


 …いや、よろしくしちゃダメだろ。


 確かに人畜無害で善良そうな男性ではある。それでも男であることに違いはないのだ。そんな男が今日、これから僕の彼女と一緒にデートをするだなんて。


 想像しただけで、期待に興奮していた。まったく、僕の寝取られ性癖は度し難いな。そこは期待しちゃダメだろ。


 それにしても、本当にこの人、わかってるのかな?一応確認しておこう。


「あのー、真央さんは、そのー、今日やることは理解してるんですよね?」


「え?ああ、はい、もちろんです。杏から最初聞かされたときはびっくりしましたが、大丈夫です!壬生さんと根東さんの期待に答えられるように頑張ってみますね!」


 いや、そんな期待に応えてほしくないんだけど?頑張る必要とか皆無なのですが?


 しかしこの男。やっぱり善良そうに見えて、中味はやべー奴かもしれない。


 いくら公認とはいえ、もしかしたら彼女が他の男に抱かれるかもしれないというのに。挙句、自分は自分で恋人以外の女に性的に襲われるかもしれないというのに。


 …いや、後半については普通の男からすれば嬉しいだけか。それも彼女公認なんだもん。


 まずい。本当に始まってしまう。浮気OKのWデートが始まってしまうよ!


「じゃあ、さっそく彼氏を交換してデートしましょうか。とりあえず、五時間ぐらい経ったら集合しましょう」


 僕の胸中など知らんといわんばかりの勢いでどんどん事態を進行させる壬生さん。わかってるのだろうか?君はもしかしたら今日、その男とやるかもしれないんだよ!


 まずい。想像するだけで異常なぐらい興奮してしまう。僕の脳が彼女の寝取られる姿を勝手に頭の中で想像させるせいで、ドクドクと雄たけびを上げるような勢いで血液が盛大に体内を循環している気がした。


 今までとは明らかに違う。ガチで寝取られるかもしれない。その恐怖が、僕の興奮をさらに盛り上げていた。


 ――大丈夫、大丈夫なのだ。


 僕は自分に言い聞かせる。いくら僕が寝取られ性癖の持ち主だからといって、それでも僕は理性のある人間だ。倫理観と理性を発揮すれば、寝取られなんて封じ込めるはず!


「じゃあ行きましょう、真央くん!」


 まるで自分が彼女だと言わんばかりの勢いで壬生さんは僕以外の男に近寄ると、その腕に自分を腕を絡ませる。


 ああ、なんかこれだけですごい寝取られた感じがする。壬生さんが、壬生さんが、僕以外の男とマジで腕を組んでる。それも楽しそうに。傍から見たら、完全にカップルだ。


 志波の時も手は握っていた。しかし、今回は志波の時とは明らかに違う。だって志波は不倫公認じゃないもん。でもこの男は不倫OKだもん。つまり、彼女という安全装置がぶっ壊れているということだ。


