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「ふん♪ふーん♪」
シャワーを浴びる音とともに宗像さんの鼻歌がシャワールームより聞こえてくる。やがてシャワーの音が止み、彼女が扉を開けてシャワールームから出てくる足音がした。
「おまたせ、根東くん💓…どうして壁の方をじっと見つめてるのかしら?」
「いや、あの、ちょっと精神を落ち着かせようと思って…」
「あら、そんな方法で落ち着くの?」
もしかして気づいていないのだろうか?宗像さん、シャワー中の様子、全部丸見えですよって教えるべきか?
でも大丈夫ですよ、宗像さん!僕はちゃんと壁しか見てませんから。あなたの恥ずかしい部分は一切見てないので安心してください!
ふわり、とても甘く香ばしい匂いが突然、僕の鼻孔を襲ってくる。
「それで?」
僕は現在、ベッドの端に座っているわけなのだが、宗像さんがその隣に座り込む。
「どうして私のこと、見てくれないのかしら?」
「えーと、精神が乱れる恐れがあるので…」
「えい!」
「わ!」
宗像さんは僕に抱きついてくると、僕の顔をその両手で掴んで無理やり宗像さんの方を見させる。
「どう?私の体、なにか変かな?」
彼女の濡れた瞳がまっすぐに僕の方を見て、その柔らかそうな唇を動かして僕に語りかける。強制的に壁から宗像さんの方へと視線を動かされ、僕の視界に彼女の体がおさまった。
…よかった、バスローブ着てた。
いや、よくないわ。バスローブの下、なにも着てないわ。バスローブから見える宗像さんの谷間、どう見てもブラジャーしてないもん。
さきほどまでシャワーを浴びていたからだろう。宗像さんの柔肌は水で濡れて湿っぽく、光沢を放つ彼女の胸がやたらと艶めかしい。
宗像さんは、近くで見れば見るほど、女の色気の塊であることがわかる。この色気にあてられたら、普通の男ではまず我慢できないだろう。
でも我慢しないとダメだ。
宗像さんは今、僕の目の前にいる。はあはあと甘い吐息が僕の聴覚をくすぐり、変な気分にさせてくる。
「来沙羅にね、言われてるの」
「え?」
壬生さんが一体なにを言ったのだろう?
「エッチするかどうかは私に任せてくれるって。根東くんと話してみて、合わないって思ったらエッチしなくていいし、迫られても嫌なら拒否していいって言われてるの」
「え?そうなんですか?」
「そう。だからね、もしも来沙羅に命令されて無理やりやらされてるとか、嫌なのに強要されてるとか、そういうことを考えてるなら、安心して。本当に嫌ならちゃんと拒否するから」
それを聞いて少しだけ安心した。そうか、壬生さんは無理やり宗像さんにエッチさせてるわけじゃないのか。
それなら安心だね!宗像さんが僕みたいな普通の男とエッチしたいなんて思うわけないよね!よかったあ、なーんだ、もう最初にそれ言ってよね!
「そ、それなら僕とエッチする必要はないですね。だって…」
「さっきの根東くん、カッコ良かったよ」
「え?」
なにが?もしかしてナンパから助けたことかな?確かに我ながらカッコよく助けられたかなあ、って思うけど。
「私ね、本当はドMなの?」
宗像さんは急に何を言い出すんだ?
宗像さんの顔つきがだんだんと艶やかで、大人っぽくなっていく。
「さっき根東くんに手首をつかまれて、強引に引っ張られたとき、お腹のあたりがキュンとしちゃったの。私ね、ああいう強引なことされると、もしこの男とエッチをしたらどんなふうに攻められるのか、想像して、ハアハア――おかしくなっちゃうの」
宗像さんの息がだんだんと荒くなる。もともと湿っぽかった肌がさらに潤いを帯び、バスローブがはだけて彼女の太ももが露わになる。そのむっちりとした質感のある彼女の足がやたらと艶めかしく、つい視線がそちら向かってしまう。
「根東くんは女の子とエッチをするとき、どんなふうに攻めるの?ねえ、教えてほしいな」
「えーと、後日、文章でお伝えするということでよければ…」
「ダメ。今、ここで、私の体に教えてほしいの」
宗像さんは僕の手を掴むと、彼女の着ているバスローブの紐を握らせてくる。
「その紐を引っぱったら、このバスローブが脱げちゃうよ。そしたら、エッチ開始だね」
やべえ、こんなにも胸躍る命綱、初めて握ったんですけど!
ダメだ、絶対ダメ!この紐を解いたら、今はまだバスローブのおかげで封印されている宗像さんのとても神々しいお胸様が御開帳されてしまう。
ごくり、と唾を飲み込んだ。
あれは絶対エロい。見なくてもわかる。バスローブを盛り上げているその形を見ればわかる。宗像さんのこのおっぱいは兵器だよ。その神々しさに見たら耐えられないよ。
だから手を離すんだ。この紐は引っぱったらダメだ。絶対アウトだから。間違いなく理性が崩壊する紐だから。
「根東くん」
宗像さんが僕に甘く囁く。
「スマホ、鳴ってるよ」
「え?あ、本当だ」
僕はポケットで唸っているスマホを取ろうとする。
…あっぶね!スマホ取ろうと手を引っぱったら、宗像さんの紐も引っ張ってしまうやんけ!
「あらあら、惜しかったね💓」
このラブホに連れ込んだその策略といい、宗像さんて実は策士だよな。どんな計略が張り巡らされているかわかったものじゃない。
僕は紐を引っ張らないように注意しつつ、ポケットからスマホを出す。着信は壬生さんからだった。
壬生さん!そうだ、僕には大好きな彼女、壬生さんがいるんだ!壬生さんという最愛の彼女がいる以上、他の女の子とエッチなんて許されねえ!
助けて壬生さん!君の声を聞かせて!
「もしもし、壬生さ…」
『根東くん、ラブホテルに入ったね』
あ、やべえ、バレてる。
『私たちもこれからラブホに入るから、いつでも好きなタイミングでエッチすると良いよ。そのタイミングが、私が寝取られるタイミングだから』
ガチャ、スマホの通話が切れる。
あ、やばい。なんかいろんな意味でやばい。
「来沙羅、ラブホに入ったの?」
「う、うん、そうみたい」
「じゃあもう準備万端だね。あとは根東くん次第だよ」
宗像さんは僕に近づく。そのおかげで彼女との距離はほとんどゼロになり、宗像さんの甘い香りがより一層、僕の鼻孔を刺激してきた。
見れば見るほど、宗像さんは良い女だった。バスローブという煽情的な姿がより一層、彼女のセクシーさに磨きをかけ、僕の興奮の度合を増加させる。
宗像さんは僕の耳元でその柔らかそうな唇を動かして甘い囁きをする。
「ねえ、私の彼氏って、どんな人だと思う?」
「え?」
急に何を言い出すのだろう?僕は出会ったときの宗像さんの彼氏、真央律さんの姿をイメージする。
「うーん、善良そうな人って感じでしたね」
「うん、そうだね。でもね、彼ってエッチをするときはドSになるんだよ」
え?
「そういうふうに調教してあげたの。女の子がどんなふうにエッチをすれば喜ぶのか、手取り足取り、私の体をつかってぜーんぶ教えてあげたんだ」
な、なんて恐ろしいことを。あの人、あんな人畜無害な顔して実は性のエキスパートだったんですか!そんなのもう男優じゃん。
「最初は本当に下手だったの。でもね、ちゃんとできたら褒めて、甘えさせて、教えてあげたら、だんだん上手になったんだよ。今じゃすっごく女の子の扱いが上手になってね、先週なんて私、彼のせいでか弱い女の子みたいに鳴かされちゃったの」
――そういう人が、今から根東くんの彼女を抱くんだよ、と宗像さんはふうと僕の耳に吐息をかけてくる。
壬生さん。大丈夫だよね、壬生さん。
やばい、猛烈に恐ろしくなってきた。そんな危険な男と今、壬生さんは一緒なの?それもう大丈夫じゃないじゃん。アウトじゃん。どう考えてもセーフじゃねえよ。
壬生さんがもしそんな男に抱かれ、寝取られてしまったら、一体どうなってしまうのだろう?
あのクールな壬生さんが普段なら絶対に出さないような女の子の声を出して、泣かされてしまうのだろうか?
嫌だ。そんなの嫌だ。嫌なのに、なんでこんなにも興奮しているのだろう?