 これはもうあれだね、ブレーキが壊れた状態で車を走らせるようなもんだよね。


 ああ、遠ざかっていく。壬生さんが、僕以外の男と一緒に並んでどんどん遠くなっていく。嫌だよ、いかないでよ、壬生さん。


「あらあら、本当に興奮してるのね」


 そんな僕の方を見て、少し心配そうな顔をする宗像さん。


「どうします?ちょっと休憩します?」


 といって彼女が指さす方向は、どう見てもラブホ街だった。


 あ、やべえ。この人はこの人でやべえわ。


 僕は自分の顔を両手でパンパンと叩いて気合を入れる。


「いえ、大丈夫です。宗像さん、僕らも遊びに行きましょう」


「そうね。私たちもいきましょう。でもその前に、涙を拭いた方がいいですよ」


 おっと。予想以上に頬を強く叩き過ぎたかな?ちょっと目から涙が零れたよ。


「大丈夫です。でも、ちょっとだけ待ってもらえますか?心の準備しますから」


「ええ、いいわよ」


 みっともない姿を見せてしまって恥ずかしい。僕は袖でごしごしと目を拭うと、「よし、大丈夫です。行きましょう」と宗像さんに言う。


 宗像さんはちょっと困ったような顔をしつつも、「うーん、大丈夫かしら?」と僕に近寄り、腕を絡ませてくる。


「あんまり無茶しちゃダメですよ」


 …やばいな、この人、すごい優しいかもしれない。


 壬生さん、大変です。宗像さんはただのエッチな人ではありません。とても優しく、一緒にいるとすごく癒されます。


 ただでさえ僕の脳は今、限界まで破壊されているだけに、宗像さんの母性的なやさしさは身に染みるものがある。


 てっきりもっとエロエロに攻めてくるのかと思っていた。まさかこんなメンタルヘルス的な慈愛をもって攻められるとは思わなかったよ。


 宗像さんが僕の腕をその両腕でぎゅっと抱きしめる。すると、彼女の豊かな胸の中に僕の腕が包まれて、その柔らかな感触に確かな心地の良さがあった。


 そんな密着する状態だからこそ、宗像さんから女の子の甘い香りが漂ってきて、その香りが僕を幸福にする。


 こんな素晴らしい女性がこの世にはいるのか。生きててよかった…ハッ!いかんいかん、僕には壬生さんという最高の彼女がいるんだ!宗像さんにうつつを抜かしてどうする!


 なにか、なにか気を紛らわせないとこれはまずい。このまま一緒にいると、宗像さんの色香にやられてしまいそうだった。


 僕はなにか会話のネタを探す。なんかちょうど良い会話デッキないかな?


「それにしても、今日は晴れてよかったですね」


「そうね。でも午後から曇るらしいよ」


「え?そうなんですか?じゃあ気を付けた方がいいですね」


「ふふ、そうだね」


 ……会話終了しちゃったよ。


 天気の会話デッキは汎用性が高いけど、すぐ効果が尽きるから実はあんまり役に立たないよな。


「あの、どこ行きましょうか?」


「あら?私が行きたい場所、言ってもいいのかしら?」


 ハッ!しまった!これでもしもラブホに行きたいなんて言われたらどうするんだ!バカ野郎!そんなことさせてたまるか!


 とにかく今は宗像さんをラブホみたいなエッチ関連の施設から遠ざけないと!


「えーと、そ、そうだ!僕、ボーリング得意なんですよ!よかったらボーリング行きましょう!」


「あら、私もボーリング得意よ。じゃあ勝負だね!」


「え、本当ですか!奇遇ですね!いいですよ、勝負しましょう!」


 適当にボーリングの話をしたら、予想以上に食いついてくれた。よかった、とりあえずエロ方面から遠ざけることができそうだ。


 僕たちはその後、ボーリング場へ向かった。その間、宗像さんについていろいろ質問してみた。


 宗像さんは友達に誘われて女子テニス部に入ったこと。テニスはそれほど得意ではないけど、雰囲気が好きなので遊び感覚でやっているとのこと。


「結構、スポーツとかよくやるんですか?」


「ええ、体を動かすことは、好きよ」


 …それはスポーツの話ですよね?男と女が体を動かす的な意味ではないですよね?


 その話をしたとき、宗像さんの僕の腕を抱きしめる力がちょっとだけ増した気がした。そのせいで、彼女の胸の圧力がより強くなって僕の腕を支配する。


 こんなの反則だよ。服の上からなのに、すごい柔らかいんだもん。


 そんな宗像さんと一緒にいざボーリング場に到着すると、僕らは受付を済ませていざボーリングへ。


「じゃあ私から投げるね!」


「うん、頑張ってね!」


 ふぅ。ようやく宗像さんのおっぱいの魔力から解放された。今までずっと彼女の胸に抱きしめられていただけに、僕の右腕だけすごい熱を帯びている。


 腕組みなんて本来であれば、断るべきなのかもしれない。しかし断れなかったよ。だってすごいおっぱいだったんだもん。


 そんな彼女がボールを持ち、レーンに向かって投げる。なかなか綺麗なフォームだった。どうやらボーリングが得意というのは本当のようだ。その綺麗なフォームのせいで、スカートがやや持ち上がり、彼女の太ももがきわどい角度で見えたので、僕はそっとその映像を脳内フォルダに保管することにした。