「あらあら。根東くん、すっかり準備できたね」
宗像さんは僕の胸に手を置くと、トンと押してくる。大した力ではないのに、僕は彼女に押されると抵抗できず、そのままベッドに後ろから倒れる。
まるで女豹だ。四つん這いの姿勢で僕の上にのしかかってくる宗像さん。ゆったりとしたバスローブの中の彼女の胸がその動きに合わせてたわわに揺れていた。
彼女はそのまま僕のお腹の上にすとんと腰をおろす。彼女のむっちりとしたお尻の感触がお腹ごしに伝わってくる。
ピロン♪スマホから音が鳴る。
「きっと来沙羅からだよ。見てみたら?」
僕はスマホを見る。壬生さんから画像データが送られてきた。そこには、すでに服を脱ぎ、下着姿になった壬生さんと真央律がいる。この男、実はかなり筋肉質な体してるな。
『いつでもいいよ💓』
画像には壬生さんのメッセージがついている。
僕が宗像さんを抱けば、壬生さんもまた抱かれてしまう。その準備がすべて整ってしまった。
宗像さんが僕の方に倒れかかってくる。あと数センチでキスできそうな距離まで彼女が迫ってきた。
バスローブ越しに彼女の体温が伝わってくる。その甘い息遣いも、心臓の音も、宗像さんのすべてが肌越しに伝わってきて、僕を苛む。
女の子の柔らかいその感触のせいで、僕までどうにかなってしまいそうだ。
近くで見ると、すごい美人だ。こんな女性を抱ける男はきっと幸せなのだろう。
「ねえ、もういいよね」
「…」
どくんどくん。僕の心臓は早鐘をうつ。全身の血液が熱く体内を巡り、体温が上昇している感覚がある。
壬生さん。僕は…
「…ごめん、宗像さん」
僕はなんとか声を絞りだした。
「どうして謝るの?」
「だって、抱けないから。本当にごめん」
「私の体、好きじゃない?」
「ううん、大好きだよ」
「なら顔がダメだった?」
「そんなことないよ。宗像さんはすごい美人だよ。もし彼女がいなかったら、絶対抱いてたよ」
ふぅ、と宗像さんは溜息をつく。
「ならどうして根東くんは私のお尻を触っているのかしら?」
あれ?いつの間に?
僕の両手はいつから彼女のお尻を触っていたんだ?なんか僕の手のひらが幸せな感触に包まれてるなあって思ってたけど、そういう理屈か。
宗像さんのお尻は、すごかったです。
「す、すいません!これは不可抗力で!」
「あん💓」
――急に力入れちゃダメだよ、と宗像さんは僕に注意する。すいません、すぐに手を離しますね。
「うーん、根東くんの体はどう見ても私の体を欲しがってるみたいだけど、それでもダメなの?」
「いや、違うんです。聞いてください」
「うん?どういうこと?」
宗像さんがきょとんとした顔をする。あ、こういう顔もできるんだ。
「宗像さんじゃないんです、壬生さんなんです」
と僕は正直に告白することにした。
「この興奮は、壬生さんが寝取られるかもしれないという危機感から発生した興奮であって、宗像さんに対する興奮じゃないんです。僕の頭は今、壬生さんでいっぱいで、とても宗像さんを抱ける状態ではありません」
「…うん?ごめんね、何言ってるのかちょっとわからなかったかな」
あれ、通じなかった。おっかしいなあ。壬生さんだったら今の説明で一発で理解できそうなんだけど。
宗像さんはなに言ってんだこいつ?とでもいわんばかりの表情だ。うん、ちゃんと説明した方がいいね。
「えっとですね、つまり僕は今、壬生さんのことで頭がいっぱいで、宗像さんのことに集中できないってことですね」
「うんうん…で?」
「それでですね、これからエッチをするという時に他の女の子のことを考えながら抱くだなんて不誠実なこと、僕にはできない。だからお願いです。エッチはやめてください」
「…うん?えーと、つまり根東くんは私で興奮しているわけではないってことかな?」
「はい、その通りです」
「私って、そんなに可愛くないかな?」
「そんなことないです!」
それは違う、だから僕はそこだけはしっかり否定したい。
「宗像さんはとても魅力的な女性です。それに間違いはありません。だからこそ、だからこそなんです!あなたのような素晴らしい女性を抱くという時に、他の女性のことを考えるだなんて、そんな不誠実で失礼なこと、できるわけないじゃないですか!僕は壬生さんが好きです。壬生さんが喜ぶことをしてあげたいとも思う。でもだからって、そのためなら宗像さんを傷つけても良いというわけではないじゃないですか。壬生さんや僕の性癖のために、宗像さんを傷つけるような事はできないです。だからお願いです、今日はやめてください」