 宗像さんは本当にセクシーな女性だ。壬生さんとは違う意味で危険である。


 そんな宗像さんが投げたボールは勢いを増してピンへ向かう。やがて衝突すると、激しい衝突音とともにピンがすべて弾け飛んだ。


「見てみて!ストライクだよ、根東くん!」


「うわあ、すごいですね!」


 よほど嬉しいのか、ガッツポーズを決めてこちらに笑みを向ける宗像さん。その嬉しそうな姿がとても可愛くて、こんな無邪気な顔もできるんだとちょっと驚いた。


 …そうだよ。いくらお姉さんっぽいといっても、やっぱり十代の女の子なのだ。そんなエロエロなわけないよね!


 嬉しそうな顔をしてこちらに駆け寄る宗像さん。そんな彼女が両手を差し出せば、僕もそれに合わせて、


「「いえーい」」


 とパチンと両手を叩いた。どうしよう、宗像さんとのデート、すごく楽しいかもしれない。


「宗像さん、本当に上手いですね。びっくりしましたよ!」


「私も驚いちゃった。久しぶりだからちょっと緊張しちゃったよ」


「へぇ、ボーリングは昔はやってたんですか?」


「うん。来沙羅とよく遊んでたよ」


 壬生さんと遊んでた…それはボーリングで遊んでたって意味だよね。なんかこう、大人のボール遊びとか、そういうことではないよね。


「次、根東くんの番だよ」


「あ、うん、いってくるよ!」


「頑張ってね」


「任せて!僕もストライク取るよ!」


 イスに座り、背後から応援してくれる宗像さん。はあ、彼女に応援されながらするボーリングは楽しいなあ…


 僕はボールを持ち、宗像さんに良いところを見せようと勢いをつけてボールを投げようとする。


 …いや、彼女ちゃうやん。僕の彼女は壬生さんじゃん。


 ハッ!あまりの楽しさについ宗像さんを彼女と勘違いしちゃった…ああ、しまった、ボールがあらぬ方向に!


「あー、ガーターだね」


「う、うん。ごめん、ちょっと力み過ぎた。次こそ決めるから見てて!」


「うん、見てるから頑張ってね」


 こんな醜態を見せているというのに、宗像さんは嫌な顔一つせず、僕のことを応援してくれる。この娘さあ、もしかして本当に良い娘なんじゃないの?なんか僕の理想の彼女との休日デートのイメージを完全再現してくれるんですけど?


 ……いやいや、だから違うってばああああ、あああああ、またボールがあらぬ方向へ!


 僕が投げたボールは再びガーターへ。ピンを一つも倒せなかった。


「根東くん、ドンマイ」


「うん、ありがとう宗像さん」


 良いところ、見せられなかったな。いや、見せなくていいんだけどね。


「さっきのボーリング勝負、私の勝ちでいいのかな?」


 ああ、そういえば勝負するって言ってたかな。


「うん、宗像さんの圧勝だったね。すごいや!」


「えーと、うん、そうだね。私、強いね」


 わかってるよ、君の言いたいことは。あれでしょ。僕が弱すぎるって言いたいのでしょ。まったく、正論が痛いぜ!


 ボーリングを終えて僕らは別の場所に移動する。その間、宗像さんは僕の腕を抱きしめる代わりに、そっと左手を握ってくれた。


 なぜだろう?おっぱいをあてられるより、こうやって手を握りあう方が恋人同士みたいでドキドキするな。


 …壬生さんも今、こうして他の男と手をつないでいるのかな?そう思うとなぜだろう、胸が苦しくなるのと同時に、興奮で心臓が高鳴ってもいた。


 苦しいのか嬉しいのか、よくわからないよ。


「次はどこで遊ぼうか?」


 宗像さんは優しい声で僕に語り掛ける。彼女と一緒にいると、時間がゆっくりと、それでいて楽しく過ぎていく。


「うーん、じゃあゲーセンでも行く?」


「いいね、行こう」


 僕と宗像さんの握りあう手が、ちょっとだけ強くなった気がした。一体どっちが力を入れたのだろう?


「ほら根東くん、こっちこっち」


「ちょ、ちょっと待ってよ、宗像さん!」


 宗像さんに連れられて僕はプリクラへ。彼女と一緒にプリクラなんて初めてだな。…いや、だから彼女は壬生さんなんだって!


 そんな僕の焦燥をかき消すように宗像さんは楽し気に一緒にプリクラを撮る。今の彼女を見ていると、本当に合宿であんな過激なマネをする女性と同じとはとても思えなかった。


 というより、僕の中で宗像さんに対する印象はだいぶ変わってきた。普通にデートをする限りにおいて、宗像さんはどこにでもいる普通の女の子だった。


「ねえ、根東くん。あれ可愛くない?」


「えー、どれどれ?」


「あれあれ!」


 宗像さんの指さす方向を見れば、クレーンゲームの箱の中にいる熊みたいなぬいぐるみがいた。


「ああ、本当だ、可愛いね。よかったら、僕が取ろうか?」


「うん?根東くん、こういうの得意なの?」


「宗像さんのために頑張るよ!」


「そう?じゃあ頑張ってね!」


 よーし、今度こそ彼女のために頑張るぞ!僕はクレーンゲームに硬貨を投下する。ボーリングの失態を取り戻すんだ。


「あ、いけそう、あ、ああ!ああ、ダメだってね。うん?もう一度やる?うん、頑張ってね、そう、そこ、あ、そこはダメ!根東くん、頑張って、もうすぐだから、そこ、そこ、あ、あー、惜しかったね」


 ぜんぜんダメだったわ。宗像さんの声援が無駄に終わってしまうのが心苦しかった。宗像さんは彼女でもないのに、誰よりも理想の彼女に近い行動をしてくれる。そのせいで、やらなくても良いのについ頑張ってしまう。


「も、もう一回、もう一回やればできると思うから、ちょっと両替してくる!」


「え?そんなに無理しなくていいよ?」


「いやいや、大丈夫だから!僕、宗像さんのためにやってみせるから!ちょっと待ってて!」


 なんとしてもやり遂げないと!彼女のためにやり遂げないと!


 クレーンゲームのコーナーに宗像さんを待たせ、僕は急いで両替コーナーへ向かう。


 僕は両替機の前に立ち、千円札を両替して、ふと我に返る。


 …いや、だからね、宗像さんは彼女じゃねえから。僕の彼女は壬生さんだから!ぐわあああああ!なんで宗像さんの前でかっこつけようとするかな?別にしなくていいじゃん!なにやってんの僕は…あ、両替しちゃった。


 いや、落ち着け。まだ焦る時間じゃない。ただ千円札が小銭になっただけじゃん。ちょうど小銭が欲しいって思ってたところだよ。


 …これメダルじゃねえか。


 僕の千円札が文字通り、あぶく銭となって消えた。


 一体なにをしているんだろう?ちょっとゲームのやりすぎでおかしくなったのかもしれない。


 僕はメダル預け機に不要なメダルを預け、宗像さんのところへ戻ることにした。


 クレーンゲームのコーナーに戻ると、宗像さんが知らない男の人に声をかけられていた。ナンパかな?


「ねえ、よかったら一緒に遊ぼうよ」


「あの、困ります」


「いいからいいから、ほら一緒に行こうぜ」


 どくん。なぜだろう?心臓が高鳴る。いやいや、違うよ。寝取られ性癖が発揮されたとかじゃないよ?宗像さんが他の男に取られたって僕、別に興奮しないよ?本当だよ?


 はあ。ったく、なんだよ。今は僕、壬生さんのことで忙しいんですけど?