「…うーん、来沙羅のことを考えながら抱くのは失礼で私を傷つけるからダメ。それってつまり、私のことも大切に思ってるってことでいいのかな?」
「はい。そうです。今日一緒にデートしてみて、僕、宗像さんのこと、誤解してました。宗像さんのこと、勝手にエッチな人だと思ってた。でも違った。宗像さんはすごく良い人です。宗像さんみたいな良い人を傷つけたくない、できれば守ってあげたいとも思いました。恋人とは違いますけど、宗像さんも大事な人です。だからこういう形ではやっぱり抱けないです」
「うん、そっか」
――なら仕方ないね、と宗像さんはすっと僕からどいて、スマホを手に取った。
誰かにメッセージを送っているのだろうか?ぱぱっと画面をタップしてメッセージを送ると、「はい、もう安心だよ」と僕に微笑んでくれる。
「根東くんとはエッチしないってメッセージ送ったから、もう来沙羅はエッチしないよ」
「え?本当に?」
「ええ、本当ですよ」
……よかった。本当によかった。
それがわかると、どっと力が抜けた。なんとか持ち堪えることができた、壬生さんは寝取られずに済んだ、それがわかって本当によかったよ。
「う、うう、うう…」
「あらあら、泣いちゃって。本当に辛かったんだね」
宗像さんは僕にそっと寄り添ってくれる。それは先ほどまでのエッチな雰囲気のある宗像さんとは違い、優しい聖母のような、包容力を感じさせる雰囲気があった。
「ごめんね、ひどいことしちゃって。そうだよね、こんなのってないよね、嫌だよね」
「うん、うん…」
「よしよし、今はゆっくり休むと良いよ」
宗像さんは僕の頭をぎゅっと抱きしめ、優しく僕の頭を撫でてくれた。それがすごく嬉しくて、僕もぎゅっと宗像さんを抱きしめていた。
なんだろう?宗像さんの胸の中にいると、すごく癒される。やっぱり宗像さんは、本当はすごく良い人なのかもしれない。
そうやって彼女の胸の中で癒されていると、やがて僕の精神も回復していき、なんだか急に恥ずかしくなって彼女を抱きしめる腕を解いた。
「うん?もう大丈夫?」
「えーと、うん、大丈夫。ありがとう、宗像さん」
「どういたしまして」
「あの、今のはその…」
「大丈夫。ただ抱きしめただけだから、エッチじゃないよ」
そうだよね。あっぶねー。今のがエッチにカウントされてたらさ、壬生さんが寝取られちゃうよ。
そうだよ、今のはエロい意味の抱くじゃないから。健全な意味の抱擁だから、だからセーフだよね。
「それより根東くん、シャワー浴びた方がいいよ。雨で濡れたままだし」
「あ、そうだった。うん、シャワー浴びてくるね!」
雨で濡れたといっても、すでに僕の服は乾いている。きっと涙で汚れた顔を洗った方がいいって意味なのだろう。
僕はそんな彼女の気遣いに再び心が癒される。
宗像さんは彼女ではない。ではないのだが、それでも大事にしてあげたい素晴らしい女性だった。良い出会い方ではなかったけど、それでも出会えてよかったと思う。
僕は服を脱ぎ、シャワーを浴びる。温水が体を温めていき、気分が良い。流した涙もシャワーの温水と一緒に流されていった。
ふぅ、もういいか。僕はシャワーを止め、服を着て扉を開ける。部屋に戻ると、目を見開き、真っ赤に頬を染めた宗像さんがいた。どうやら何かを見て驚いたようだ。
あ、そうだった。ここマジックミラーだった。
「あ、大丈夫ですよ、僕、宗像さんがシャワーを浴びた時、壁を見てたんで!」
「え?ああ、そう、それで。根東君は、うーん、ずいぶんご立派なものをお持ちなんですね」
まずい、見られてしまった。
宗像さんもすでにバスローブから服へと着替えを終えていたのだが、僕の下半身の方をじっと見つめ、ごくりと唾を飲み込むと、「すごいですね」となぜか賞賛してくれた。
「根東くん、私たち、もうお友達ですよね」
そろそろ帰り支度をしようという時、急に宗像さんに声をかけられる。
「え?ああ、うん、そうだね。友達だよね!」
「これどうそ」
といって手渡したのは、僕のスマホだった。あれ、なんで宗像さんが持ってるのだろう?
「私、根東くんのこと気に入っちゃった。もし来沙羅に内緒でエッチしたくなったら、いつでも呼んで良いですよ♡」
どうやら彼女の連絡先がすでに僕のスマホに入っているらしい。
こうして僕は、いつでも呼べばエッチできる女友達を手に入れた。
…いや、呼ばないよ。だって僕には壬生さんって彼女いるもん。
「根東くん、これよかったらどうぞ」
帰り際、宗像さんは僕にゴムをくれた。Lサイズだった。
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