 わけのわからない感情に支配されてちょっとイライラしていたのかもしれない。正直、ナンパに関わっている時間がもったいない。


 僕は宗像さんのそばに近寄ると、彼女の手を掴み、


「え?」


「悪いけど、僕の彼女なんで」


 とナンパ師ににらみをきかせて宗像さんを連れ去った。


「チッ、なんだよ、彼氏持ちかよ。って当たり前か」


 そんなナンパ師の舌打ちを背に、僕は宗像さんを引っ張る。


「ね、根東くん?」


「…」


「ねえ、そんなに引っ張られると、ちょっと腕が痛いかな?」


「え、あ、ごめん。ちょっと力み過ぎたね」


「ううん、いいんだよ。私もちょっと困ってたし。それより…」


 ――今の、かっこよかったよ、と宗像さんは僕の右腕に両手を絡ませながら耳元で囁いた。


「え?そう?宗像さんにかっこ良いところ、ようやく見せられたね」


「うん、そうだね」


 ふぅ、今日はいいところ全然なかったし、最後にカッコいいところ見せられてよかったよ。


 …いや、だからよくないって。なにを言ってんだ僕は?


 ただ宗像さんの機嫌がちょっとだけ、良くなっている気がした。


 僕はスマホをオンにして時間を確認する。まだまだ時間はあった。


 五時間ってかなり長いな。


「次はどうしようか?」


 なにげなく宗像さんに聞く。


「うーん、映画でも見ればちょうど良い時間になるかもね」


 なるほど、確かにそれはありだな。


 …なんか今日、普通にデートしているな。なーんだ、警戒して損したかもな。


 壬生さんとの新しいルールのやり取りがあっただけに、僕はもしかしたら意味もなく警戒していたのかもしれない。


 そうだよ。そもそもさあ、彼女の壬生さんとだってエッチできないのに、彼女でもない女の子とそうそうエッチできる機会なんて滅多にないよね。


 このあとは適当に二時間ぐらいの映画を見て時間をつぶせば、もうそれでおしまい。新しいルールなんてなんの意味もなく、壬生さんも寝取られずに終われるよ。


 そう思うと、急に肩の荷が降りたような気がして、楽になった。


「うん、じゃあ映画館に行こうよ」


「いいよ。楽しみだね」


 それにしても、こうして一緒に手をつないで歩くと、本当にただの女の子だ。彼女のことを淫乱な女性だと思っていた過去の自分を殴って更生させてやりたい気分だよ。


 ごめんね、宗像さん。君は淫乱じゃないよ!ごくごく普通の女の子だよ!


 ぽつ、ぽつ、ざー。


 それは突然の雨だった。


 そういえば、宗像さん、言ってたな。午後から天気が変わるって。


「うわ、まずい!宗像さん、急ごう!」


「根東くん、あそこの店に避難しよ!」


「うん、わかった!」


 急な雨に濡れる僕たちは、慌ててお店の中に避難する。


「ふぅ、ひどい雨だったね」


「そうだね。ねえ、このお店でしばらく時間つぶそうよ」


「うん、そうしようね」


 僕は宗像さんに誘導されるままにお店の中に入ってく。宗像さんはテキパキとお店の中にあったパネルを操作して、「こっちだよ」と僕の手を握って連れていく。


 …あれ、そもそもこの店ってなんの店だ?


 そんな疑問をよそに、僕は宗像さんに誘われて部屋に入っていった。


「根東くん、すごい濡れちゃったね。シャワー浴びた方がいいよ」


「ああ、確かに。でも宗像さんも濡れてるし、先にシャワー浴びた方がいいよ」


「そう?本当にいいの?」


「うん、風邪をひいちゃうとまずいし、先に浴びてきていいよ」


「じゃあ、先に浴びてくるね。――待っててね💓」


 宗像さんはなぜかとても艶やかな表情を浮かべてシャワールームに行く。


 うん?なんだろう、この鏡?


 宗像さんが入っていたシャワールームは、全面がガラスに覆われていた。やがて中から照明がつき、シャワールームの全貌が見える。どうやらこのシャワールームはガラスで覆われているようで、中にいる宗像さんがシャワーを浴びる準備を始めていた。そんな彼女の姿がこちらから丸見えだった。


 しかし中にいる宗像さんはこちらに気づかない。


「ああ、これあれだ。マジックミラーだ」


 なるほどね。こちらからは見えるけど、シャワールームからは見えないって構造なんだ!おもしろい仕掛けもあるもんだよ。


 …ここラブホじゃねえか。


 宗像さんが服を脱ぐ。すると、ミラー越しに彼女の素肌が見え始めた。


 まずい。これは非常に、まずいことになった。

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